【ショートショート】「読書週間という魔物」/シロクマ文芸部"秋と本"
秋と本の二大圧力が複合されて完成した『読書週間』という魔物が毎年俺を苦しめる。
ウチの学校では読書週間に、決められた本を読んで読書感想文を提出するという鬼畜な宿題が強制的に発動される。
夏休みの課題にも読書感想文があるのにもかかわらずである。
今回の本は160ページ!
長すぎる!
読書週間の2週間で均等に分けても、1日10ページ以上読まなければならない。
しかももう1週間過ぎている。
……でも読みたくないし。
どこかにこの本の解説動画でもないかなぁ?
……検索中……。
ない!
だよなぁ。
はぁ~……気が重い。
そのとき、メッセージが飛んできた。
春奈からだ!
今、俺が絶賛気になり中の春奈からのメッセージ!
ソッコー開いてみる。
もう本読んだ?
まだだよ😥読んだ?
読んだよ!面白かった!
マジ?内容教えて🙇♀️
自分で読みなよ👊
めんどい💧
面白いから!
読んだら本の話
一緒にしよっ💌
🙆♂️
素っ気なく返答したけど……。
一緒に本の話……?
…………?
マジか!
春奈と二人で?
本のことを話し合う?
二人だけの世界?
ウォッシャァァァ~~~!!
俄然読む気が湧いてきた!!
よし!読むぞ!!
千里の道も一歩から!
この苦役が終われば、バラ色の未来が待っている!!
本を開く。
文字が飛び込んでくる。
文章が頭を回る。
眠くなる……。
ハッ!!
これじゃダメだ!
よし、とりあえず集中して10ページだけ頑張ろう!
………
………
ん?
なんだ?コイツなんでこんなことしてんだ?
は?コイツも……?
あ!そういうことか!
この気持ちわかるわ~……。
じゃあコイツもそういう気持ちで……?
え!違うの?じゃあ何???
……マジか!!そうくるのか!
うわぁ!裏切られたぁぁぁ。
……そ……そんな……。
……(´Д⊂グスン。
「将也、ごはんだよ~」
下からお母さんの声。
え!もうこんな時間?
「は~い」
栞を挟んだとき、残りのページが少ないことに気付いて切なかった。
もっとこの世界に浸っていたいのに、終わりが近いことが残念だった。
晩ご飯を早々に食べ終え、すぐ部屋に戻って読み始めた。
そのときの俺は、読書感想文とか、春奈との楽しいお話とか、まったく考えていなかった。
ただ一つの物語の行く末をこの目でしっかり見届けたかった。
読み終えたとき、もう終わってしまった寂しさに襲われた。
余韻に浸りたいがために、その続きを思い描いた。
その日は寝るまでずっと、その物語のことだけを考え続けていた。
※
次の日の放課後、俺は春奈と本のことについて語り合った。
春奈の感じ方は俺と少し違っていたが、それもまた面白かった。
春奈と話ができることは、もちろん嬉しかった。でもそれ以上に、物語に浸れる時間が持てて、違う視点での感想を聞くのが楽しくて仕方なかった。
「春奈ぁ、他にも面白そうな本あったら貸して」
「お?本に目覚めた?」
「そういうわけじゃねーけど」
春奈から新しく本を借りた俺は、その本に熱中した。
400ページくらいあったが、ページ数の長さはその世界に浸れる長さ。長い物語ウェルカムだぜ!
こうして、読書週間は俺を本好きにしてくれた。
春奈とも仲良くなれたし、良いことばかり!
秋よ!本よ!ありがとう!
あれ?
でも、何か忘れている気が……?
読書週間が終わった次の日に学校へ行くと…。
借りた本に夢中になり過ぎて……。
やってもうたぁぁぁぁ!!
「楠木、罰として感想文プラス漢字プリント10枚。必ず明日までにやって来い💢」
「……ハイ」
結局、秋と本の二大圧力が複合されて完成した『読書週間』という魔物は、今年も俺を苦しめるのだった。
終
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