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「橋本治をリシャッフルする」読みたくなった、聴きたくなった

最近、仕事がうまくいかず、沈んだ気持ちの土曜の朝。
仕事のことを頭の片隅、いや半分くらい占めた状態で、どんよりした気分のままに電車に乗ります。

しかし、この日は「ほぼ日の学校」の日。

最寄りの外苑前に着いた頃には、
「今日は楽しもう!」
という気持ちになりました。

ここ二年半ほど、「ほぼ日の学校」は、私にとって特別な存在です。

元気(と知識)をくれる、
好奇心を刺激してくれる、
興味を広げてくれる、
ワクワクをくれる
… etc

直前になって楽しみたい気分が高じてくると、予習一つもしてこなかった自分に悔しさが芽生え、授業に関係ある本を開始までパラパラしていました。

当日は、受付の体温の測定から始まり、講師と受講者の間にはアクリル板、受講生同士の席も離しつつ、一時間ごとの休憩&席移動。
コロナ対策は、ばっちりです。

この日も長丁場。午前二時間、午後二時間の講義です。
(お昼はTOP絵にある崎陽軒のシウマイ弁当でした!)

読みたくなった「双調平家物語」

午前中は、町田康(まちだこう)さんによる「双調平家物語」の授業です。
先生は、低い声で聞いていて心地よい声。淡々と? 訥々と? 時々、考えを確かめるように間を取りながら話されます。

授業の様子はこちら(ほぼ日の学校ニュース 8/29 17:23)

文庫で16巻ある「双調平家物語」は、たぶん読むことはないでしょう… と思うものの、実に読みたくなる授業でした。

教科書で習う歴史は面白くないのに、なぜ、歴史小説はおもしろいのか?

歴史は、事実を並べるだけですが、歴史小説は、事実の間の「なんで?」を突き詰めます。登場するキャラ一つにしても、作家は辻褄さえあっていれば、作家の直感で、魅力的にも、ひどい人間にも、作り上げていきます。

例えば、歴史小説の代表とも言える司馬遼太郎さんは、魅力的な天才が歴史を作っていきます。橋本治さんの場合、大勢のダメな人間の愚かさによって歴史が作られるそうです。さらに、橋本治さんが作られるキャラは実に生々しいとのこと。「絶対、知ってる誰かになずらえたはず」と町田先生はおっしゃいましたが、これまで橋本治さんの作品の作り方を見ると、丹念に、登場人物の思考を追って出来上がったものであるような気がしました。

町田さんは、頭から読まなくてもいい、つまみ食いでもいいとおっしゃられたので、もし図書館や書店、古書店で見かけてしまったら、運命… と称して手にとってしまいそうな予感がしました。

義太夫節を聴きたくなった二時間

午後は、矢内賢二(やない けんじ)先生による授業です。
最近、大学の授業もオンラインなので、大勢の前で話す機会がないので緊張しているとのことでしたが、さすが学校で教えられている先生です。低いけれど、人にしっかり届く声でした。

授業のタイトルは
「小説は義太夫節をめざす――浄瑠璃熱のこと」
です。

なんてチャレンジングなタイトル! と思いましたが、ご自身の小説の由来が義太夫節にあるということは、橋本治さんがご自身でおっしゃられてたんですね!

橋本治さんの発言と、矢内先生ご自身の推論も交えつつ、明治期の小説の成り立ちから、芸能と文学の邂逅、文学が目指すところについて
「こういう(決めつけた)言い方しちゃっていいのかな…?」
と言いながら、タイトルの内容を解説くださいました。

授業の様子はこちらです。(ほぼ日の学校ニュース 8/29 17:32)

そして、なんと驚いたのは、授業で、義太夫節を聞けたことです!
女流義太夫 太夫(たゆう)の竹本越孝(たけもとこしこう)さんと、女流義太夫 三味線の鶴澤寛也(つるざわかんや)さんの演奏です。
(演奏って言い方でいいの?)

授業の前半では、おめでたい席で演奏されるご祝儀曲「寿式三番叟(ことぶき しきさんばんそう)」、後半は、三代「道行(みちゆき)」の一つ「仮名手本忠臣蔵」の八段目を聴きました。

道行は、本来、メインである語り(かたり)のつなぎの部分。
物語の中で、A地点からB地点に移動するだけの部分です。しかし、ここは物語が進行しない分、演奏として華やかで、登場人物の心象をよく表していると言います。

正直、橋本治さんがおっしゃる “義太夫節が体に入っていない” 状態なので、義太夫節の良さまでを感じることはできませんでしたが、橋本治さん(講演の音源)、橋本治さんと親交があった鶴澤寛也さん、それぞれが、登場人物の感情にグッときたお話をされ、あぁ、そこまで感じ取れるなら、義太夫節に近づきたい、聴いてみたい、と思いました。

鶴澤寛也さんは、橋本治さんが好きな人には、小説だけが好きな人、評論が好きな人、いろいろいるけれど、橋本治さんの本を読んで興味を持っても、なかなか義太夫節まで親しんでくれる方は少ないとおっしゃられましたが、橋本治さんの解説(講演音源)を聞き、あぁ、これは義太夫節を聴かずにはおれないな、という気持ちにさせられました。

「橋本治をリシャッフルする」講座

1日2回の授業も含め、残りの授業は3回となりました。

積ん読は増え、考えなくてはいけない課題をたくさん渡されたような気がします。講座の最初のほう、どなたがおっしゃられたか忘れましたが、亡くなった人の評価が下されて、再評価されるまでには10年近くかかる。去年亡くなった橋本治さんを取り扱うのは早すぎかもしれないとおっしゃられました。実際、本講座の講師の方々は、まだ確認された考え方じゃないけれど〜、今はこう思うけど〜、というような表現で、橋本治さんの作品、橋本治さんについて語られることが多いと感じます。専門家でもない、これまで橋本治さんに親しんでこなかった私も、焦らず、今後10年くらいの課題をいただいたと思い、惜しみつつも残りの講座を楽しもうと思います。

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のーどみたかひろ
いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。