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ジャンプのDNAを持って、サンデーで育った村上もとか先生の作品への向き合い方

今日も「ほぼ日の學校」アドベントカレンダーです。アドベントカレンダーも明日と明後日の残り2日になりました。

今回視聴した授業

今月は毎日「ほぼ日の學校」の授業を視聴しているわけですが、特に、マンガに関わる人、漫画家、編集、原作者の授業はたびたび視聴してきました。

今回は『JIN -仁-』の漫画家と編集のコンビです。村上もとか先生といえば、私にとっては『六三四の剣』ですね。剣道は、小学校低学年の時にやめましたが、『六三四の剣』を読んだことで、高校の頃は時々、玄関前で晩に竹刀を振っていました。

ひとつの嘘しかつきたくない──マンガ「JIN -仁-」誕生秘話
村上もとか (マンガ家)鈴木晴彦 (マンガ編集者)

「六三四の剣」、「龍 -RON-」など数々のヒットマンガを生み出してきたマンガ家・村上もとかさん。 人気ドラマにもなった「JIN -仁-」では、医療マンガの新境地を切り拓きましたが、それは、集英社の名物マンガ編集者、鈴木晴彦さんと交わした20年前の約束に応えるものでした。 この授業では、集英社で常務取締役を務めた鈴木さんを聞き手とし、マンガ家・村上もとかさんに、その生い立ちから「JIN -仁-」創作秘話まで、存分にお話しいただきます。 マンガが生まれる奇跡の瞬間、集英社と小学館のマンガのつくり方の違い、マンガ家とマンガ編集者それぞれの矜持など、貴重なトーク満載です! Ⓒ村上もとか 協力/弥生美術館

公開日:2023.01.03

評判のよかったドラマも見ていませんが、いつか『JIN -仁-』は読むことになるでしょう。

授業で学んだこと

ジャンプでデビューした村上もとか先生。ジャンプは、初代編集長の長野規さんが作り出して現代まで続く三原則「新人主義」「アンケート主義」「専属契約制」があるそうです。しかし、新人ということで契約があいまいなまま続いていたところへ、いろんな事情から(連載貧乏など)、サンデーで描いてしまって大騒動になります。結果、すったもんだの末にサンデーに移ります。好きなように描くことができるようになってからも(サンデーは作家にはアンケートを見せない)、人気を気にしてしまう、つまならい状況を打破するありえない展開・設定を採用してしまうあたりに、ジャンプのDNAはしっかり、もとか先生にも受け継がれています。でも考え方を伺うと、少なくとも先生は、少年誌向きじゃないことは私でも理解できます。

読者の声を聞く

(サンデー連載の「赤いペガサス」)
1巻の最後の方の連載開始から5話目ぐらいに
モンティの死という
モンティというベテランの主人公の先輩の
同僚のドライバーが死んで
それを仲間たちで葬儀をするという
見送るという時に
遺体に向かって主人公は
口付けをするという別れを告げるという男同士の
それまで少年誌 少年漫画では
やらない タブーというか
やってなかったことを
こそが究極の生きると死ぬの狭間で
生きているF1レーサーという
男たちの間だけに通用するような
そういった別れの形を作ろうとして
ちょっとキザな設定にしたんです

これを描いた途端に読者の反応がポンと来まして
あ、そうか!と
僕は意固地になってマニアックに
マニアックじゃなきゃ
F1の物語なんか描けないだと思って
本格的なマニアックなレースものに
しようしようと思ってたけど
それは読者の心を打たなくて
レースだろうが何だろうが関係なく
読者というのは物語を
人間ドラマを見たいんだと
そこにパンと反応してくれるのが
ジャンプとサンデーの読者層の違い
その時初めて気付かされた

人気を気にしないサンデーでも、読者の反応を気にしていたことで、読者層の違いを意識されることになります。

当時のジャンプ作家にはできなかった表現

サンデーに移られた後も、鈴木さんとの交流はあったようで、担当編集でもないのに、作品にご意見されることも…。当時のジャンプだったら、そうはさせないという展開も、物語に必要であれば、悲しい展開も選び取ります。

鈴木:
『ホールインワン』というマンガで
キャディの安保というのと
主人公が別れるシーンがあって
すごくよくて『がんばれ元気』的で
ボロボロ涙流しながら読んだんですけど

その前の週は2人で優勝するシーンが
1位だったのに次の週 安保との別れという
シーンは最下位だったんですよ
子供は悲しいのイヤなんですよね
それはよくわかります

それをプロの編集者として
目の当たりしてたんで
とにかく六三四がお父さんが
亡くなって人気が下がっちゃうのが
イヤだという気持ちで
先生 お父さんぜひ存命させましょう
と手紙は書きませんでしたけど
言ったように覚えています

村上:
これがスポーツ剣道もので
学校剣道のスポーツものを描いてたら
お父さん死なす必要ないでしょ
ケガでも病気でもなんでもいいんですから
別に死なせる必要なかったと思います

だけど僕は武道ものとして剣道を描いてみたかったので
武道って本当に生き死にを
竹刀を持って防具は着けていても
剣道というのは死に至ることも
あるんだというぐらい本気で
真剣に命のやり取りをするものなんだ
ということがメインテーマで
描き始めたマンガだったので
象徴的に誰が死んだら一番ショックだろうかと
それがお父さんになっちゃったんです

当時のジャンプでは、人気が最重要指標でした。当時のジャンプでは人気がなくなれば連載も終わる。それは、人気がなくなってしまった作家にとっても不幸です。鳥山明さんが『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』と二作品続けて当てるまで、同じ作家さんでヒットが続くことはなかったそうです。

『JIN -仁-』の誕生

作家と編集者のつながりがなければ、生まれなかった作品です。
矜持を持って漫画家を続けてこられたもとか先生と、ファンであり続けて、担当でもないのに、時に意見をされてきた鈴木さんの関係があったから生まれた作品です。ちょっと長いですが、引用させてください。

村上:
こちらとしても今までにあった
赤ひげ先生なんかのイメージを
超えることはできないなと思って
どこから手をつけていいかなと
思ってたんですね

この本(『江戸の性病』)を読んで
象徴的な 若い人達がバタバタ
死んでいってしまった理由として
性病という悲しいものがある

梅毒に打撃を与えるには 例えば
ペニシリンがあればかなり打撃を
与えられるんじゃないだろうか
あるいは現代医療の知識をもって
すれば相当なことができるんじゃ
ないだろうかということを思って
それにはどうしたらいいかと言うと
タイムスリップしかないじゃないかと

タイムスリップという
あまりにもベタな手法というのは
今までさすがに使ったことはないけど
やはりタイムスリップもの
というのは見る側としては
すごく楽しい部分もあるし
映画でもなんでも
タイムスリップものを楽しめるのは
まわりの世界観の作り込みだなと
未来の世界から何から
この場合は過去の世界的
過去の世界の江戸時代というものを
とことん自分でも勉強して
リアルに作り込んでいけば
そこに現代の医者が
タイムスリップするという
荒唐無稽さをチャラにしてでも
逆に自分たちも行ってみたい

できることなら江戸時代を
タイムスリップして見てみたい
という気持ちに結びつければ
読者も素直に面白がって
読んでもらえるんじゃないかな
と思って 鈴木さんにお話した

鈴木:
この話をいただく時に先生がずっと練られていた
その話を聞いて1つだけ大嘘をつくと
タイムスリップという大嘘をつく
鈴木さんも分かってるように
僕はそんなに次から次へと
ハッタリで描くような作家ではない

江戸に1回移った以上は
そこから先は1ミリも嘘つきたくない
その時代考証を手伝ってくれと

僕は編集長だったんですけど
僕の雑誌だったんですよ実は
集英社の雑誌というよりも
スーパージャンプというのは
ほとんど僕が私物化した雑誌で
僕は編集長でも
先生から僕とやりたいとおっしゃってくれてるから
これは人にやらせるわけにいかないと思いまして

作家と編集の付き合い

作品をおもしろくするために作家がやること、編集が受け持つことは、作品ごとに違います。でも「おもしろくない」と作家か編集のどちらかが意見を言わなければ、作品はそのまま世に出てしまいます。作品は、作家のものでしょうけど、おもしろさの責任は間違いなく、編集も持っています。これまでも編集の役割について、たくさん「ほぼ日の學校」で視聴してきましたが、村上もとか先生の話を伺って、初めて編集がおもしろさに責任を持つことを、心で理解できたかもしれません。

サンデーに僕を引っ張ってくれた
Kという編集者が担当してる時に
『赤いペガサス』で
もう描き上がりますよという
原稿を取りにやって来て
こう見て…
「これつまんないよ」って
これなんかつまんないですと言われて
どこがどうつまんないんだと
ここがこうでつまんないと
いや、だけど
打ち合わせしてネーム見た時に
いいって言ったじゃないですか
あの時はいいと思った
でもできあがってみると
つまんないんだもんって(笑)
ええ!!って言って
その場にスタッフがいて え?って
仕上げやってる時に大げんか
結局「わかりましたつまんないんですね」
「つまんない」
じゃあこうでこうで…
こうしたらどうです?
あ、それ面白いよ

じゃあ、描き直すって言って結局その場で
できあがりは翌日になりますけど
5ページか6ページか全部描き直して
でもたしかに面白くなかったんですよ
ジャンプした瞬間ですね
バーンとぶっ壊して
酷いなとは思うんですけど
でも時々そういうことって言われたことあるなと
打ち合わせしたじゃないですか
でも面白くないなぁとか言われることあったんだけど
そこでまあまあ
もう今更って感じで
落ち着けることもできたでしょうけど
そこで直して
やっぱり面白くなった
読者の反応も良くなったんですよ

編集が言わなくても、「これって予定調和じゃない?」と、もとか先生から言われることもあるそうです。予定調和が悪いわけではありません。予定調和がストーリーをわかりやすく読者に届けることもあります。でも、「それでおもしろいの?」と思う時、もとか先生から、編集者に、そう投げかけることがあったそうです。

感想

マンガは、私にとって、すごく魅力があるコンテンツジャンルです。アドベントカレンダーでも、マンガ関係の「ほぼ日の學校」の授業視聴したnoteだけで、2023年に書いたものも合わせて、すでに4本ありますね。これで私がマンガが描けるようになるわけでもないですし、マンガの原作も編集もできるわけじゃありませんけど、マンガ表現と制作のおもしろさについて、少しでも知ることができたのは本当によかったと思います。


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のーどみたかひろ
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。