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ビジネススキルの一つ?ベトナムのお茶飲み文化

 ハノイの街に出てみると、道路沿いのカフェに小さなプラスチック製の椅子がたくさん並んでいて、昼間からおじさん達が嬉しそうに集まってお茶を飲んでいる。地面に小さな駒を並べて何かゲームをしていることもある。この人たちはどんな人なんだろう?と思いながら通り過ぎる。カフェの中に入ると恋人たちが席を隣り合って座っている。ベトナムではカップルは対面式ではなく、横並びに座ることが多い。2人で同じ景色を見たいといういじらしい感覚が伝わってくる。可愛い二人だ。私はこのスタイルを結構気に入っている。レストランでは対面式に座るとどちらかから外の景色が見えなかったり、「特等席」が片方になりがちだ。でも隣り合えば2人で同じ景色をシェアできる。幸せな解決だ。日本に帰って来てからも景色の良いお店で許されそうな雰囲気だったら隣同士にさせてもらっている。
 お茶飲みといえば、忘れられない思い出がある。ベトナムで暮らした2年目、私は自社商品を扱う代理店を担当することになった。代理店の営業担当は英語を話せる人はおらず、突然ベトナム語のみの環境に入ることになった。いくら外国語が好きで海外の人と交流するのが好きとはいえ、仕事で英語以外の外国語を使っていくことに不安があった。担当して1ヶ月目、新しい仕事、新しい環境で右も左もわからなかった私は「まず、代理店の人がどんな人たちなのか知ろう」と思った。その頃の私はほとんどベトナム語が話せなかったが、ある日の午前中、代理店の一つに行ってみた。営業部長と会い、英語とほんの少しのしどろもどろなベトナム語を紙に書いてどうにか会話した。そうこうしているうちにお昼ご飯の時間になってしまった。営業部長部長は少し困ったような優しい笑顔で「お昼ご飯食べていく?」と聞いてくれた。これは京都人的な「ぶぶ漬け食べはりますか?」の意味合いで言っているのではなく、本当に誘ってくれているのだ。以前、ベトナム人の同僚と別の代理店を訪れた時にも昼食をいただいたので、そういう文化があることを知っていた。代理店から2軒くらい先に歩いたところに小さな食堂があり、一つのプレートに醤油ベースで煮込んだ豚肉、青菜炒め、大根を細く切って茹でたものが乗っていた。プレートの空いているところに営業部長がご飯をよそってくれる。営業部長のAnh Hoàngは無口で何を考えている人なのだろうと思っていたけど、シャイな優しい人だった。昼食のあと、「お茶していく?」と誘ってくれた。本当は昼休みの時間は過ぎていたけれど、前にベトナム人の同僚だけが昼食の後のお茶に誘われたのを見ていたので、一人前の代理店担当になったような気がして「はい!」と元気よく返事をした。お茶を飲む場所は食堂の一つ隣にあり、飲み物を作ってくれるおばちゃんが待機していた。どんな種類があるのかわからなかったので「同じものを」とお願いした。するとおばちゃんはベトナムのライム"chanh"を絞った水に大匙一杯位の砂糖をサラサラ入れた飲み物を出してくれた。酸っぱさと甘さが強く口に広がった。たくさん飲めるような気がしなかったが、Anh Hoàngに合わせて飲んだ。妙に思い出深い好ましい味になった。飲みながら「どうしてベトナムで働きたいと思ったの?」「日本に帰りたいと思う時はない?」とポツポツと質問してくれた。言葉多く話せた訳ではないが、小さなプラスチックの椅子に座り、道路沿いで土埃を上げながら走る車を眺めながら話をしていたら何だか彼と親しいような不思議な一体感が生まれて来た。ベトナムのお茶飲み文化は外国人である私まで優しく取り込み、不思議な親しさを生み出してくれる。道路沿いの小さなプラスチックの椅子に座っていつもお茶を飲んでいるおじさんたちの気持ちが少しだけ分かったような気がした。

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