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逆正弦法則と対戦ゲームとメンタルコントロール

「部屋とYシャツと私」みたいなタイトルを目指そうとしたんですが、文字数が長すぎて無理でした。うん、次は目指す前に気付こうね。
さて、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

今回は「じゃんけんで勝ち組になる方法」です。
どうしてこのタイトルからそのテーマが導き出されたのか、分かる人も分からない人も、はたまた分かるからこそ分からない人もいるかと思いますが、しばしお付き合いいただければ。


まずはもちろん、一般的には一番意味が分かりにくいと思われる逆正弦法則の説明からいきましょう。
次のような状況を考えます。

あるゲームを行います。
そのゲームでは確率50%で勝ち、1ポイントを得ます。
残る確率50%で負けて、1ポイントを失います。
引き分けはありません。
また、過去のゲームの成績と未来のゲームの成績には一切関係がありません。
このようなゲームを繰り返し行います。

この状況を1次元のランダムウォーク、などと呼ぶことがあります。

具体的にはじゃんけんやコイントスを想像してもらえればわかりやすいと思います。
ゲーム単体での勝率は50%に固定されているので、1ゲーム単位で見ると面白さは特にありません。

ここで考えたいこととしては、繰り返した時にトータルで勝っているか負けているか、という点です。
それにしたって、どうせ勝率50%なんだから、トータルでの勝ち負けもプラスマイナス0に収束するんでしょう、面白くない…と思ったあなた。
それは半分正解で、半分不正解です。
あるいは想像している内容次第では半分以上不正解です。

このゲームを十分な回数繰り返すことを考えます。
例えば10,000回やってみましょう。
そして最終結果が出たその瞬間だけでなく、1回1回ゲームを終えるごとに、そこまでのトータルで「勝ち越している」「負け越している」のどちらなのか、記録をつけます。

「そんなことしたって確率50%なんだから、勝ち越している状態も負け越している状態も大体均等に出てくるでしょう」って?
うん、そう思いますよね。
というかそう思ってくれないとこの先に驚きが一切なくなるので一旦そう思ってください。

では実際に10,000回を1セットとして、それを6セットやってみた結果を見てみましょう。

1回ごとの判定に使用したのはGoogle Spreadsheetのrandbetween関数です。

勝ち越し/負け越しがそこそこ均等に現れることももちろんありますが、どちらかに偏った結果が目立つのではないでしょうか。
特に、9割以上も勝ち越しまたは負け越しに偏っている状況が、そこそこの頻度で現れるというのはあまり直感的な結果とは言い難い気がします。

たまたまそういう結果が出たのを画像にしたんだろうとか、6セットくらいでは実態がどうなのかは分からないとか、疑う心は大事です。その心が科学を育てます。
しかし今回はそうではありません。
結論を言ってしまうと実は『偏っている方が確率的には普通です』。
それを数学的に主張しているのが逆正弦法則です。

逆正弦法則(概要)
"1次元ランダムウォーク"の試行回数が十分大きい時、"勝ち越している時間の割合$${p(r)}$$"の分布は逆正弦分布に従う。
ただし、ここで逆正弦分布は以下の確率密度関数を指す。
$${p(r) = \dfrac{1}{\pi\sqrt{r(1-r)}} }$$

この枠内は読まなくても大丈夫です。

数式で書いても結局あまり直感的ではないので、グラフを見てみましょう。

画像にもある通り、グラフ描画はGeoGebraより。

見ての通り、このグラフは真ん中が一番低く、両端に行くほど高くなっています。
これは何を意味しているのでしょうか。

1に近いところは、勝ち越している時間の割合が1、つまり100%に近いということ。つまりほぼずっと勝ち越しているということです。
その部分のグラフが高くなっているということは、そのようなほぼ勝ち越しという状況になる確率が高い、ということです。

逆に0に近い部分も同じようにグラフが高くなっています。
これはつまり負け越し続ける確率も高い、ということがこのグラフから読み取れます。

そして真ん中、0.5のところは低くなっています。
言わずもがな、勝ち越しと負け越しが均等に現れるような確率は低い、ということを意味しています。

まとめると、『この状況では勝ち越しまたは負け越しのどちらかに偏る可能性が高く、逆にそれらが釣り合う可能性は低い』ということです。
はいここ、驚くとこですよ。


さて、このnoteはこれ以上数学的な側面には立ち入りません。
この法則の証明とか、そもそもなぜこれを逆正弦法則と呼ぶのかとか、その他面白い性質であるとか、逆正弦法則と呼ぶもう一つの性質があるとか、その辺りの一切合切を全てスキップします。

とにかく今回私がこの法則を援用して言いたいことは、「勝率50%という一見すると偏りが発生しにくそうな状況なのに、勝ち越し・負け越しは偏る」という事実です。


というわけで無事逆正弦法則の説明が終わったので、後は対戦ゲームとメンタルコントロールの話です。

まずは対戦ゲームの話。
とはいえ今回は具体的な例は挙げませんので、読んでいる皆さんがそれぞれ想像しやすいものを考えてもらえればOKです。
特に1対1で行うゲームの場合、先ほどの逆正弦法則の条件を満たすような状況になることは多いと思います。

あるいは自分の実力にある程度自信があって、勝率が50%ではなくもっと高いところを目指しているかもしれません。
仮にその目標が自分の実力に見合ったものだったとしても、その勝率にきちんと落ち着くまでの道のりは決して平坦ではありません。

もちろん長い目で見れば勝率は実力通りのところに収束します。
先ほどの10,000回×6セットの実験においても、トータルで見れば勝率はせいぜい±0.5%程度の範囲に収まっていて、一番偏っているところでも51%台です。

再掲

しかし逆正弦法則から分かる通り、一度負け越してしまった場合、その後も負け越しの状態が続く可能性が高いです。

今回の前提条件では、過去のゲームの結果は将来の結果に影響しません。
それは取りも直さず、『これだけ負け越したのだからここから連勝して確率が収束するだろう』などということはそう簡単に起こらないという非情な現実でもあります。

あまり多くのことを述べるとギャンブラーの誤謬であるとか、別の話が絡んでくるのでこの辺で止めておきますが、"確率が収束する"というのはそういう現象ではありません。
理論勝率が50%の人がたまたま5勝10敗になってしまった場合、その後は負け越し5をキープし続ける可能性が高い、というのが確率の本質であり、逆正弦法則の本質です。

というわけで変えるべきは考え方の方です。
つまりメンタルコントロール。ようやく第3の登場人物が現れました。


ではどうするか。私の提案は簡単です。
「負けたことを忘れる」ことです。

もちろん負け試合を反省し、教訓を得ることは大事です。
それは今回の前提とは別の、将来の勝率を高めるための行動だからです。

しかし多くの対戦ゲームにおいて、反省点が得られない敗戦が存在するのもまた事実だと思います。
いわゆる運負けというヤツ。

どういうわけか運負けは続きます。
まぁこれも誤謬だと言えばそうなんですが、認識が誤っていようがなんだろうが、体感として続くならそれは続いているのです。
そこを根本から改めることは人間の本能に反するのでできません。

ではどうするか。忘れましょう。
あるいは仕方ないと割り切りましょう。

そうしなかったらどうなるかは、逆正弦法則が教えてくれます。
たまたま負け越した人は、その後どれだけ試合数を重ねても、負け越したままの可能性が高いのです。

だったらそんなくだらない成績を覚えておくのはやめましょう。
ましてや記録を取るなんて愚の骨頂です。今すぐ消してください。
そうするだけで、また勝率50%、勝ち越しも負け越しもない世界に帰ってくることができます。

逆にたまたま勝ち越したらそれを覚えておきましょう。
多少の理不尽すら笑い飛ばせるようになるかもしれません。
逆正弦法則によれば、勝率50%であってもたまたま勝ち越した人は、その後もその勝ち越しをキープする可能性が高いのです。
それは確率的な事実でもありますが、数式を越えてメンタル的にそういう現象が発生したとしても、それはそれで自然なことのように思えるのは、恐らく私だけではないでしょう。


というわけで「逆正弦法則と対戦ゲームとメンタルコントロール」でした。
結論はなんというか、まぁありきたりと言えばありきたりのところに落ち着いたのではないでしょうか。

しかし、ことメンタルに関する話に関して言えば、結論だけが重要なわけでもないのかなと私は思います。
その過程がどのようなものであったかによって、人間は認識を改めることもあります。

もちろん、何が何でも一から十まで猫も杓子もこの記事に従うべきとは思いません。
それでも、コントローラーを投げたりモニターに正拳突きをかましたりするその前に、ふと思い返すことがあれば私としてもこれを書いた甲斐があります。

それではまた。


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