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【エッセイ】ゆっくり介護(11)

ゆっくり介護(11)<3つの言葉>

『介護は親が命懸けでしてくれる最後の子育て』
*この言葉は「ぼけますからよろしくお願いします」(著:信友直子)より引用


昼食後、母はテレビをじっと見ていた。
テレビ画面にはパラリンピックの選手が映し出されていた。

「今日は何人かな?」

母がつぶやいだ。

「え?何人?」

母はパラリンピックでのメダルの数を聞いてきたのか。
でも、それなら「何個?」と聞くと思うのに。

「今日は何人かな?」

また同じことをつぶやいた。

「何人って?」

「『ころな』の人数だよ」

え、パラリンピックのテレビを見ながら、『ころな』のことを考えていたの?
もしかしたら、パラリンピックのテレビを見ていて、そこに映し出された選手や役員の感染予防が気になったのだろうか?

母は話の内容がよく変わる。それを突き詰めようとすると、しゃべらなくなる。

話の内容がよく変わることは、最近、特に多い。
それでも詳しく聞こうとすると、話が続かなくなってしまう。

ある時、足立大進老師(鎌倉円覚寺の前管長)の言葉を読んだ。

*****
和尚たる者、言葉は三つだけでいい。
一つは誰かが訪ねてきたら、
ただ「ああ、そう」「ああ、そう」と話を聞きなさい。
とことん話を聞いてそれが嬉しい話だったら
最後に「よかったね」。
辛い話だったら「困ったね、大変だったね」。
この
「ああ、そう」
「よかったね」
「困ったね、大変だったね」

の三つだけでいい。それ以外のことは言うな

* * * * * *

この足立大進老師の言葉を読んで、母の言葉を聞くときにこの3つの言葉を使うことにした。

母が話すときに、話が終わるまでゆっくりと聞き
「ああ、そうなんだね」と相槌を打つ。
嬉しい話だったら、
「よかったね」と。
辛い話だったら、
「困ったね、大変だったんだね」
と返事を返すことにした。

それだけで、母は笑顔でたくさんの話をするようになった。
ただ、それだけで。

子供の時も
歳を重ねても
みんなに伝えたいことがたくさんあるんだ。

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