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食べてほっとする地元に帰ったような料理を出し続けられる料理屋でありたい

3月14日に東京の桜(ソメイヨシノ)の開花宣言がありました。例年より10日も早いということで、今年は春の訪れが早まりそうです。とはいえ、急に冷え込む、いわゆる「花冷え」の日もあると思いますので、季節の変わり目、お身体ご自愛くださいませ。

こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。

3月は、春の食材の端境期ともいわれて、冬から春へと食材がガラリとかわっていきます。それにあわせて、お皿やお店の設えなども春に向けて変えていく時期でもあります。

弥生(3月)の献立では、毎年使っている食材はもちろんのこと、新しい食材も積極的に使いたいと考えながら構成を組み立てました。

Youtubeチャンネルで公開している試食会からガラッと変わったお料理もあります。どんな料理になったかは、実際にお店にいらしてのお楽しみ。毎日の営業のなかで、少しずつ調整しながら、より良いお料理を食べていただけるようにしておりますので、みなさまのご来店をお待ちしております。

弥生の献立

乃木坂しん 弥生のおまかせコース(22,000円)を紹介します。

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先付|蕗のとう豆腐、ホタルイカと木ノ芽

弥生の献立の最初のひと皿は、春の野菜の青々しい香りや苦味を食べていただきたいと思いました。

春の野菜を代表する蕗のとうを胡麻豆腐に混ぜあわせてあります。写真では、蒸したホタルイカを一緒に盛り合わせ、お出汁にトロミをつけた温かい銀餡をかけております。

じつは、この写真から仕立てを変えておりまして、蕗のとう豆腐とホタルイカを別々にお出しするようにしております。というのも、蕗のとう豆腐は透明感のある淡いうま味の料理としてお出ししたいというイメージがありました。しかし、ホタルイカをいっしょに盛りつけると、どうしてもおいしすぎてしまい、蕗のとう豆腐の透明感がお客様に伝わりにくいと感じたからです。

献立では、蕗のとう豆腐にたっぷりのお出汁をはってお浸しのような仕立てのひと皿に添えるように、割り下にくぐらせてた蒸したホタルイカに木の芽をのせたもうひと皿をお出ししています。

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前菜|平貝炙り、春野菜
空豆のすり流し、ふり柚子

炭火で炙った平貝に、芹やうるい、たらの芽、コゴミといった春野菜をたっぷり合わせたひと皿です。

試作では、平貝を揚げていて、そちらもおいしいと思いましたが、炙った方が平貝の食感が生き、香りも引きだすことができるので、春野菜との相性がいいのではと思い変更しました。

芹とうるいはお浸しに、たらの芽は素揚げ、こごみは塩湯がきにして、それぞれ別々に火入れをしています。

平貝と春野菜の下には、ソラマメのすり流しをしいてあります。さっとゆでて色だしした空豆をパコジェットを使って攪拌し、お出汁でのばしてから、塩で味を整えました。すり流しというよりも、平貝と春野菜を食べるためのソースのイメージなので、いつものすり流しよりも塩味を強めにしています。

春らしい野菜と貝のひと皿で、見た目もきれいなこともあり、献立の1品めにしようかという案もありました。それも一つの考え方だと思いますが、自分としては、献立のはじめは、強いお料理ではなくやさしいお料理からはじめたい。というのも、献立全体を食べるときに疲れないのではないかと思っているのもあり、今回は、2品めのままにしています。

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椀物|焼き蛤椀、
筍、針独活とたたき木の芽

弥生の献立のお椀は、上巳じょうしの節句(桃の節句)にちなんで蛤椀をお出ししています。しっかりと濃厚な蛤のお出汁と、筍と針独活うどの軽やかな触感と香り、ほんのかすかな苦味があいまって、春らしいひと品になっています。

毎年、3月には蛤椀をお出ししてきましたが、一昨年大きく作り方を変えております。お客様からは、とても良い評価をいただきましたので、今年もその作り方でお出ししています。

一般的な蛤椀は、お酒と昆布を加えたお水で煮て蛤のお出汁をとり、それをお椀に仕立てます。しかし、お出汁をとった蛤は、どうしてもうま味ができってしまって、本来のおいしさがなくなってしまいます。

そこで一昨年から、これまで通り、蛤でお出汁をとるのですが、それとは別に椀種として焼き蛤を作って盛り込んでいます。

思い切って変えたおかげでハマグリのお出汁もおいしいだけでなく、椀種の蛤も食べた瞬間に口いっぱいにおいしさが広がり、より旬の蛤の味わいを感じていただけるようになりました。

この主張が強い蛤に負けない食材として筍、さらに苦味が貝類のうま味と相性がいい独活、木の芽をアクセントに添えています。

ちなみに、お出汁でとった蛤の身は、佃煮にしてお弁当の一品としてお入れしたりして、無駄なくお料理に使っております。

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お向|甘鯛造り、お向酢、花山葵、花穂

冬に脂がしっかりのった鯛は、蒸したり、焼いたりするなど、火を入れた方がおいしいと思っています。一方で、春のこの時期になると脂の入りがほどよくお造りにするのにピッタリだと思っています。

お造りに最適ではあるのですが、皮の硬さが実は気になっていて、何かできないかと考えていました。そこで写真のように、皮目を湯引いて皮目の脂にさっと火を入れる「皮霜造り」にしてみました。

これもおいしかったのですが、まだ皮が気になったこともあり、最終的には皮をひいて身だけを炭火で炙ってお出ししています。ひいた皮は鱗も一緒に素揚げにして盛りつけて一緒にお出しするようにしています。

煮切ったお酒、淡口醤油、濃口醤油、レモン果汁で作ったお向酢むこうずをたっぷりとまわしかけています。

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造り|真鯛滋味造り
花びら蕪、へぎスダチ

真鯛にもこの時期ならではのおいしさがあります。冬を越えて、やせていた身に戻ってきた生命力が、待ちわびた春の訪れを感じさせます。

この時期の鯛をお造りでお出しするなら、乃木坂しんの定番である鯛の滋味造りがいちばんだと思っています。

鯛の骨からとったお出しにお造り醤油を加えた滋味醤油に浸した滋味造りは、7年間、乃木坂しんで作り続けてきた料理のひとつでもあります。献立の芯になるようなひと品として、お客様にご説明をしながらお召しあがりいただきたいと思っています。

お造りにする際にはいだ皮は湯がいて、桜の花びら型に刳り抜いて梅酢に漬けた蕪、スライスした酢橘とともにお造りに添えてあります。

鯛は春からと秋口からにかけて二度脂がのってくるので、桜鯛や紅葉鯛などと呼ばれ、お出しできるのが楽しみな時期です。

今回はなぜこのサイズの鯛なのかというと、この時期はこちらの大きい鯛の方が、脂がとてものっていて、鯛自体の味わいもしっかりしているので、脂のうま味だけではないおいしさがあると思っています。とくに今月の献立のように滋味造りで食べていただくには、鯛自体のうま味をしっかり噛み締めてもえるような、魚体の強さがあった方があっていると思います。

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八寸|飯蛸白扇揚げ、
カリフラワーのピクルス、鰻八幡巻、
芽キャベツと胡桃の白和え刻み柚子、
唐墨大根、水菜と油揚げおひたし

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」というのが私たちの八寸の考え方です。そのため、少しずつ盛り付けたお料理を食べながら、お酒が好きな方でしたら、お酒をもう1杯飲んでいただけるような内容を目指しています。

2月は冷たい前菜でお出しした飯蛸は、3月もぜひ食べていただきたい食材のひとつです。出汁を含んだ飯蛸に、小麦粉と玉子、水を合わせた衣をつけて揚げた白扇揚げにしていますので、衣はサクッとした食感に仕上がります。

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強肴 |牛肉桜葉塩釜包み焼き、
筍、新玉ねぎ、菜花辛子和え、桜塩


神戸の「ゆさか精肉店」さんの和牛を、桜の葉で巻いてひと晩おいてから塩釜で焼き上げました。桜餅のような桜の葉の香りと塩味がほどよく入ったお肉は、お好みで桜の風味がついたお塩をつけてお召し上がりください。

お出汁で炊いたタケノコと。お浸しの地に福井県の地がらしをまぜてから菜の花をくぐらせた菜花辛子和え、新玉ねぎの甘酢漬けが付け合わせです。

塩釜焼きにすることで火を入れる際の熱が間接的にじんわりと入るので、炭火焼やオーブン焼きとはちがったニュアンスでしっとりと焼きあがります。お客様のなかには「今はやりの低温調理のお肉みたいにしっとりとやわらかいね」という方もいらっしゃるほどで、おもしろい構成になっていると思います。

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炊合|春若芋(長芋)、鯛の子、
蕗、鍵蕨、木ノ芽

見た目は一つの鍋で炊いた煮しめのようですが、「炊き合わせ」といって、素材ごとに別々にお出汁で炊いて最後に盛り合わせています。長芋は、岩手県の大久保農園さんのものです。

昨年の弥生の献立でも炊き合わせを入れていました。このお料理については、炊き方を変えたり、新しい食材を使ったりするよりも、ちゃんとしっかり作り続けることに重きをおいていきたいと思っています。

もちろん同じ仕事のなかでも、より良くするための変更点はあります。しかしそれは、あくまで今までやってきた仕事の延長戦で、同じようにやり続けるためのものでもあります。

お客様にも変わらずに作り続けているものとして食べていただき、「これだよね」といっていただけるようなものでありたいです。新しい発見ではなく、地元に帰ってきたような安心感を感じていただけたら嬉しいですね。炊き合わせには、そういったことが大切な料理だと思っています。

炊き合わせは、知れば知るほど、料理人の仕事がちゃんと入っている料理だと思いますし、お店の姿勢がでる料理でもあると思います。「乃木坂しん」は、この炊き合わせをずっと出し続けていられる料理屋でありたいと思っています。

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食事|白魚とうすい豆玉子とじ、
または初鰹漬け、または蕎麦米雑炊

①白魚とうすい豆玉子とじ(月替わり)のご飯は、料理長の石田の親戚が減農薬で栽培する「ヒノヒカリ」です。
②炊き立て白米と初鰹漬け。福井県の薬味「山うに」を添えて。ご飯は玉子とじ同様「ヒノヒカリ」です。
③そば米雑炊。料理長の石田の故郷・徳島県の郷土料理で、鶏でとったお出汁でいただく素朴な料

【お食事】
①白魚とうすい豆玉子とじ(月替わり)
②炊き立て白米と初鰹漬け
③そば米雑炊

お食事は、上の3つのなかから選んでいただきます。お腹に余裕があれば、少量ずつ全種類のご注文もできますので、ご遠慮なくお申しつけくださいませ。

毎月変わる玉子とじは、白魚とうすい豆玉子とじです。春の定番食材である白魚に、こちらも春らしいうすい豆を合わせた玉子とじで、3月の定番になりつつあるひと品でもあります。体長8cmほどになる島根県宍道湖産の白魚を使っております。

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菓子|桜餅、黒苺

お菓子は、桜の季節にあわせた桜餅をご用意しました。

桜餅の生地の道明寺にも桜の花の塩漬けを混ぜていますし、あんこも葉の塩漬けを入れています。桜の葉がお苦手で外して食べる方もいらっしゃいます。その場合に、あんこ餅にならないように、桜の風味を生地にもあんこにも加えています。

色の濃さが印象的な「軽井沢ガーデンファーム」さんの黒いちご「真紅の美鈴」は、手をかけずそのまま食べていただくのが一番おいしいと思います。今回は、蜜や砂糖などをおかけしておりません。素材そのもののお味でお召し上がりください。

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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎︎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
  おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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構成・文=江六前一郎
撮影=永井聡史


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