[番外編②]1年経っても消えぬ焦燥感
2023年10月7日を境に、光が消えた。
イスラム組織・ハマスが踏み切った越境攻撃。
直後から始まった、イスラエルによる猛烈な「反撃」。
以前から「天井のない監獄」と言われ
非人道的な状況に置かれてきたガザの住民220万人は、
完全に行き場を失った。
あの日失われた光は、1年後の今も戻っていない。
世界一の人口密度と言われるガザの町は、
圧倒的な軍事力を背景に徹底的に破壊された。
人々は、総出で生き埋めになった隣人を掘り起こす。
そんな最中にもまた、容赦なくミサイルが降り注ぐ。
助かった命は病院へ運ばれ治療を受けるが、
その病院にもミサイルは炸裂する。
他にも、人々が避難を余儀なくされたキャンプ、
子供が通う学校も当然のように標的となった。
僕のスマホには、
現地で仲良くなったパレスチナの友人から
メッセージが届く。
それは、この惨状をどうにか知ってほしいという
血の滲むような切実なもの。
メッセージに添えられたのは、
破壊し尽くされたガザの町。
そして、大人、子供、
生まれたての赤ちゃんのご遺体が路上に並べられた
おびただしい数の写真。
地獄絵図のような光景が、
スマホ画面から目に飛び込んでくる。
生き延びたとしても、
インフラが完全に破壊されたガザでは、
生命の維持は困難を極める。
こうした写真の転載は、
予期せず見た人のショックを避けるため、
今回は控えようと思う。
ただ、平和ボケした日本に住んでいる人には、
ともすれば「戦争とは何か」を最も端的に、
血の通った形で伝えてくれるものかもしれない。
覚悟を持てる人は是非、
中東発の報道にも触れてみてほしい。
「報道の中立」が隠してしまう真実
混迷を極めるこの戦争。
開戦から早1年が経過した。
中東をめぐるニュース自体が
日頃、圧倒的に少ない日本でも、
新聞・テレビなど各メディアが大きく報じた。
しかし、その「報じられ方」には、
当初から違和感があった。
当時の報道を覚えているだろうか。
ハマスの奇襲を受け逃げ惑うイスラエル人。
暴力的手段で拉致されていく多数のイスラエル人。
ガザから放たれる散発的なロケット弾に
逃げ惑うイスラエル人。
人質を、家族を返せと訴え、
時に政府にも怒りの矛先を向けるイスラエル人。
そして、パラグライダーに乗って空を飛び
分離壁を越えていくハマスの戦闘員。
数十キロ離れた
イスラエル側のエルサレムやテルアビブから、
防弾チョッキを着て伝える日本メディアの記者たち。
他の国のリポーターたちは平服なのに。
そして、ガザに打ち込まれる高性能なミサイル。
1発のミサイルで崩れ去る灰色の建物。
瓦礫に塗れ、色を無くしたパレスチナの町。
怒号と共に運ばれていく無数の負傷者たち。
日本のメディア、
特にテレビメディアは「中立」が旨。
対立する2者がいれば、それぞれの主張や振る舞い、
受け止めを「対」にして伝える。
被害者と加害者という
善悪がある程度明白な場合においても、
その「中立」は時に、幅を利かせる。
どちらにも正義があり、守るべきものがある。
だから、中立に扱うのが是とされていたり。
この戦争もそう。双方に正義がある。
でも、違和感が拭えない。
そもそも、軍事力に雲泥の差がある。
ハマスのロケット弾と
イスラエルの精密なミサイル。
まるで横綱と幼稚園児。
クマとネズミ。
どうあがいても、力関係は拮抗し得ない。
そして、この戦争に至る背景には、
ガザの人々が経済的に困窮し
移動の自由さえままならない状況、
国際法違反なのに平然と続けられる
パレスチナの地への入植活動、
有形無形の圧力・暴力・横暴があったはずだ。
それでも、日本では「中立」の報道が続いた。
ハマスの奇襲攻撃で失われた命は1200人。
250人が人質として拉致された。
この行為は、もちろん責められるべきものだ。
人質の生還を祈らずにはいられない。
一方で、その人質を救出するため、
そして何よりも、ハマスを殲滅するため、
イスラエルは、ガザ市民の存在を認識しながらも
完膚なきまでに、土地を、人を、蹂躙していった。
イスラエル政府によれば、
それは「自衛権」の行使であり、
イスラエル市民の平和な暮らしのため。
しかし、ガザで傷つき続ける市民に
何の落ち度があるというのだろう。
「自衛権」という言葉が、
4万人を超えるパレスチナ人の命を奪い、
立て直せないほどに街を破壊してもいい
免罪符にはなり得ないはずだ。
人の命も政治のさじ加減
この戦争では、政治的思惑が状況を大きく左右する。
イスラエルは少数政党が乱立。
2022年までの3年半で総選挙は5回行われ、
連立交渉の結果、ようやく第三次ネタニヤフ政権が発足した。
ネタニヤフ氏の率いるリクード党も含め、
過半数の議席を得た政党はなく、
複数政党による連立を組まないと政権は維持できない。
極右政党や宗教政党と連立を組んだ政権は、
「イスラエル史上最も右寄りの内閣」と呼ばれている。
極右政党と結びついたネタニヤフ首相は、
入植という名の侵略行為を推し進めるなど、
政権維持のため、極右思想を政策に反映した。
極右の主張では、
もはやパレスチナ側は殲滅すべき対象。
ユダヤ人以外の存在を
イスラエル(パレスチナ)の地では認めない。
一方で、ハマスの越境攻撃を許した政権に
国民の間では大きな批判が渦巻く。
戦争が終われば、
こうした批判の声で政権はもたない。
「政権の延命」のため、
振り上げた拳を下ろすことができない。
だから、人殺しをやめられない?
戦争の出口を失った彼らにとって、
「敵側」にあるパレスチナ人の命は
当然、二の次なんだろう。
そして、イスラエルは
レバノン、シリア、イランなどにも
その銃口を向け始めた。
今、敵の司令官殺害などの「戦果」が
政権の支持率上昇に貢献しているという。
「政権の延命」の先に
どんな未来が待っているのか?
様々な思惑が複雑に絡み合う中、
問題の解決は困難を極める。
でも僕は、
イスラエルとパレスチナの人たちが
共存・共栄する未来をまだ、信じ続けていたい。
〆