日記【 1400万人の宿主 】
「あ、エビフライだ!だから刺さないよ!」
電車の乗客たちは無表情だが、姉の言葉に内心「???」だったであろう。
先日は、のっぴきならない事情があって姉と東京へ電車で出かけた。
その電車の窓が開け放たれており、虫が侵入してきた。
その虫は、縦横無尽につり革やら荷棚などにバチバチぶつかりながら飛び、近づいて来る度に頭を低くしてやり過ごした。
速すぎて、なんの虫か分からない。一見蜂のようなので皆戦々恐々としている。
しかしついに姉がその正体をつきとめた。
それが、エビフライである。
エビフライだから、もちろん刺さない。毒もない。
エビフライエビフライ言っているが、その正体は蛾の一種
「オオスカシバ」という可愛いやつだ。
私は蛾の顔が大好きなので可愛いと表現するが、苦手な方もいらっしゃると思うのであえて写真は載せない。
しかしその姿は本当にもふもふのエビフライなので、気になる方は是非検索して欲しい。
オオスカシバで検索すればもちろんヒットするし、
「ハチ エビフライ」でも出る。私は、正体を知らない時これで検索してオオスカシバにたどり着いた。そのくらい、日本人共通でオオスカシバはエビフライなのだ。
エビフライだ!にギョッとした乗客の皆さんに画像を見せたら
えーホントだエビフライ!と納得して貰えると思う。
蛾は可愛い。信じられないかもしれないが、蛾界隈のアイドル、
白くてもっふもふの「カイコガ」を見ればもう虜ではなかろうか。こちらも、いける口の方は是非。
カイコは幼虫の時に一生分の葉っぱを食べる。成虫になったらたまごを産むだけで、何も食べずにその二週間の命を終える。
品種改良の悲しい歴史もあるので、あまり深い検索はしない方がいいかもしれない。
「オオミズアオ」なんかは、外見が美しい。これも必見だ。
なぜこんなに蛾に文字数を割いているのだろう。
東京では、
大勢の人と会わなくてはならなかった。
人といると、"盛り上げなくては精神"が発動してわいわいしてしまう。笑いをとらずにはいられないし、笑って貰えたら嬉しい。
しかし、その必死さで空回りしてしまい、あとになって
「やりすぎたかな…なんか変なこと言わなかったかな…実はうるさいと思われてたかな…場違いだったかな…いない方が良かったかな…死のう」
ってなるので人と関わるのはなるべく避けたい。
東京は汚い。
いやいや、ビルとか商業施設とか夜景とかええやんと思うかもしれないが、
電車、ホーム、コンコースには閉塞感があって空気がよどみ、少し下水臭い。
私は、東京だと思っている。
一時住んでいたが、私には田舎の広い空が性に合っていると気づいた。
東京のメリットは、なんでも売ってるし色々なイベントが目白押しな事だろうか。逆にいえば、東京ばかりに集約して地方出身者には優しくない。
特に、推しがいる人にとっては非常に嘆かわしいことだと思う。推しは大抵東京にいるのだ。いや、推しのためならそんなことは関係ないのか。
推しのためにスーツケースを引いて新幹線で前乗りする。
それはそれで、素敵な体験かもしれない。
それでも、物も仕事も娯楽もある東京に移り住む人は多いだろう。人口1400万人の殆どは、地方出身者だろうな。
そんななんでもある東京にもデメリットはある。
それは、ゴジラに襲われる確率が100%だということだ。
そういえば「首都が岡山になる」と予言した未来人がいた。
おそらくゴジラが首都圏全域で破壊の限りを尽くしたのであろう。
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そんなこんなで
死のう…と落ち込んだまま東京を後にした。
おそらくそこで、コロナを連れてきてしまったのだと思う。
その前から、うちでは風邪が流行していた。
まず母。母は検査の結果陰性だった。
その後父。父は検査を受けていないが、母からうつったのであろうという感じでとくに検査なし。
そして私。日曜に東京へ行き、火曜日に発症。
でも待てよ。
父は検査をしていないのだから、父からうつった可能性だって否定できない。
コロナ流行当初、東京ナンバーの車が投石されたりポストに誹謗中傷の文書が投函されていたり、醜い人間の本性を見た事は記憶に新しい。
なんでも、東京のせいにしちゃいけないね。
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発症から四日目、やっと熱が37℃台に下がってきた。
咳や鼻水が出てきたので、やつらが
この宿主はもうええわ、と出ていってまた誰かに寄生しようとしているサインだ。
残念だったな。お前たちは私の部屋に幽閉されて私と共に朽ちていくのだ。もうあの東京という宿主だらけの楽園には帰れないぞ。
いや、断じて東京のせいじゃないんだけどね。
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*トップ画は東京に本当にあるゴジラ像です。
ありがとうございました。