あにの 青春の美味いもんの話
長く続いたしとしと雨も上がり、ようやく秋らしい天気になってきました。庭先に咲くコキアもすっかり色づいて、夏の青々丸々とした姿とはまた違う趣をみせています。どうも。あにです。
青春の美味いもんというと色々思い浮かびます。
おとおとも上げていた長浜ラーメン。
お小遣いが足りないときに愛食していた200円ラーメン。
親友の米山くんと1パック2個入りを1個ずつ分け合って食べたAMPMの210円バナナクレープ。消費税が5%ですね。
鯛の形にする気のない鯛八の四角いたい焼き。
具が一品しか入っていないタイハットのお好み焼き。
上げていくときりがありませんが、あにがこの季節に恋しくなる食べ物、それはたこ焼きです。
学生時代に男だった経験のある人なら誰しもラーメン屋さんとたこ焼き屋さんには一家言あることと思います。もちろんあにもです。
あにの行きつけのたこ焼き屋さんは、八王子駅から桑並木通りをまっすぐいき、甲州街道を超えた少し先の空き地にぽつんと小さな屋台のようなお店を構えていた「ぺろはち」というお店。
暇な時は横の空き地でサックスの練習をしていたという目撃証言のある、ちょっとハンサムなお兄さんが焼いてくれるたこ焼きは、とにかく生地がやわらかくて丸い形を保つことができず、かといって割れもしない絶妙な焼き加減。白いスチロールの中にみっちり収まったそいつをかじるとトロトロアツアツの中身が溢れてきて一口で食べるなんて暴挙に出たら口の中が火傷確定の暴力的な旨さの逸品。
いちど家族にもこの感動を味わってもらおうと買って帰ったことがあるのですが、中の生地が予熱で固まってしまい全然別の食べ物になってしまいました。焼きたてを店の前でハフハフいいながらでないと味わうことのできない、究極のファストフードでした。
で、400円で8個入りのこいつを、親友の米山くんと200円ずつ出し合って4個ずつたべるのが、バイトもしていない我々貧乏高校生には最高の贅沢でした。味はいつもお決まり、ソースとマヨネーズがどっちもかかっている特製ミックス味です。
寒い冬の学校帰り、パソコン部のメンバーと漫画王により、解散してから米山くんと2人で自転車で乗り付けたぺろはちで食べるたこ焼き、うまかったなぁ……。
だがしかし
えぶりでぃはんぐりーな高校生男児。やはり夕飯前にたこ焼き4個ではどうしても物足りません。さりとてお金はありません。
「あにくん、すごい物をみつけたよ!」
そんなある日のお昼休み、いつも落ち着き払った米山くんが珍しく興奮してあにのクラスに報告に来ました。曰く、とにかくすごいとのこと。
何がすごいのかは秘密だというのですが、そんなにすごいのなら、きっとさぞすごいのだろうと、放課後米山くんに連れられて来たのは、商店街からは少し離れたシャッターの降りた店の並ぶ一角にある小さな和菓子屋さんでした。
確かに我々は甘いものにも目がありませんでしたが、まあ見た目は至って普通の和菓子屋、というか団子屋。こしあん70円。つぶあん70円。みたらし70円。確かに安めのお団子が並ぶショーウインドウにそいつは並んでおりました。
たこ焼き6個入り 100円
激安です! バカ安です!
単価でいうと、普段ぺろはちで食べているたこ焼きが1個あたり50円なのにたいして、こちらはなんと1個16円強! マクドナルドのハンバーガーが65円になったり吉野家の牛丼が280円になったりとデフレ飯が流行っていた当時でもびっくりの価格破壊っぷりです。
発見者の米山くんも誇らしげです。
その日はさっそく2人で50円ずつ出して、6個入りパックを3個ずつわけあって食べました。
数日後、デフレたこ焼きを求めてやってきた二人の前に現れたのは、焦げ跡の生々しく残る空き地でした。
我々が見たあのお団子屋さんは、果たして実在したのでしょうか……。
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