見出し画像

【能登半島地震】家の耐震についてAbemaTVで言えなかったこと

支援業務と自分の生活再建のため書く時間が取れなくなっています。このためしばらくの間、@Nahomamamuu さんに校正や編集をお手伝いいただいています。ありがとう。

先日、Abema TVに出演しました。私もリノベ中の古民家が全壊した被災者の立場でお話してきました。

今回の地震では新耐震基準(震度6〜7でも倒壊しないこと)を満たしていても倒壊している家がかなり多いです。鉄筋コンクリート造の建物ですら倒壊しているほどです。

私の古民家はもちろん新耐震基準を満たしていなかったのですが、建物が元郵便局で頑丈な作りだったこともあり倒壊は免れたものの、建物自体は斜めになって天井は落ち、屋根に穴が空き、全壊してしまいました。

今回の地震を受けて専門家からは「一番避けなければいけない被害は”倒壊”してしまうこと」という意見が出ています。私もそう思います。

そのあたりの話をAbema TVでも話してきたんですが、番組で気になっていたけど時間切れで言えなかったことが大きく二つほどあるので書いてみます。

一つはなんとなく都会から見た田舎の災害として扱われている気がすること、そしてもう一つが耐震基準そのものの定義です。


田舎だから大災害になったわけではない

これは田舎暮らししている私のひがみかもしれないんですが、「田舎の家だから古くて脆弱だった」とか、「過疎地の防災を見直さなきゃいけない」みたいな雰囲気がちょっと気になりました。

今回の震災の特徴は、震源が陸地で震度の高かった地域がすごく広範囲だったということです。 能登半島の口から上の先端部分(犬の顔?)は東西に70キロ位あるのですが、これは千葉市から八王子市までの距離に匹敵します。

ほぼ全域に渡って家屋倒壊、がけ崩れ、道路の陥没、水道損傷が続出した広域災害

その全域が震度6強から震度7の揺れに見舞われました。
田舎の家は耐震基準は満たしていないかもしれないけど、 柱は太いし造りは昭和に建てられた都会の建物よりはおそらく頑丈です。例に出して申し訳ないですが、浅草や小岩、世田谷の古い住宅地に比べればはるかに頑丈な家になっています。

もし東京で今回同様の地震が起こったら、八王子市から千葉市にかけて走るJR中央・総武線の横幅15キロ範囲が3割以上倒壊するという、とてつもない大災害になると思います。 地震の規模的には大正時代の関東大震災と今回の能登半島地震は同程度らしいのですが、関東大震災は震源が東京の陸地部分ではなく東京湾、東京からもう少し南の木更津から三浦半島にかけてのエリアでした。

なので、当時東京が見舞われた揺れより今回の地震はかなり大きいと言うことになります。

どんな家が倒壊しやすかったのか?

統計データになっているわけではないので個人の主観なのですが、自分の集落の周りや隣の集落を見る限り、 古い家は確かに斜めになったり、屋根に穴が開いたりしているケースが多いですが、その中でも倒壊してしまったところは昔の商店や車庫みたいに1階部分が大きく開口した構造になっているところです。

そうした建物は建築年代にかかわらず、かなりの確率で倒壊しています。 反対にそういった構造でなければ、古い住宅でも壊れ方はひどいものの倒壊せずに済んでいるところが多いです。特に平屋はかなり古くても倒壊していないのです。たぶん東京だったらもっと倒壊するでしょう。

道路がボコボコになれば都会だって移動できない

交通事情も同様です。
能登半島は三方を海に囲まれているので確かに道路網は脆弱でした。今回、私の家の周りでは300メートルごとに大きな穴が開き、アスファルトがめくれ上がり、崖崩れもあったため、車が通れるようになるまでにはかなりの時間を要しました。
電車も線路も曲がったり凸凹になったりしていて走れません。(能登は汽車ですが)

道路標識が鉄柱ごと倒れて輪島への道が塞がれた県道一号線(輪島市三井町小泉)
1月2日までは軽トラ以外は通行できなかった


上の写真から800mほど輪島市街方向へ進んだところ。ここはかなり長い間復旧しなかったがうちの町内が迂回路になった。ただし緊急車両で大渋滞になった


一方、田舎のメリットで、農機具や重機等を持っている住民がそこそこいました。そういう人たちが自衛隊などの車が通れるように1日で道を広げてくれました。

「田舎だったから倒壊家屋が多かった」のではなく、その逆で「田舎だったからこれぐらいの倒壊で済んだ」のだと思います。

都会に住む自分の家が頑丈だったとしても、道路が通れず、電車が走らず、商店街がぐちゃぐちゃになれば、都会の人だって誰も逃げられません。 なので、都会の皆さんこそ、こういう事態になったときにどうするかはちゃんと対策しておいたほうがいいと思います。

自分の家が壊れないからといって命を落とさずに済むかというと、それはまた別の話だということです。

耐震基準で建物が無事でも地盤ごと動くとどうしようもない

もう一つは耐震基準そのものの話です。 現在の耐震基準は旧耐震基準が震度5程度の地震で倒壊しないレベル、新耐震基準は震度6強~7程度の大規模地震で倒壊しないレベルが求められています。

しかし、今回体感して思ったのですが、「震度1から震度5強までの揺れの差」よりも「震度5強から震度6までの揺れの差」の方が断然大きく感じました。
揺れ方にも種類はいろいろあって、今回は木造家屋が壊れやすい揺れ方だったようですが、私の家の隣にある鉄筋コンクリートの医院も1階が潰れてしまいました。それくらい激しかったのです。

私の家の隣の医院、鉄筋コンクリートの柱が折れて1階が潰れています

倒壊しない建物にするためには、耐震基準はすごく重要だと思います。 家が斜めになろうと屋根に穴が空こうと、倒壊さえしなければ死ぬ確率は格段に低くなります。

しかし、その家が「地震の後も住めるかどうか」という観点で見ると話は違ってきます。 今回、奥能登から100キロ近く離れた金沢郊外の内灘町で大規模な液状化が起こりました。

液状化が起こった地域周辺では、倒壊した家がほとんどなかったにもかかわらず、 液状化で地面がぐちゃぐちゃになってしまったため、家が基礎ごと斜めになったり、基礎自体がつぶれたりしていました。

液状化でコンクリート枡が飛び出したり電柱が沈んだり。周囲の家は基礎ごと傾いてしまったところも多かったです
山津波のように地盤ごと滑り落ちてしまっている地域

新興住宅地だったので、建ってから10年経ってない建物もたくさんありましたが、気の毒なことにみんな斜めになっています。 こうなると、建物の耐震基準はいくら上げたところで住み続ける事はかなり難しいです。 つまり、「命を守ること」と「建物が壊れないようにすること」はかなり違うんだなと思います。

被害には様々なケースがあり完璧な基準なんてない

私に限って言えば、 500万かけて耐震工事をしていてもたぶん建物は大規模以上の半壊で住み続けることは不可能だったでしょう。そういう意味ではせずに良かったかもしれませんが、揺れがあと10秒以上続いたらたぶん倒壊して死んでいたかもなので、やっぱりかなり危険でした。正直こういうのを見るとどうすればいいか迷います。

今のところは、次に建てるとしたら倒壊はしないけれども壊れるのはしょうがないかと言うレベルで留めておいて、インフラがある程度自給できる設備にお金をかけようかなと思っています。
かけられるお金の額には限りがあるし、家に潰されるか借金に潰されるかの選択になれば、それは法や誰かに強制されるものではなく、自分で選択するものですからね。

液状化の現場を見て、次に絶対に壊れない木造住宅を高いお金で建てる事はあんまり意味がないなぁと正直思ってしまいました。

今回の教訓

・崖下と崖上はダメ、絶対(特に造成地)
・1階に開口部が多い家はすぐに耐震工事したほうがいいよ
・液状化のリスクの高い家は基礎ごと斜めになる可能性高い
・インフラも食料もなく移動もできない事態に備えた方がいいよ

本文に書いてないことまで書いて、全然まとめになってないけど、要は耐震性能上げたら生き残れるってことは必ずしもないってことです。(特に都会)

公益財団法人ほくりくみらい基金からのお知らせ

もし何かしたいと思ってくださる方は、ぜひこちらの方に寄付やボランティア登録をお願いします。
既にご寄付くださった方、本当にありがとうございます!!
今回は緊急助成ということで、バックアップも揃わない状態ですでに被災地に入って活動している団体に優先的に助成を出しています。

審査も毎日行い、できる限り早い支援を目指しています。支援先団体の取り組みについても随時報告してゆきます。

スキ!は遠慮なくお願いします。拡散されることが励みになります!


この記事が参加している募集

今は寄付ページへの寄付をお願いしていますが、こちらも気に留めていただきありがとうございます。 この先どうなるかわかりませんが、サポートいただけましたら、被災地支援活動がおちついたら自分自身の生活再建に使わせていただきます。