傷もアートになる│現代美術家の渡辺篤さん
皆さんの中にも、もしかしたら覚えていらっしゃる方もあるかもしれません。
いま、増えていると言われている「ひきこもり」というテーマに、ご自身も三年に及ぶひきこもりの体験をもっている美術家さんが、現代美術の手法でこのテーマに取り組んでいるというインターネットの2014年の記事。
http://diamond.jp/articles/-/61369
「ひきこもりの部屋」がアートになる!?元当事者の芸術家が部屋の写真を募集中!|「引きこもり」するオトナたち|ダイヤモンド・オンライン
ぼくは、この美術家さんの東京での展示開催中に2回足を運んで、作品から強く前向きなメッセージを受け取った一人です。あまりその体験が強烈だったので、展示物から創られた作品の購入もしたのでした。
今回は、その展示「止まった部屋、動き出した家」の作家さん。現代美術家の渡辺篤さんの横浜のアトリエと石垣島をネットでつないでお話しを伺いました。
(>)再生ボタンを押すと再生できます。
是非、下の画像や説明を読みながらお聞きください。
渡辺 篤 / ATSUSHI WATANABE(現代美術家)
《プロフィール》
…1978年神奈川生まれ。東京藝術大学在学中から自身の体験に基づく、傷や囚われとの向き合いを根幹とし、かつ、社会批評性強き作品を発表してきた。表現媒体は絵画を中心に、インスタレーション・写真・パフォーマンスなど。
テーマは、新興宗教/経済格差/ホームレス/アニマルライツ/ジェンダー/ひきこもり/精神疾患など多岐にわたる。卒業後、路上生活やひきこもり経験を経て2013年、活動再開。以後精力的に発表を続けている。
…自身の制作活動以外では、美術家・会田誠の制作助手を2008年より務め、2009年には共に中国北京にて長期滞在制作を行った。2012年森美術館 会田誠個展「天才でごめんなさい」などでの制作協力。
《主な展覧会》
2008 「チバトリ」千葉市美術館
2009 「ASIA PANIC」光州ビエンナーレホール(韓国)
2013 「Who By Art Vol.2」西武渋谷店美術画廊
2014 個展「ヨセナベ展」Art Lab AKIBA
2014 個展「止まった部屋 動き出した家」NANJO HOUSE
他、多数
渡辺篤HP http://www.atsushi-watanabe.jp/
■
【東北で大津波が来た少し前に部屋を出た】
渡辺篤は2011年東日本大震災のちょうどひと月前まで深刻なひきこもりだった。
失恋や美術家としての将来の不安、活動していたコミュニティからの排除、永らく患った鬱などが理由。二度と家から出ない、社会的な死、時間をかけた(物理的痛みの無い)自傷行為という意識だった。しかし、その後、父親母親それぞれとの関係をきっかけに部屋を出てひきこもりをやめることを決意。ひきこもりをやめた日に自身の姿と、ほとんど寝たきりで暮らしていた部屋の写真を記録に収めた。
ひきこもりをやめた日
2011
©ATSUSHI WATANABE
…ひきこもりをやめ、部屋を出ると決めた日にセルフポートレートを撮った。
■
【ひきこもりとは】
厚生労働省によると、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態。時々は買い物などで外出することもあるという場合もひきこもりに含める。」と定めている。しかしながら、実際のところひきこもりはその限りでは無い。ひきこもる理由やひきこもり方は多様であり、自身でもその理由を気づけない場合や心身の疾患や障害が関係する場合もあり、なかなか線引きをしづらい部分もある。日本では近年、中高年のひきこもりが増えてきていると言われている。日本のひきこもり総数の推定は70万人とも100万人とも。ひきこもりとは、ブラックボックスであるがゆえに、国もその全体像を把握しきれていない。
止まった部屋 動き出した家
2014
photo: Keisuke Inoue
©ATSUSHI WATANABE
…個展会期中、渡辺篤がコンクリートの造形物に
約1週間密閉され続けている。
止まった部屋 動き出した家
2014
photo: Keisuke Inoue
©ATSUSHI WATANABE
…金づちとノミを使い内部から出てくる様子。
止まった部屋 動き出した家
2014
photo: Keisuke Inoue
©ATSUSHI WATANABE
…コンクリートの家から8日ぶりに外に出る。
密閉期間、飲食や排泄などは全て内部で行なった。
THE WALL
2014
photo: Keisuke Inoue
©ATSUSHI WATANABE
…個展でのひきこもりパフォーマンスの際に、壊したコンクリート壁の断片を「ベルリンの壁」に見立てて作品として販売した。会期中に限定10個すべてが完売した。
室内画(枕カバー)
2014
制作協力: 中山由都
photo: Keisuke Inoue
©ATSUSHI WATANABE
…渡辺篤が過去実際に実家でひきこもりをしていた当時の部屋の様子。
ひきこもりをやめる日に写真に収め、枕に印刷し作品化した。
この展覧会の折り、実際にひきこもりをしている方々から
インターネットを通じて、ひきこもっている部屋の写真を募集した。
■
「2011年東日本大震災のちょうどひと月前まで僕は、
実家の自分の部屋でひきこもりをしていた。」
2016
48.5cm×48.5cm
セメント、樹脂、ポスターカラーなど
©ATSUSHI WATANABE
「2011年東日本大震災のちょうどひと月前まで僕は、
実家の自分の部屋でひきこもりをしていた。」(制作過程)
2016
©ATSUSHI WATANABE
■
【募集 ! あなたの傷を教えて下さい】
渡辺篤が、さまざまな人の、心の傷を美術作品として描くプロジェクトを行ないます。インターネットを通じて匿名で募集しています。ぜひご協力ください。
詳細はこちら http://www.atsushi-watanabe.jp/kizu/
どうぞよろしくお願いします。
○概要
・あなたの心の傷を、HPの<投稿フォーム>に書いて投稿してください。
・投稿された全ての文章は一旦、渡辺篤HP内のプロジェクトページにテキストとして掲載致します。
・掲載されたテキストの中から幾つかを選択し、渡辺篤の作品として使用させていただきます(コンクリートを素材とした円形板状の作品です)。
・テキストは、円形のコンクリート板に書かれたのち、ヒビを入れ、そして傷の縫合としての 「金継ぎ※」を施します。
※「金継ぎ」…金継ぎとは、割れたり欠けたりした器を漆などで接着し、繕った部分を金で装飾していく、陶芸の伝統的な修理技法。割れた陶器は元には戻らないが、一般的に劣化や価値の欠損とみなされてしまう傷(割れ/ヒビ/欠け)が活かされて別の価値を持ち、傷口は輝く。 「金繕い」ともいう。
陶器の修復技術としての金継ぎの実例