近江から東京まで歩く1日目 〜水口 24/10/02
朝7時に自宅の玄関を出た。遂に大旅行が始まったという感慨深さと、出発の瞬間は案外こんなものかという落ち着きと、双方が相俟った一日の始まりであった。連続ドラマのように特別な音楽が流れる訳でもない。ただ、それでも、道中多少開けた場所に出て、北方に我等が近江富士である三上山が見えた時は、思わず手を合わせたくなった。東国へ行く。滋賀のお山よ、いざさらば。あの山が色付く頃合いに、今度は旅行での思い出を振り返りながら、ああ、あの時はあんな心境であったと、そんな事を言いながら、同じ場所でまた拝みたいと思う。東国の平野は、広いのだろうか。遠州駿州の海は、広いのだろうか。新しさに胸を躍らせ、されど何処か緊張しながら、一歩一歩を大切にして歩き始めたのであった。
今日の目的地は水口のビジネスホテルである。何度も歩いている散歩道を歩く事になったが、重たい荷物があるせいか、普段とは一歩一歩の感覚が異なっていた。そして、今日はやや暑かったのである。石部辺りまでは気持ちよく歩けたものの、甲西の辺りの平野に出ると、南北の山々の間から太陽がどんどん照ってきて、思わず、残暑、という二文字が頭に浮かびそうであった。それでも、野洲川を北へ越えるべくとある橋に差し掛かると、南北の山の間を通り抜けるような、颯爽とした西向きの秋風が吹いた。私はこの風上に向かうのだ、と、改めて決意を込めたのであった。因みに、彼岸花は今日も咲いていたが、今日の道中では今年初めて、背高泡立草の花を見た。野洲川を吹き抜ける風と、その背高泡立草が、今日の秋であった。
なお、明日は早速過酷な行程になりそうなので、そういう意味でもやや緊張している。天気予報によると、明日は一日中雨が降るのである。それもあまり小雨ではないらしい。それなりにしっかり降ると聞く。更に、明日の目的地は伊勢は亀山なので、鈴鹿の山を越えねばならない。この旅行で最初の峠越えなのである。その為には今夜はしっかり腹拵えをして、早々に寝なければならない。そして、ゆっくり湯船に浸かるという時間も大切だと思い、この日記は水口のホテルの湯船にお湯を張りながら書いている。今日はこれからもう一度だけ外出をし、ホテルの近くの松屋で、ご飯のおかわりを前提とした夕食を済ます予定である。湯船で足を休めて、しっかり肉を食べる。こうすれば、明日の大雨と峠越えにも耐えられるであろう。それに加えて、その一連の大雨が去ったら、より秋が深まるだろうとも思うのである。