うちのお雑煮(鰹節と義妹と私)
私はそれほど「お雑煮」というものにこだわりはありませんでした。お正月にお餅を食べるなら焼きたてを生醤油で。それを平らげてしまうとお雑煮はもういいかな、と省略してしまうことも多かったのです。
そんな私にとってお正月にお雑煮が欠かせないものになったのは、削りたての鰹節で引いたお出汁の味を義妹に教えてもらったのがきっかけでした。
何かと贅沢をしている義妹を、正直私はあまり良く思っていませんでした。同じ専業主婦でありながら、趣味や身につけるものなどにとんでもないお金をかけ、高級な暮らしを満喫していることが羨ましいというか、妬ましい(おまけに蝶よ花よと育てられて誰からも大切にされるし、美人だし)。自分じゃ何をしたいかわからないくせに(というか、わからないからこそかもしれません)、義妹を前にすると、私の胸の中は劣等感でどんどんネガティブになっていくのでした。
懐事情や何にお金をかけるかという価値観なんて人それぞれなのに、ついつい人と比べてしまう。実に子供じみた、つまらないヤツだった私。
その義妹が癌になりました。歳が近いだけに他人事でなく、さすがに私もショックでつまらぬ嫉妬心などぶっ飛んでしまいました。もう元気でいてくれればどうでもよくなりました。
義妹は体質改善のため、食生活を根本から見直しました。
これで粗食になると思いきや、さすがは贅沢な義妹のこと、以前より食にお金をかけるようになりました。
エンゲル係数が大幅にアップしたのは、食材を全てオーガニックに切り替えたためです。外食はやめ、体に優しい食事を徹底的に手作り。白米をやめて玄米。砂糖もやめて甘味はみりんや蜂蜜で。水道水なんて飲みません。料理に使う水は全てミネラルウォーターです。
食材についてはかなり勉強したようです。こうした食生活に切り替えてから、体調も良く、幸い病気も再発していないようです。生きるために真剣に食の改善に取り組む義妹が妙に好ましく思えるようになってきました。
義妹は身体に良い食材を探す中で、これはというものを私にも教えてくれるようになりました。
昔ながらの方法で漬けた沢庵、炊きやすいオーガニックの発芽玄米等々。枕崎産の本枯節もその中のひとつ。削りたての鰹節でひいたお出汁というのはこんなに香り高く美味しいものなのか、とびっくりしました。
こんなふうに良い食材を教えてもらううちに、私の意識も変わり始めました。
私自身歳をとってきて、身体をつくる食べ物がいっそう大切だと感じるこの頃。上質な食材への出費は奢ったものと考えるのはやめることにしました。
とはいえ、汁物の出汁に必要な鰹節を削るのには結構時間がかかるし、力もいるし、そうしょっちゅうはやっていられません。本枯節は安くありませんし。だから私は普段は出汁パックなど手軽なものを使います。
それにうちの懐具合では全てオーガニックにするのは無理があります。
でもお正月などの行事や誕生日などのお祝いごとの時くらいはこのくらいの贅沢を楽しんでもよいと思うようになりました。義妹のおかげです。
お雑煮の話でした。
お出汁がいいとお雑煮も格別。今ではすっかりお正月の楽しみになりました。