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ミステリーの縦糸とバラエティの横糸。「名探偵津田」第三弾は、今後の試金石として満点!
TBSの人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』は、毎回、検証テーマに沿った内容を芸人さんが検証する番組です。
名探偵津田は、その中の人気企画「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」におけるダイアン津田さんが登場する企画です。初回のおもしろさが抜群だったので、早々に第二弾が放送され、私もそのおもしろさについて、noteに書きました。
年末に放送された第三弾は、腹がよじれる回数は、第二弾より少なかったかもしれませんが、今後、シリーズ化して、「名探偵津田」をおもしろくするための試金石としてすばらしい回でしたので、そのすばらしさについて、今回も書いてみたいと思います。
Tverでは、1月15日(水)23:59まで、視聴できるようです。
設定の作り方
これまでの第一弾、第二弾は、『金田一少年の事件簿』のようなおどろおどろしい世界観が下敷きにありました。今回は、怪盗が登場したことで、『名探偵コナン』のような世界でも、通用することがわかりましたね。前回、体力を使う場面を挿しこんで、疲れた津田さんの表情を追いかけました。とてもおもしろかったのですが、ストーリーとして冗長さを感じた視聴者も多いでしょう。これが『名探偵コナン』であれば、体力を使うようなアクションパートを自然と入れ込むことができます! すばらしい発見です!!
いろんな世界観で「名探偵津田」が作れるということは、『名探偵コナン』以外にも、日本では、西村京太郎のトラベルミステリー、浅見光彦シリーズ、海外では、アガサ・クリスティーのミステリードラマなんて世界を下敷きにもできそうです。
歌舞伎では、「世界」「趣向」による作劇法があります。「世界」が決まっているから、見る人に複雑な人間関係を説明なしに話を始めることができるわけです。歌舞伎であれば、題目や登場人物で「世界」を提示しさえすれば、平家物語の世界、曾我物語の世界、太平記の世界だと、わかり、余計な説明を省きつつ、複雑な物語を魅せることができるようになります。今回の「名探偵津田」では、怪盗の登場により、『名探偵コナン』と同じような世界が展開される予想を立てさせてくれました。
「趣向」は、ミステリーで言えば、「密室」「トラベルミステリー」といった事件の仕掛けになりますが、「名探偵津田」はバラエティー番組の企画です。「趣向」には、ミステリーの世界を使った様々な「バラエティー番組の笑い」が入ります。「出会いがしらのドッキリ」「体を動かす芸人をおもしろがる」「クイズの回答を見た爽快感」「平場のボケを拾うツッコミ」などですね。
バラエティー番組の「趣向」に合う「世界」を見つけて来さえすれば、世の中のあらゆるおもしろいミステリー作品の「世界」が、「名探偵津田」の第〇弾になることがわかったわけです! もうネタが尽きることはありません!!
登場人物の確かさ
では、誰でも名探偵になれるかというと、そんなことはありません。津田さんだからこその「名探偵津田」です。前回、バカリズムさんが「ちょうどいい」と言っていた通り、ミステリー好きなら、この証言は後で覆るだろう、という場面でも、何食わぬ顔で「じゃあ、間違いないですね(関西弁)」と華麗にスルーしてくれます。
普通のミステリーでは、ちゃんとした登場人物から捜査協力を頼まれると、断りはしませんし、少なくとも事件の解決を引き受けた後に、ごねることはないでしょう。でも、津田さんは、しっかりごねます。収録が想定以上に長くなりそうなこと、もともと入っていた割のいい仕事がなくなることに、ちゃんとクレームを入れます。嫌な顔をします。
今回も、一旦はしぶしぶ承諾するものの、収録が夜中に及ぶことにクレームを入れてましたよね。
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ミステリーの世界に入った後、本気で解決に取り組もうとするまでが長かったです。テレビ局で最初の事件が起きた日の翌日の朝、前作で無くなった捜査パートナーの双子の妹(森山美唯さん)が登場したところで、やっと解決に取り組もうとします。
他の登場人物もいいですね。初回を見た人は、津田さんだけで十分におもしろいことを知っているはずですが、みなみかわさんという助手をつけたことがすばらしい。みなみかわさんは、「名探偵津田」の中では、現実世界とミステリーの世界の両方を冷静に見ている、真っ当なセリフを吐く役回りが多いですが、「水曜日のダウンタウン」のドッキリで見たことがある人は、普段の反応がおもしろいことを承知しています。津田さんへのツッコミだけでなく、知らされた情報に関する反応もとてもおもしろい。
数年前まで、年末の風物詩だった日本テレビの「笑ってはいけない」シリーズでは、有名な大御所俳優さんが登場していたので、今後、大幅に予算をつけた特番をやるのであれば、同じように大物俳優さんに登場いただいて、普段、テレビでは見れないおもしろい表情を楽しむことができるでしょう。
世界の外から世界を見る
推理や、推理ものにはとても疎い津田さんですが、構造に対する理解は、常人よりも明確に優れています。さすがテレビの中で活躍する演者さんです。前回の第二弾で、とても混乱していた理由を、今回の第三弾で、津田さん自身が説明してくれました。
番組内で事件が発生する世界を「1の世界」、バラエティー番組でその様子を眺める人たちを「2の世界」と言ってましたね。津田さんが混乱する理由は、ミステリーの世界(1の世界)と現実の世界(2の世界)が入り混じる構造にあります。特に、2の世界で起きた出来事が1の世界の文脈で語られることで、両者の境界がわからなくなり、混乱するようです。
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今回、津田さんが混乱したのは、2の世界の(テレビ収録の)出来事が、1の世界の登場人物によって、説明されたためでしたね。
シェイクスピアでは劇中劇が登場します。劇中の登場人物が、劇中の人物として演じる劇を、他の劇の登場人物と一緒に見ることで、劇の世界に自分もいるような感覚が生じます。これがさらに、視聴者が没入する仕組みにもなっています。津田さんを混乱させすぎると、津田さんの思考に障害が生じるようですが、彼の混乱は混乱として、この構造がおもしろくしている理由でもあるでしょう。
感想
最初に「名探偵津田」を見た時から、シリーズ化してほしいと思ってはいました。第二弾も腹を抱えて視聴しましたが、次も、その次もおもしろくなる保証はありませんでした。でも、今回の第三弾を見て、次の「名探偵津田」にも期待が持てましたし、次回、ちょっとくらい失敗しても、その次に期待が持てるようになりました。おもしろさの理由と、おもしろさを作るフォーマットが揃ったからです。第三弾は、「名探偵津田」シリーズの試金石として、とてもすばらしいものだったんじゃないでしょうか。
次回も期待しています。そして、来年こそ、大晦日「名探偵津田」で年越しさせてください。6時間はきっと長いでしょうけど、4時間くらいなら、大丈夫です。紅白の倍の視聴率をダイアン津田で取りましょう、TBSさん!
Tverの視聴は、1月15日(水)23:59までです。ぜひ視聴しましょう。
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