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神無月の献立|みじかい今年の秋。きのこに柿、栗などでせめて献立は秋らしく

ここ数日で一気に気温が下がり、冬の足音すら聞こえてきたように感じています。

とはいえ10月の初めは、夏のように暑い日もあり、「いったい秋はどこにいったんだろう」と感じたこともあったほどです。そんな気候ですから、神無月(10月)も冬の食材にガラッと変わるかなと思っていたら、意外とそうでもなく、しっかり秋の食材がおいしくなっています。

今年は、松茸が例年より早く終わってしまいそうですが、それでも天然のきのこや栗といった秋の食材も出てきています。海の食材を見ても、カツオや鯛、鱧といった魚は冬を前に脂がのっておいしくなってきました。

おかしな気候が続いていますが、食材を見ていると、きちんと秋が訪れていることに気付かされます。

天然のきのこにもう一度向き合った秋

9月末に、長野県の奈潟轍さんと新潟県妙高にきのこ採りに行ってきました。今年から山菜やきのこといった山の食材は、奈潟さんにお世話になっています。定期的に山の中にも連れていってもらいましたが、秋のきのこのシーズンは初めてです。

2日間の滞在で、初日はすごく晴れましたが、次の日は雨。気候によって変わる山の景色を感じさせてもらいました。でもじつは、きのこはあまり取れなかったですよ(笑)。自然のものですから、そういうときもあります。

きのこの他にも、ヤマブドウやサルナシ、アケビなど、ふだんあんまりなじみがない食材も触れられ、山の食材の豊富さを改めて感じることができました。

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10月献立参考

秋の味覚といえば、松茸。楽しみにしていらっしゃるお客様も多いですよね。さらに最近では、松茸以外の天然のきのこ、いわゆる“雑きのこ”も、お客様のなかでもいろいろと知っていらっしゃる方も増えてきました。

しかし、まだまだスーパーで買える栽培されたシメジや舞茸の延長線上のように感じている人が多いようにも僕は、感じています。

というのも天然のきのこは、味付けの仕方、処理の仕方、料理の使い方で出来あがりは、まるっきり違ったものになります。同じように掃除して刻んで、何でも一緒にして炊いて出汁をとって餡かけにしたらいいというものではありません。食感や味、香りを重視することができるので、一つひとつに向き合ったほうがよりおいしく食べることができる食材だと思っています。

とくに奈潟さんときのこを採りに行くようになってからは、きのこの下処理を見つめ直すようになりました。

実際に山に入って、どんな環境にきのこが自生しているのかを知れたのは大きかったです。きのこの処理自体は、以前と変わっていなくても、奈潟さんの長年の経験とロジックを聞いて理解した上で処理をすると、これまでやってきたことも確信をもってできるんです。

たとえば、天然のきのこにつきものの虫。届いて何もせずに冷蔵庫に入れてしまうと、虫がさむがって中に入ってとれなくなってしまいます。そのため、届いたらできるだけ素早く処理することが重要です。

どうするかというと、ついている土を掃除してから塩水につけるんです。そうすると、虫がきのこから出てきます。

それから、冷蔵保存をするか、種類や使い方によっては冷凍した方がおいしく食べられるきのこもあるので冷凍にするか、奈潟さんにいろいろと確認しながら保存方法を決めるようにしています。

天然のきのこは種類によって香りも味もまったく違います。1つの種類だけで料理するのもいいですが、3種類のきのこを組み合わせて使うことで、香りと味に深みを加えることができます。

今月の献立でも天然の舞茸やクリタケ、ハナイグチ、ヒラタケなど、さまざまな天然のきのこを使っています。ぜひ、秋の山の味覚を感じに乃木坂しんにいらしてくださいませ。

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乃木坂しん 神無月のおまかせコース(18,000円)を紹介します

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座付|牡丹海老 イクラ 小茶碗寿司

たっぷりのイクラの醤油漬けにボタン海老。イクラの下には、白酢のシャリをしいてちらし寿司のような仕立てにしてあります。

うま味の強いものが多いですが、赤酢ではなくさっぱりとした白酢のシャリと、仕上げに削った柚子の皮が、全体をうまくまとめてくれていると思っています。

牡丹海老は、風味と香りをつけるために日本酒にくぐらせてあります。生の甲殻類にある独特な風合いがお好きな方もいらっしゃるのですが、今回は他の食材に合わせて食べやすいようにしています。それでも、牡丹海老はもともと香りがしっかりありますので、ちょうどいい風味と香りになっていると思います。

イクラの醤油漬けは、イクラの風味を活かしたいので出汁の割合を多めにしています。醤油の割合を少なくすると、その分塩分も少なくなって、イクラから離水してして卵がつぶれてしまうというようなこともありません。

風味を活かして、しっかりとハリのあるイクラの醤油漬けをぜひ味わってみてください。

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先附|渡り蟹と柿 香茸の白扇揚げ

さっそく、天然のきのこを使った一品です。名前のとおり香り高い「香茸」を白扇揚げにして、柿と渡り蟹に合わせています。

渡り蟹と柿、香茸の組み合わせは、ほかではあまりないのではなかと思っています。

もちろん、3つの食材をただ盛り付けただけでは、味がバラバラなので、ペーストにした柿にリンゴ酢と貴醸酒を加えて酸味を利かせたすり流しで全体をまとめています。

白扇揚げは、小麦粉とコーンスターチに水を合わせた衣をつけて揚げたもので、サクッとした食感に仕上がります。

香茸は、今までは炊いて出汁をとることが多かったんですが、奈潟さんのところで香茸の天麩羅をいただいたら、それがすごくおいしくて。揚げることでうま味と香りが引き立つように感じたんです。

そのことを奈潟さんに話したら「揚げるなら軽く干して乾燥させてからの方がいいよ」と教えてもらったこともあって、数日乾燥させてから揚げています。やはり、乾燥させるとうま味が凝縮するんです。

半分くらい乾燥させたものや、しっかり乾燥させたものをそれぞれ揚げて食べ比べてみたんですが、凝縮感と食感が違ってそれぞれにおいしさがありました。どの方法でもおいしく食べられるのですが、今回の料理では、半分くらい乾燥させた香茸が合うと思っています。

全体をまとめている柿のすり流しは、柿自体の甘さだけではぼやけてしまうところを、酸味を利かせたすり流しを合わせることで味の輪郭がしっかりと感じられ、柿の甘味がより強く感じられると思っています。香茸の白扇揚げとも相性がいいですよね。

写真では香茸の白扇揚げと刳りぬいた柿を、柿のすり流しで和えて盛り付けていますが、和えると味が弱まってしまうので、今は上からかけるようにしています。

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前菜|栗 焼き胡麻豆腐と生雲丹

久しぶりに焼き焼胡麻豆腐を献立に入れたいな」と思い、やるなら新しい仕立てにしようとレシピを変えてみた一品です。お客様からとても好評で、うれしいです。

焼いた胡麻豆腐に雲丹と山葵をのせ、その上から栗をたっぷりと削りかけたら最後に刻んだ切り胡麻をふりかけています。胡麻は、喜界島の「樋口のお宿」の国産胡麻です。

焼き胡麻豆腐にしっかりと栗をからめて召し上がってみてください。

焼き胡麻豆腐は、いつもより固めに練っています。その方が焼いたときに形が崩れにくいですし、火が入ることで食感も戻ってくるので、しっかりめに練って、しっかり焼くようにしました。

試作の段階ではそば出汁を注いでいましたが、せっかくの栗の味も香りもなくなってしまうのでやめました。その分、削った栗をたっぷりのせて、胡麻豆腐に塩を加えバランスをとっています。

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椀物|丸吸 炙り粟麩
針独活とタタキ木の芽

」とは、すっぽんを差します。つまり、スッポンのお吸い物です。ちなみにすっぽん鍋は「丸鍋」などともいいますね。

丸吸には焼いたお餅をつけることが多いのですが、今回はお餅じゃないほうがいいのかなと思いました。ですが、食感は餅のようなものが欲しい。そこで、炭火で焼いた粟が入った生麩にしてみました。

椀種のもう一つは、スッポンの身です。出汁をとった後に、酒と水、濃口醤油、みりん、砂糖で炊いて味を入れてあります。写真では、木の芽だけですが、今は針打ちにした独活を天盛りにしています。

今年から使っている天然のすっぽんは、シンプルに酒と水、昆布で出汁をとっています。天然は、クセや臭みがあって苦手という声も聞きますが、仕立てと味の処理の仕方でおいしく食べられると思っています。

今シーズンにお出ししていくなかで、そういった天然のすっぽんへの抵抗はなくなりましたね。身質も強いですし、うま味も甘味もある。ひいたすっぽんの出汁もすごく強い。

そのため丸吸にするには強すぎるということもあり、お椀ではすっぽんの出汁を一番出汁で割って使っています。

椀種のすっぽんの身は、あまりほぐさず塊で入れています。ほぐし身にすると椀盛りしづらいというのもありますが、何よりすっぽんの力強さを感じてもらうためにも、しっかり噛み応えがあるように塊で入れた方がいいと思いますね。

なんでもかんでも食べやすくすればいいかというと、必ずしもそうではないのではないでしょうか。あえて食べやすくし過ぎないことで、素材の個性を理解してもらえることもあると思うんです。

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造り|カワハギと生肝
もって菊甘酢漬け

カワハギの造りは以前もお出していましたが、今年から肝の仕立てを変えてみました。

これまでは肝を火入れして角切りにしてお造りにのせていました。しかし先日、浅草のお寿司屋さんで生のまま角切りにした肝をのせたお造りをいただいて、おいしいなと思ったんです。

そのため、今年からは生肝を添えるようにしております。

皮ハギの肝に少しだけ塩をあててうま味を引き出していきます。同時に塩の浸透圧によって離水するので、肝の臭みもとれるんです。これを裏漉ししてペースト状にしてお造りと一緒に盛り付けています。

お出しする際は、造り醤油もお出ししています。写真では、お造りの上にのせていますが、今は、添えるようにしてありますので、そのまま切り身で肝を挟んで食べていただくのがいいと思いますが、造り醤油に溶いて肝醤油にしてもおいしいですし、同じく添えてあるもって菊の甘酢漬けや山葵などを間にはさみながら、いろいろなお味で召し上がってみてください。

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炙り|鰹のタタキと小松菜のおひたし

脂がのってきた秋の戻りかつおをタタキにしました。福井県の地辛子と胡麻油であえた小松菜のおひたしを付け合わせてあります。

乃木坂しんのオープン当初から作り続けていて、先月の長月(9月)の献立にも入れていた鯛のたたきと同様に、皮目をしっかり藁で炙ってありますが、鯛と違うのは、身の方も藁で炙って火を入れているところです。

切り口の断面を見てみると、うっすら身の方にも火が入っているのがわかると思います。

カツオの身は、やわらかくてねっとりしているのが特徴です。そのおいしさを強調するためにも、火を入れることでやや繊維質を感じるような部分を作ってコントラストを作ったほうがより伝わりやすいと思っています。

小松菜のおひたしもお客様に好評です。胡麻油に塩を足して、糸削り節を合わせています。喜界島の樋口さんの国産の胡麻油の風味の良さがすごくよく出せました。

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八寸|カマス松茸焼き
黒無花果の胡桃和へ
むかご豆腐 カリフラワー甘酢漬け 食用ほおずき

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。

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カマス松茸焼き。松茸をカマスで巻いて焼いてあります。

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黒無花果の胡桃和へ。胡桃はミキサーで攪拌しただけの胡桃100%のペーストです。

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カリフラワーの甘酢づけに食用のほおずき、むかご豆腐。

むかごとは、ヤマイモや自然薯などのイモのわき芽が養分を貯え肥大化したものです。むかご豆腐は、そのむかごを使った厚焼き玉子です。水気を抜いた木綿豆腐と卵に味をつけて生地を作り、蒸したむかごを半分くらいに切って混ぜて一緒に焼き上げてあります。

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強肴|短角牛炭火焼
天然きのこのあんかけ

炭火で焼いたいわて短角牛のサーロインのお料理ですが、僕としてはお肉と同じくらい天然のきのこのあんかけを食べていただきたいお料理です。

写真では、アカヤマドリ、ハナイグチ、松茸で作っていますが、きのこの種類はその時期に手に入る天然のきのこで作っていきます。

短角牛とともに、出汁で炊いた冬瓜と一緒に盛り付けてからたっぷりの天然きのこのあんかけをかけて、山椒の佃煮を添えてあります。

あんかけは、しっかりときのこの出汁をとるとこを意識しているのと、きのこの味や香りを楽しんでもらいたいので、醤油が強く出すぎないようにも心がけています。

天然のきのこは、塩水につけて掃除したあとに冷凍しています。きのこは冷凍することでうま味が増すので、今回のように出汁をとる場合におすすめです。

解凍してから昆布と鰹節の二番出汁で炊いて出汁をとります。そこに葛粉を加えてとろみをつけて餡にしてあります。

なお、短角牛と同じくらい天然きのこのあんかけを味わってもらいたいので、お肉には塩やコショウをしていません。塩やコショウをした方がお肉をおいしく食べられるのですが、どうしてもお肉の味が強くなりすぎてしまうからです。

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温菜|鱧と揚げ海老芋
山うにみぞれ出汁

鱧切りしたものを塩水で湯引きしてあります。海老芋は出汁で炊いてから切り出して、葛粉をまぶして揚げました。

山うには、福井県の辛み調味料で、赤ナンバという辛みのない唐辛子と普通の辛い唐辛子、塩、柚子をすり鉢で1時間ぐらいすって作ったものです。柚子の香りと唐辛子の辛みが特徴的な調味料で、福井県では、鍋の薬味に使ったりするそうです。

この山うにを鱧の骨でとった出汁に加えて、塩と濃口醤油、そして三河の本みりんで味をつけています。みぞれ出汁のようなものですね。

最後に大根おろし入れて調節し、鱧と海老芋を盛り付けた器にまわしかけています。鱧も脂がのってきた鱧ですので、少し辛みのあるさっぱりしたみぞれ仕立てが合うと思います。

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食事|炊きたて新米
鯛滋味作り 味噌汁 漬物

毎月変えている献立では、季節の食材を使った混ぜご飯や炊き込みご飯をお食事では用意していますが、新米の時期だけ、白米を炊いてお出ししています。

通年でお出ししている食事では、僕の故郷の徳島県の奨励米である「ヒノヒカリ」を使っています。

代表的で高級品種といわれている「コシヒカリ」は粒が大きくて、甘味やうま味が強い、わかりやすくおいしいお米だと思うんです。和牛でいったらサシが強いA5ランクのサーロインみたいなおいしさがあります。

もちろんコシヒカリはおいしいお米なのですが、おいしすぎるとかえって食べ続けるのは難しいことありませんか? ヒノヒカリは、やや小粒で昔の米のようです。一粒一粒がしっかりしていて、噛みしめると歯ごたえがある。さらに咀嚼していくうちに甘味やうま味を感じられるんです。

じつは、作っているのは徳島市の親戚が減農薬栽培しているもの。”親戚だから”というわけでなく、ヒノヒカリはおいしいお米だと思っています。

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菓子|栗あんみつと栗アイス

白玉と煮小豆、栗の甘露煮と糖蜜と阿波晩茶の2種類の寒天のあんみつに、自家製の栗アイスをのせてあります。

栗のアイスは、毎年評判が良くて、プロの方からも「しんさんの栗のアイスクリームが、今まで食べたもののなかで一番おいしい」と言ってくださるほどです。ですので、作り方は企業秘密です。というのは嘘です(笑)。

作り方は簡単で、栗を剥いて蒸して火入れして裏漉したものをバニラアイスに混ぜるだけです。作り方は簡単ですが、原価はしっかりとかけていますので、おっしゃる通り栗のアイスはおいしいくできていると思います。

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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になります】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
     おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。
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構成・文・撮影=江六前一郎
編集協力=吉川大智

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