【ショートショート】「廃寺の最後の言葉」/沈む寺
ここにあったお寺のことを僕は忘れない。
今は十数件しかないが、昔は百件以上が生活していた山間の集落。
交流の場でもあった皆集寺が人口減少に伴って廃寺になったのは十年以上も前のことだ。
だが、廃寺になった後も人々は草刈りや落ち葉掃きなどの整備を欠かさない。
「ここには思い出が詰まっているから」
みんな口々に言う。
そんな集落に百年に一度と言われる大雨が襲来した。
過度に森林伐採されて露出した山肌。
豪雨は土を少しずつ削ぎ落とし、集落へポタポタと不気味に流れ落ちていた。
その夜。
僕も集落の人も同じ夢を見た。
寺子屋で学ぶ江戸時代の子供達。
大地震で避難所となった寺での炊き出し。
夏祭りのお囃子、縁日、みんなの笑顔。
そして…。
『……』
…え?
ドーン!
轟音が耳をつんざく。
外へ出ると土砂崩れが起きていた。
集落は奇跡的に無事だった。
ただ、皆集寺だけが土砂に沈んだ。
集落への被害を一手に引き受け、みんなを守るように。
『ありがとう』の一言だけを残して。
(410字)
終
こちらに参加させて頂きました。
いつもありがとうございます😊
よろしくお願い致します🙇♀️
※ちなみにこのお話はフィクションです。
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