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”場所”がつくるおもしろさ。東京の美大生の作品を天草のギャラリーに飾るまで

農家民宿をしている我が家のコワーキングスペ―スで小さな小さなギャラリーをはじめました。

展示しているのは、東京の美術大学に通うヨシダエイさんの作品。
鳥とねこをモチーフにした、カラフルでポップな色使いが特徴のイラストです。

アートのことは、まったくわからない私ですが彼女の描くイラストには不思議な力があると思いました。

ヨシダエイさんと出会ったのは、2021年3月のことです。

この記事では、作品を交えてご縁をいただいた美大生のヨシダエイさんの独特な考え方を紹介します。

どうやって東京の美大生とつながったのか

大学がない天草は、18歳〜22歳の人がとても少ない地域です。

「出会う機会の少ない、年の離れた若い人たちと話してみたい」

普段からそう思っていた私たちは、この春にbosyu(※)というサービスで「天草に来てみませんか?」と募集をかけてみました。

すると、エイさん含む2人の女子大学生が応募してきてくれたのです。

募集を出して1時間もしないうちの応募でした。天草ゆきを即決したことになります。

なぜそんなに短時間で決められたんだろう?

興味を持ってくれた理由を聞いてみると、こんな回答がありました。

「田舎の農家のおじさんがbosyu使ってる!どんな人だろう」と。

募集は夫がしていたので、大学生の彼女たちからするとものめずらしかったようですね。

※bosyuは2021年6月にサービス終了しています。

インスピレーションの種は小さな驚き。作品が生まれるとき


上の絵は、彼女が天草訪問後に描いたイラストです。

タイトル:「デコの島」

黄色い鳥が座っているのはデコポンです。大きなバンペイユ(注:みかんの一種)を手に持っています。右上にとれたデコが島のように浮いています。

このイラストを描くことになったのは、デコポンを食べた驚きからだったと言います。

温州みかんは、ヘタのない方からむくという人も多いですよね。私もそうです。

しかし、デコポン品種のみかんはデコの部分をちぎってむきます。

「デコの部分をちぎってむいた方が食べやすい」

その体験は彼女にとっては新鮮で「他の柑橘類にはない楽しいポイント」だったそう。

このほかにもヨシダエイさんには、たくさんの鳥とねこの作品があります。我が家のギャラリーにあるイラストで、私が気に入っているのはこちらです。

タイトル:「星飾るねこ」

星を飾っている間は寝てもいい、というルールを自分で作ったねこです。
でも、寝すぎたから、もうそんなに眠くなさそう。

このイラストのテーマは何ですか?という私の質問に、エイさんは上のように答えてくれました。

こうしたイラストは、スケッチブックに向かい合ってアイディアを出しているときにふと、湧いて出てくるのだと言います。

人とのやりとりというか、人としゃべっていると、私、こういうふうに思っていたんだというのが出てきます。それから、自分にとって新しい情報を得たときにもアイディアは湧き出てきます。

同じことを言っても、人によってとらえ方が違うので、こういう人もいるんだって思ったときに、作品につながりますね。

ところが、最近はコロナの影響で人と会う機会が減っていることもあって、アイディアがわきにくい状況が続いているそうです。

実は絵が苦手だった!?鳥とねこが生まれた背景

美大生のヨシダエイさんですが、本人いわく、実は絵を描くのは得意ではないと言います。

鳥とねこのモチーフが生まれたのは、彼女は高校2年生のとき。インフルエンザのため家で安静にしているときでした。

中学生のとき、飼っていたねこをデッサンしていました。ねこだけは自然に描けるようになっていて、そのスケッチをデフォルメしたのが「鳥とねこ」のねこです。

ヒマを持て余していたときに生まれたのが「鳥とねこ」だったのですね。

大学生になって、しばらく鳥とねこのことは忘れていたエイさん。ところが、大学2年生の頃に学校の課題とは別に「何かを描きたい」という思いが湧いてきました。

その気持ちが、ふたたびエイさんをイラストに向かわせます。

色の選び方と画面の分割には自信があったというエイさんが最初の頃に描いた絵はこちら。

タイトル:「まよいこんだ三匹のとり」

色と分割で奥行きが出たり、出っ張ったりするのがおもしろいなと思いながら、いかにバランスよく並べるか楽しんで描いた絵です。最初、鳥とねこはいなかったのですが、このキャラクターが入ることでアクセントになると思いました。

ヨシダエイさんの専攻は服。ちょっと説明が難しいのですが、私たちがイメージする服とは少し違うようです。

洗濯機でガンガン洗えるようなものではなくて、普段は展示しておくような服、と言えば少しは伝わるかもしれません。

「インスピレーションは人とやりとりしたときに生まれやすい」のは、服についても同じだといいます。

これは、私にとって驚きでした。

アートは「何もないところから生み出せるもの」と思っていたからです。
しかし、エイさんは次のように言います。

新しいものが生まれるのは自分の中に基礎があるからこそ。外からの刺激があったとき、自分のフィルターを通じて形になるという感じです。少なくとも、私の場合はそうですね。

美術ってお得だなと思います。何かを見たり、考えたりする日常生活すべてが作品づくりにつながるんですから。陶芸家の母も、よく「生きているだけで儲けものや」って言っています。

「就職しない」から一転。ライフワークとしての鳥とねこ

そんなヨシダエイさんは、就職も視野に入れて活動することにしたとのこと。

3月に我が家に来たときは「就職は考えていない」と言っていたのですから、急展開です。何があったのでしょうか。

迷っていたら、出会いました。それまでは就職したいとも思っていなかったのですが、自分なりの道筋が見えたんです。

母の陶芸の釉薬(注:うわぐすり)がきっかけで興味を持って調べていた会社が、たまたまその日に東京で展示会をしていることを知りました。

だからその日のうちに展示会を見に行って、その日のうちに電話しました。

bosyuを見て天草ゆきを即決したエイさんらしいエピソードだと感じます。

でも、組織に属したらアートに取り組む時間も少なくなりそうです。すると次のように答えてくれました。

最近は卒業製作が忙しくなったせいもあって描けていませんが、鳥とねこは私のアイデンティティのひとつみたいになっています。

他のことを「しながら」やっていきたいですね。働きながら、そういう余裕を持って生きていきたいです。将来は絵本を描きたいという野望もあります。

「説明」の正体。美大生と話して得た気づき

今回、ヨシダエイさんとお話していて、私は普段の自分がいかに論理的な説明を重視しているか、に気がつきました。

私だけでなく、美術館に行ったとき、作品そのものより解説を読んでいる時間の方が長い人も多いのでは?

先のエイさんの作品の解説は、十分に言語化されたものではありません。

でもここで思ったのは、もしかするとどんなものも、最初はそうなのかもしれないということです。

説明とはそれを求める人のために、もっともらしく「あとづけ」されたものなのかもしれない。

そんな気もしています。これは私にとって小さな気づきでした。

”おもしろい”につながる?「リアルな場所」の可能性

現代はインターネットのおかげで、毎日の繰り返しの延長では出会うことのない人たちとも、簡単につながれるようになりました。

異業種の人、地理的に離れている人、異なる文化圏で暮らしている人、年の離れている人。

私はこうした人と出会いたい。
このnoteのマガジンをはじめたのもそうした好奇心からです。

オンラインでもつながることはできますが、リアルな場所には、出会った人を深く知るチャンスがあると思います。

せっかくつながったなら、実際に訪れることのできる「場所」を作りたい。

天草で暮らす我が家が、みかんの栽培や加工品の製造・販売だけでなく、いろいろなチャンネルを作っているのにはそうした背景があります。

農家民宿やADDressの拠点登録をしているのは、知らない人とリアルに出会える場所となるから。

その場所を通じて「まだ見ぬ世界」を知ることができるのではと考えているからです。

「価値は辺境から生まれる」という言葉があります。

いまは、こうしたある種の異文化交流から何が生まれるかは分かりません。ただ、おもしろい。それだけです。

それでも、ゆるくつながった人たちと、数年後、もしかしたら10年後とか20年後に、なにかできたらおもしろいですよね。

知らない世界への扉を開いてくれるのは、人との出会いであると信じています。

そして、この記事を読んで興味を持ってくださった方が、ヨシダエイさんのように天草に遊びに来てもらえると嬉しいです。

ヨシダエイさんのイラストは、天草のコワーキングスペース兼ギャラリーカフェで購入できます。もちろん、眺めに来てくれるだけでも大歓迎。

明日はいつもとちょっと違うことをしてみませんか。

あした、なにしよう。



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