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プロのカメラマンなんですが、写真を撮りたくなったんです

機材の進歩はハンパない。一眼レフの時代はそろそろ終わりそうだし、新しいiPhone XS MaxとかHuawei P20 proとかはEOS KISSと素人目には見分けがつかない写真を簡単に撮れるようにした。

ホント、20年にわたって磨いてきた機材の扱い方とPhotoshopのスキルはいったい何だったのか?と思ってしまう。

夏にHuawei P20 proを手に入れて超高感度写真や背景ボケボケ写真を撮って、facebookで山ほどのいいね!をもらってふと考えたのは「このいいね!って私にじゃなくてカメラにじゃね?」っていうこと。

そして仕事でもある動画でジンバル(スタビライザー)とドローンを多用するようになってから、自分の構図がどんどん雑になってゆくのを感じていたこともある。そもそもファインダー覗けないし、動くことが前提だから構図は厳密に決められないし、うにうにしているとみんな喜んでくれるから、基本構図っぽくきれいに見えるっぽい動きをさせていると、だいたいいい感じになるので、それで満足してしまっている。

でも、自分らしさってそこには何も出ないし、わくわくは少ない。そして新しい機材でしかできないアメージングなショットは、だいたい数年後にスマホで撮れるようになって、こっちは高いお金出してまた新しい機材を買う繰り返し。

私は写真家ではなく商業カメラマンなんで、個性なんて不要といえば不要なんだけど、新機材に追われ、数年後に誰もが撮れるようになるショットをちょっとだけ早く得意げに出すだけのカメラマンって、あまりに虚しい。

なので、原点に戻ってちゃんと写真を撮ろうと思った。そして買ったのが2011年発売の超旧機種FUJIFILM X100だ。

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ズームもない、オートフォーカスも遅い、フルハイビジョンの動画も撮れないくせにSONYのαシリーズよりバカでかいボディ、しかも当時の価格は15万円。今はヤフオクで3万ちょっとだけど。デザインだけは美しい。整いすぎててじゃじゃ馬好きな私はちょっと物足りないんだけど。

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このカメラのいいところは、その昔に写真を撮るやり方をそのまま再現できるマニュアルの操作性。フォーカスボタンの穴はフィルム時代のカメラにはよく付いていたもので、長時間露光するときの遠隔レリーズとか、ゼンマイ式のタイマーとか付けられる。そのパーツがそのまま使えるようにしてある。

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そして、買う理由となったのがこのレンズ。フルサイズ換算35mmのf2。APS-Cの大きなセンサーサイズで、この大口径レンズを付けたカメラとしては実は破格の軽さと本体の薄さを実現している。そしてこのレンズが、見た目と裏腹にすごくじゃじゃ馬で、魅力的すぎる昔っぽい設計。

逆光では盛大にフレアが出て、絞り開放にするとピンぼけのように甘くなる。近距離ではオールドロシアレンズのように回転ボケとか出ちゃう。

しかし、鏡筒が伸びないレンズなのに最短撮影距離がなんと10cm!そしてこの小ささでとろけるような美しいボケを作ってくれる。撮った写真を見たら、それは作り物ではなく、当たり前だけど本当に「写真」なのだ。

スマホのフィルターで「レトロ」とか「グレイン」とか「ヴィンテージ」とか好んで使われるけど、要するにあれを作り物ではなく自分のスキルで実現できる。

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まず、シャッター速度を決める。昔ながらのレンズシャッター(説明すると長いので省略するけど愛着のわく可愛いシャッター)だから最高速は早くないけど、遅い速度で流し撮りは逆にこっちのほうがきれいに撮れる。

シャッター速度を自動にしたいときは、Aの場所に置く。

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つぎにファインダーを覗く。一眼レフではないから見たまま撮れるわけではない。ファインダーはただの素通しのガラス。ストリートスナップはみんな昔はこれで撮った。キャパもブレッソンもこれで名作を量産してる。細かいこと全部抜かして、瞬間だけにこだわれるところが利点。

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そして、世界初と言われる「ハイブリッドビューファインダー」が面白い。これは素通しガラスのファインダーに、液晶で横からフォーカス位置や実撮影の像のずれの量を教えてくれるだけでなく、この昔のゼンマイ式タイマー風レバーを触ると、現代の電子ビューファインダーに切り替わって、正確なマニュアルフォーカスなどに使うことができる。

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そして、マニュアルならフォーカスダイヤルでフォーカスを合わせ、ボケの量を絞りで決定する。そしてシャッターを押す。昔はみんなそうやって撮ってた。親父の形見のPENTAX SPもシャッターにAポジがない以外は基本は同じ操作性だった。

最近はファインダーがあるカメラでも、バリアングル液晶のほうが使いやすいので、それっばっかり使ってファインダー不要だわということも多い。SONYのコンデジRX100m5もファインダー付いてたけど、あまりに小さくて引き出さないと使えないし、マニュアル操作がめちゃやりにくいから殆ど使ったことはない。

つまりカメラ任せではなく、全部自分で決めるのがこのカメラの使い方。

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ばあちゃんが使っていたOLYMPUS-PEN EEDのレンズは32mm f1.7という大口径レンズだけど、すごく小さいサイズだった。フィルムサイズはハーフで、X100と同じ今で言うAPS-Cサイズなのだが、この小さい大口径レンズがなぜ今のカメラで実現しないのかは、たぶん湾曲とか収差とか逆光耐性とか解像度、周辺光量や像流れなどすべての弱点を克服すると、サイズが大きくなるのだろう。このX100のレンズが小さいのは、つまり逆光耐性や開放時の解像度、周辺の像流れなどいくつかの欠点に目をつぶっているんだと思う。いや、むしろそこがオモシロイと思ったのかも。

でも絞ればかなりの高性能で湾曲とかは全然ないし解像度も高い。犠牲にしたのは近距離での解像度と、開放時の逆光耐性のようでそれ以外は極めて性能が高い。おもしろい設計だと思うし、端正な顔立ちと容姿に似合わないこのじゃじゃ馬ぶりに購入意欲が突然湧いてきたわけだ。

が、35mm1本だと実用度は低い。仕事ではまあ使えないし、と躊躇しているときに見つけたのがテレコンバーター。通常一眼レフにつけるテレコンバーターの多くはレンズの根元側に付けて、付けると画角が1.4倍~2倍の望遠になるんだけど、それとともにfドロップと言って、絞りの値も1.4倍から2倍に暗くなる。これではボケ味も半減である。

しかし、X100用に用意されたテレコンバーターは、35mmレンズとの一体設計で50mm f2のレンズになるように連続したレンズ群として設計されていて、つけると別のカメラに変身する。

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まるで最初からそこに着いていたような、は、明らかに盛り過ぎな表現だけど、フォルムが別のカメラっぽく見えるのもかっこいい。ただし、重い。このテレコンバーターだけで、一眼用の単焦点レンズ1本分だ。でも、最短撮影距離はこれを付けてもレンズ先端から10cmくらいまで寄れて飯テロ、女子テロとしてはレンズの像流れや解像度が甘くなる欠点もむしろ活かして恐るべき武器になる。

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このカメラをきっかけに、FUJIFILMは大衆向けコンデジメーカーから、趣味の高級機市場で頭一つ抜きん出た存在感となり、デジカメ事業も黒字になるという大逆転劇を演じるのだが、電子的な性能は同時代の他のデジカメと比較しても全くしょぼいんだけど、これで写真を撮ることが楽しくないプロカメラマンなんてまずいないと思うくらい、こいつは腕のふるいがいのあるカメラだと思う。

15万出して趣味の道具は買えないんだけど、3万円台になった今なら買える。しばらくはこれで写真の腕のリハビリをしてゆこう。



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野水克也(nominomi)
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