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パズーの魔法の鞄

【男子が一番、嬉しいことについて】

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ジブリアニメのなかで一番好きな作品は『天空の城ラピュタ』。

冒険活劇としての面白さはカリオストロも双璧だが、理由は“とても好きなシーン”があるから。

物語の前半、地下鉱脈の中でパズーは小さな肩掛け鞄からオイルランプを取り出し、さらにフライパンで目玉焼きのオープンサンドを調理する。

「パズーの鞄てまるで魔法の鞄みたいね、何でも出てくるもの。」とシータが歓声をあげるあのシーン!

美少女からこう言われて、得意絶頂にならぬ男子はいないだろう。

「自己の有能さ」と所有する「道具の有用性」を他者から認められることは、男子にとって一番嬉しいことだ。

鞄の中には他にナイフとリンゴ1個とアメ玉2つが入っていることはファンの常識だが、パズーの鞄が“魔法みたい”なキモは、その「小ささ」にある。

第一、大きなリュックから引っ張り出したのでは絵にならないし、きっとシータもさほどトキメかなかっただろう。

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日本人のDNAには、「小さくて価値あるモノとコトを求める志向」があるといわれる。

たとえば、扇子・トランジスタラジオ・小型乗用車に代表される「小型高性能のモノづくり」は日本のお家芸である。

さらに、四畳半・床の間・茶室・盆栽・活け花・短歌・俳句......

家電や乗用車に限らず、日本人が発明した「小さきモノとコト」はたくさんある。

ではなぜ、日本人は「小さきモノとコト」が好きなのだろう?

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学生時代、『縮み志向の日本人』(李御寧 イ・オリョン 著)を読んだことを思い出した。

ベネディクトの『菊と刀』に並ぶ、日本文化論の名著で小さなものに「美」を認め、あらゆるモノとコトを「縮める」ところに日本文化の特徴があると論じた。

イ・オリョンは日本人の「縮み志向」を入籠型・扇型・姉さま人形型・折詰弁当型・能面型・紋章型の6種に分類している。

なかでも「折詰弁当型」はとても分かり易い。

日本ではすでに飛鳥時代、豪族が山野遊びする際には「行器」・「重箱」を携行し、農民は畑仕事に出かけるとき「曲げわっぱ」・「破籠」を持ったと云われている。

持ち運びに便利なさまざまな弁当容器が発達し、そこに食材をどのように詰めるかという工夫がなされ、細かな間仕切りも生まれた。

イ・オリョンは日本人は「詰める」ことが好きな民族だとしている。

他にも「畳む」、「寄せる」、「削る」......あらゆるモノとコトを「縮める」ための日本的手法は多様である。

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感動のラストシーン。

空賊船タイガーモス号 の見張り台は、ハンドルを廻すと畳まれていた翼が開き、ワイヤーを張れば凧になる。

二人はこれに乗りこみ、新たな冒険の旅へと飛び立つ。

魔法の鞄に加えて、この「絵に描いたようなハッピーエンド」も一番好きな理由である。