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ネットいじめ,「あなたを支え、立ち上がる者」はどこに?アップスタンダーを育む社会へ

 本記事は、デジタル・シティズンシップにおけるアップスタンダーについて、日本のいじめ問題で語られる仲裁者ということばを用いながら、学校での指導方針を示す。
 1章に方針。ここに至る経緯は2章から5章を参照して頂きたい。また、6章で指導教材を紹介する。最後に、あとがきを記した。

1章 いじめの未然防止指導

(1)方針

 学校は、いじめの未然防止のため質の高い仲裁者(≒アップスタンダー)を育む指導に取り組む。
 ※仲裁者とアップスタンダーの意味は厳密には異なる。詳細は、3章を参照。

(2)指導の内容

 答えの無い問いに対して、正解のない個人の考えを交わらせる対話活動が中心となる。

  • 生徒が、答えの無い問いに対して、自己判断する力を身に付ける。そのために、日常生活の中で、対話を通じて自己判断する場面を意図的に設ける。

  • 生徒が、メディアや大勢の意見に流されず、過剰に批判せず、多面的に思考し、必要なことは何かを見極める力を養う。

  • 生徒が、多くの人の力によって自身の生活が成り立っていることを理解する。

2章 いじめにおける仲裁者とは何か。

 いじめを未然に防ぐために、無関心な傍観者たちが仲裁者としての力を身に付ける必要がある。傍観者は、いじめに対して暗黙の「YES」を送っており、いじめがエスカレートする要因をはらんでる。

@NoguLabo

 仲裁者は、いじめの未然防止にため、極めて難しい判断をしなければならない。これを質の高い仲裁者とよぶ。
 
 下記事例で、傍観者の結月(ゆづき)が傍観者から質の高い仲裁者になるためにはどのような行動をすればよいのか。結月(ゆづき)が安易に、メッセージアプリに書き込んだりすれば、被害者になりかねない。

遥(はるか)の物語

 遥は誕生日のパーティを計画しています。彼女の両親は参加する子どもの数を15人までと決めているので、希望する全員を招待できません。
 招待されなかった2人、楓(かえで)と栞(しおり)が、その計画のことを聞いてしまいました。彼女らは匿名(とくめい)のメッセージアプリを使って、遥の悪いうわさを流すことにしました。

「遥はかっこわるい…。なんで、あんな汚い家にだれが行くの?」
「遥はケーキのかわりにフルーツを食べるらしいよ。まじサイテー」
「遥はたいくつだし、なんでパーティに行くのか分かんない」

 パーティに招待された子ども達のひとりが、遥が「イケてない」理由を付け加えて、パーティに行かないようにそそのかします。アプリにメッセージを発見した遥は胃が痛くなりました。傷つき、とまどい、誰がメッセージを書込んだのかも分からなくなりました。次の日、学校に行きたくないので、両親には病気だと伝えました。いっそのことパーティをやめてしまおうか、とも考えています。

  パーティーに招待されていたは、結月(ゆづき)は、このメッセージアプリを見て、「遥、大丈夫かな」と思い心配しています。

Common Sense Education  それってネットいじめ?- サンドラの物語
(一部改変)

3章 デジタル・シティズンシップのアップスタンダー

 アップスタンダー(upstander)は「誰かを支え、立ち上がる人」という意味である。いじめの深刻さを適切に判断し、それに応じた適切な判断と行動をとるために必要な知識や経験が必要である。
 ここで、仲裁者 ≒ アップスタンダーと捉えておく。
 しかし、アップスタンダーは単にいじめ問題にとどまらず、より広い社会的不正義に対して「立ち上がる人」の意味を含んでいる。したがって、デジタル・シティズンシップ教育では、ヘイトスピーチや誹謗中傷に関係する問題も含む。これは、民主主義の社会を支えるためには、人の尊厳、権利、安全を傷つける暴力はあってはならないというシティズンシップ教育が根底にある。

4章 日・英・蘭の傍観者の推移

 下のグラフより、日本は、学年が上がるにつれ、傍観者が増え、仲裁者の数が減る。イギリスやオランダは、中学生の時期に仲裁者が増加する傾向にあるが、日本にはない。なぜ、日本は傍観者が増え続けるのだろうか。

国立教育政策研究所・文部科学省編 『平成17年度教育改革国際シンポジウム「子どもを問題行動に向かわせないために ~いじめに関する追跡調査と国際比較を踏まえて~」 報告書』をもとに作成
国立教育政策研究所・文部科学省編 『平成17年度教育改革国際シンポジウム「子どもを問題行動に向かわせないために ~いじめに関する追跡調査と国際比較を踏まえて~」 報告書』をもとに作成

(1)傍観者の心理

 なぜ、日本は傍観者が増え続けるのか。以下記事を参考にし、傍観者の心理を学校現場経験も交えて考える。

  • 他者が積極的に行動していないため緊急性を要していないと考える。

  • 傍観する他者と同調し安心感を得たい。罪の意識が薄い。

  • 自身で判断することができない。

(2)日本で加速する傍観者心理の要因

  • 自己保身精神ばかりが肥大化し、SNS依存による人間関係の希薄化に拍車がかかる。

  • 小さな事柄や言葉尻を捕らえられあらゆる人々に批判(社会的いじめ)をする。

  • マニュアル化の進行とメディア情報量の多過で自己判断力が低下している。

5章 ネットいじめの特性について

 情報社会となり、インターネットの特性とからみ合い「いじめ」が複雑化している。以下、ネットでいじめが深刻化する要因を3点挙げる。

(1)オンライン脱抑制効果
 対面時に比べて、オンライン上でのコミュニケーションの方が、抑制が効かなくなり、普段は言わないが、ネットで言ってしまったりする現象が起こる。匿名性も一因。

(2)24時間いつでも
 いじめの場所が学校だけではなく、ネットいじめは自宅でも起こる。そのため、被害者が追いつめられやすいく短期間で状況が悪化する。

(3)周りの大人が発見しにくい
 証拠が残りにくく、短時間で悪化するので発見しずらい。 

6章 仲裁者を育む指導教材

(1)いじめをノックアウト

(2)NPO法人「ストップいじめ!ナビ」理事 真下麻里子

(3)セサミストリートの「Becoming an “Upstander”」

(4)書籍

(5)コモンセンス教材(豊福晋平氏翻訳)

(6)デジタル・シティズンシップ プラス: やってみよう! 創ろう! 善きデジタル市民への学び

あとがき 無意識の差別

 いじめは社会問題である。いじめは、人の尊厳を否定する差別である。いじめに対して、無関心だったり、無意識だったりする傍観者が差別を深刻化させる。これを、無意識の差別という。

 日本の自殺率の多さ、米軍基地の沖縄への集中、貧困率の増加など日本の社会は数十年前から課題を抱え続けている。これらの社会問題に関して、私たちは、「誰かを支え、立ち上がる」行動をしているのだろうか。傍観者は、課題を深刻化させる。

 デジタル・シティズンシップのアップスタンダーの視点で日本を見ると、日本に住む人の尊厳をどのように守るか、どのように行動すればよいか。という民主主義の考え方が未成熟な国である。つまり、傍観者が多いのである。

 大人が、多くの人の力によって自身の生活が成り立っていることを理解する。大人が、人の尊厳を守るアップスタンダーにならなければならない。

参考文献


・法政大学キャリアデザイン学部 教授 坂本旬 氏

・「いじめ」重大化防止の鍵を握る、観衆と傍観者 真下麻里子 ダイヤモンドオンライン

・ストップいじめ!ナビ

・ユニセフ

・朝日新聞

・NITS 校内研修シリーズ

・いじめの文化差-国際比較からみる相違点と共通点- 杉森 伸吉

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