日記【 偉大なる猫への道 】
先日書いた日記の冒頭で、若白髪の話をした。
前髪がブラックジャックだなんだ言っていたが、本当に伝えたかった事がすっぽり抜けてしまった。
本当に伝えたかったのは、「眉毛に白髪が生えた」だった。
至極どうでもいい。
そして、眉毛に白髪が、という話を姉にしたら、
あー、あるよね、私は鼻毛にある。
なんかよくわからないけど、負けた。
そんな姉は今月、昇進が決まった。
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先日は一日寝込んでいた。
母に対する怒りの放出で、エネルギーが無くなってしまったのかもしれない。
布団に押し付けられ、目を閉じ、呼吸している。
それしかしたくない。
電気もつけず、夕方には部屋が真っ暗になった。
そこに、リモートワークを終えた姉がやってくる。
私はガバッと飛び起きる。
怠け者だと思われたくないし、具合悪そうなんて思われたくない。
あらやだ奥さんこんな夕方まで寝ちゃったわよほほほ
みたいな雰囲気で、上機嫌キャンペーンを貫く。
”今まで寝ていたとは思えないほどの元気”、のボルテージを一気に100%にまで引き上げる。
多分顔色は悪い。
対して母の”具合悪いキャンペーン”である。
先日母に怒鳴ったことが奏功し、母のキャンペーンはとりあえず中止されている。いつまで続くことやら。
具合悪いキャンペーンをしていると、本当に具合悪い時に誰も助けてくれなくなると思う。狼少年だ。
しかしまあうちは本当に具合が悪かろうが人に無関心なので
嘘でも誠でも、具合悪そうに振る舞うことに大したメリットは無い。むしろ”無視”というダメージを食らう。
子供の頃、病院に連れてってというと母は嫌そうな顔をした。
具合が悪いって、言ってはいけないんだ。
そしていつだったか、私は「心配してもらう」ことを諦めたのだった。
薬は人前で飲まない。
「心配して」アピールになるからだ。
精神科の薬はもちろん、痛み止めなどなど、薬は全部こっそり飲む。
家族から見れば、私はすこぶる健康だ。これでいい。
具合が悪ければ、部屋にこもって一人でうーうー唸っている。
猫と同じだ。
手負いの所を見られてはならない。
その、「心配してもらう」ことを私に諦めさせた母親を、
どうやったら心配できるのだろうか。
母のステージIVですら心配できなかったこの心を
どうやったら「お母さんを心配する健康な子供」に戻すことが出来るのだろうか。
まずは、親子逆転を直さなければ、絶対に不可能だろう。
というわけで、不可能なのであった。
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ところで、猫の病院に行ってきた。
2週間ほど前にリリースした保護猫ちゃんが、謎の症状を呈して玄関の前でうずくまっていたのである。
どうした。
とても見ていられるような症状ではなかった為屋内に連れ込み、どうしたの、どうしたのと聞いてみるが分からない。
終了10分前の動物病院に滑り込みで電話すると、翌午前の予約外で診てくれるという。よかった。
と思っていると、猫ちゃんの症状が治まってきた。
むしろ、元気じゃないか。
どゆこと?
結局、朝になったらすこぶる元気で、まあ良かったんだけど病院どうしようだった。
案の定病院では「わからない」ということだったが、喧嘩した痕跡があったので、一応抗生剤を、ということになった。
足が痛く上げられないようで、耳が痒くても届かず宙をかくばかりだ。とても可愛い。
これ、”エアギタースクラッチ”っていうんですよ
と、ギターが趣味の先生はにこにこしながら教えてくれた。
なにそれ可愛い。
猫ちゃんは再びリリースした。ご飯の時間には帰ってくるだろう。都合のいい女として使われるのは満更でもない。
猫は、体調不良を隠す生き物だ。”具合悪いキャンペーン”などすれば、他の猫にやられてしまう。心配して欲しい、なんて1ミリも思わない。
その猫が、玄関に小さくうずくまって私たちが出てくるのを待っていた。顔にも覇気がなく、ぐったりしている。
相当苦しかったに違いない。
猫は人語を理解しても話せない。顔は無表情だし、体調についてはひとつも透けて見えない。
ぼんやり寝ているように見えても、実は「お腹いてぇ…」と思っている可能性もある。
なので、向こうの意志とは裏腹に、いつも心配するようにしている。
猫は偉大だ。
私も縄張りを奪われないよう、なるべく体調不良を隠したい。
人前で薬なんて飲んだらどうだ。こいつ手負いだなと見透かされて喉を掻っ切られるだろう。
でもでもやっぱり
「心配されたいなぁ」なんて憧れを抱いてしまう。
偉大なる猫への道は険しいのだった。
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読んでいただきありがとうございました。
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