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【ショートショート】「パラレルワールドの世界でも」/来年は

「来年は……」
 意を決して口を開くと、結奈ゆうなは言葉を被せてきた。
「来年のことを言うと鬼が笑うよ」

 結奈にプロポーズをしよう。

 そう決意してからというもの、雰囲気を作って……

 よし、言うぞ!

と、意気込んで言い始めると、核心に迫る前に結奈はことごとく言葉を被せて話題を変える。

 一緒に公園を散歩していて、小さな子供が一生懸命歩いている姿を見たときもそうだった。
「子供って可愛いよな」
「そうだね」

 これは将来の家庭経由でプロポーズをするチャンスだ!と思って切り出そうとした。

「しょ…将来は……」
「将来は少子化に拍車がかかるだろうから、これからの時代は大変だよね。そうそう、少子化って言えばね……」

 何となくはぐらかされているような……。
 それなら雰囲気無視で真っ向勝負!と思ったときもそうだ。

「俺の味噌汁を……」(←古っ!笑)
「味噌汁は塩分濃度に気をつけないとね。でもお味噌は発酵食品だから……」
 栄養学の講義が始まった。
 テキトーに相槌を打つ。
「へー、そうなんだ」
「『そうなんだ』って、そんなことも知らないの?今は男も女も関係ない時代だからね。栄養のことも知っておかないと……」

 もしかして、俺がプロポーズしようとしているのを知って、わざとやっているのか?

 俺と結婚する気がないのか?

 確かにまだ俺の収入は多いとは言えない。
 『まだ早い』ということなのか?
 それとも『付き合うのはいいけど、それ以上は考えていない』ということなのか?

 どういうつもりであれ、はっきりさせないと。

 家でそんなことを考えていたとき、マルチエンディングのゲームが目に入った。

 ……結奈、このゲームをプレイしながら、突然パラレルワールドのことを語り始めたよな。

未来は決まっていないのがいい
もし未来が最初から決まっているなら
何をしても同じ結果になっちゃう
そんなのっておかしいと思う
努力すれば道は開ける
選択肢が変われば未来が変わる
行き着く未来が色々あるから
頑張ることに価値がある

 そんな感じのことを言ってたな。
「だからね、私はパラレルワールドを信じているの」……って。


 そうだ!

 これだ!!

 パラレルワールドだ!!



 クリスマスの夜のこと。
 結奈と2人で夜景が綺麗なスポットを訪れた。

「わー!キレイ!」
 遠くの夜景に目を奪われたように、結奈の視線は釘付けになっていた。

 今だ!!

 平常心。平常心。

 今日のために練ってきたセリフ。

 行くぞ!今日こそ俺の気持ちをぶつけるんだ!

「もし違う人生を歩んでいたら、結奈、君には出会えなかった。だから、この道を……今の未来に続く道を、歩んできた過去の自分に感謝したい」

「和真……」

 パラレルワールド信者の結奈は絶対食いついてくると思っていた。作戦通りだ。

 よし!言うぞ!

「結奈、俺と……」

 『結婚して欲しい』
 そう言う前に、結奈はまた俺の言葉を遮って口を開いた。

「私思うんだよね。人生には色々な選択肢があって、全然違う選択をしていれば会っていないかもしれないし、遠く離れた場所にいたかもしれない。でもね……」

 結奈は俺を見つめた。
 大事なセリフが喉元で留まったまま、出すに出せず、飲み込みに飲み込めず、俺はそのまま硬直していた。

「時間の流れって1人1人違うと思うんだよね。速い人もいれば遅い人もいる。同じ空間にいる人はたくさんいるけれど、同じ時間にいる人はそんなに多くないって」

 時間……?

 結奈が言いたいことが読めなかった。

「それでね、人の雰囲気って、それぞれが持つ時間だと思うの」

「雰囲気が時間……?」
 おうむ返しに問うと結奈はうなずいた。

「だから、もし和真が違う道を歩いていたとしても、私は和真を見つけられたと思う。ううん、絶対見つけた。だって、こんなに同じ雰囲気の人なんていないもん」

 結奈は瞳で俺を捉えて続けた。

「こんなに同じ時間を歩んでいる人なんてどこにもいないもん」

「結奈……」

「和真、これからも同じ時間を歩んでくれる?」

「……え?それって……」

 逆プロポーズ??

 すると結奈は少しうつむいて微笑んだ。
「知ってたよ。和真が何回もプロポーズしようとしてくれてたこと」

 結奈は夜景に目を向けた。

「でもね、私から言いたかったの。前にも言ったでしょ?男も女も関係ないって」

 予想外の展開に何も言えず、ただ結奈を見ていた。

「私からプロポーズしたかったの。ずっと前から言葉を用意して。パラレルワールドの話になるのを待っていたの」

「え!じゃあ、パラレルワールドの話を突然始めたあの時から……」
 驚く俺を見て、結奈は照れくさそうにコクリとうなずいた。

「和真がどう思っているのか知りたかったから……ゴメンね」
 俺が結婚を意識し始める前から結奈はずっと俺を……。


「結奈……ふざけんなよ」

「だからゴメンね」


「俺がプロポーズで……」

「……ん?」


「用意していた言葉よりカッコいいじゃねーか!」



 …………。



「え?そっち?」



 目を合わせて吹き出した。
 そして思いきり笑い合った。

 自然が造った星と人間が造った星、すべての星々が2人を包む中で。




違う道を選んだ世界があったとしても
違う人生を歩んだ世界があったとしても
どの世界の俺も必ず君を見つけるよ
同じ時間を同じ速さで
ずっと歩いているから
来年も再来年も
一緒に
永遠に



こちらに参加させて頂きました。
いつもありがとうございます😊
よろしくお願い致します🙇

#シロクマ文芸部

#来年は

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