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運命の別れ道
人生にはちょくちょく分岐点や別れ道みたいなものがあって、「あの時こうしていたら……」みたいなものは誰にだってあるんだと思う。もちろん私にも後悔した過去は様々ある。
でもまあそんな過去を振り返っても仕方ない。それよりも、今とこの先をどう生きるかが大事なわけですよ。
ネガティブな私も、意外とポジティブに生きている。
ただ、「あの時こうならなくてよかったな」という逆の記憶ならよく思い出すものがある。
まだ私が幼い時分、群馬の桐生市に住んでいた頃のこと。
当時は家族で、よく太田市や隣県の足利市に出掛けていた。その日も確か、その辺りの大きいデパートに買い物に出ていたのだと思う。
母が買い物をする間、祖母は私を連れて、デパート上階にある子ども用のスペースへとやって来た。
ソファのような素材で出来た、円形のスペース。
その中で子どもたちは備え付けのブロックやおもちゃで遊び、保護者は周りに腰掛けて見守ることができるアレだ。私は祖母に見守られながら、そこで遊ばせてもらっていた。
その最中、ほんの一瞬だけ祖母がそのスペースの周りにある自販機で飲み物を買おうと、離れた時のこと。
出てきた飲み物を拾って、私がいる方を振り返った時、私の背後から身体を掴もうと手を伸ばす若い男が居たのだ。
「あんた何やってんの!!」
咄嗟に祖母は大声を出してその男を怒鳴りつけ、勢いそのまま私の方に駆け寄ってきた。
男は逃げたが、祖母は私の安否を重んじて男を追いかけることはしなかった。
その時の周囲の反応は覚えていないし、それに関して祖母から聞いたこともないが、この事自体はとてもよく覚えている。
なぜかと言うと、不思議とその時、私は祖母の視点から私を見ていたのだ。
何を言っているのかわからねーと思うが、おれもどういうことか未だにわからないんだ……
(今考えると、ゲームの『SIREN』で言う屍人の視界ジャックみたいなイメージで見えていたように思う。)
それはさておき。
とにかく見知らぬ男におそらくは誘拐されかけたような事案だったわけだが、そのことを成長してから思い返したときにゾッとした。
「北関東連続幼女誘拐殺人事件」。
もしこれが犯人が逮捕されないままのあの事件の一端だったとして、あのまま連れ去られていたら。私は今、ここにいないかもしれないのだから。
その頃の記憶はほとんど無いが、これだけはきっと一生忘れないだろう。