【婚活#2】紹介されたAさんと初デート
「感じのいい人だな」
Aさんの第一印象は、想像していたよりずっと気さくだった。
年上の社長って聞いていたから、なんとなくいかつくて厳格なイメージを勝手に抱いていた私は、その時ちょっとほっとした。
「お待たせしました」
「あ、もう先に飲んでたよ」
ふとテーブルを見るとなんと先にワインを飲んでいる。深いボルドー色のワインを片手に笑顔だった。
「いえいえ、どうぞ」
そのときはとっさに言ってはみたものの、私はちょっと拍子抜けした。
社長というものは一般的な人とは少し違いネジが外れていることがある。
常識の少し斜め上を行くくらいでなければ厳しい世間は渡っていけない。
そして、そこはかとなく自己中心的な性格であること、それが社長だ。
それは私の前の主人が社長だったからよく知っている。そして仲間連中との付き合いの中でなんとなく理解はしていた。
「飲みます?」
Aさんは聞いてきた。
「私、実はワイン飲めないんですよ」
私はざっくばらんに話しかけてくるその雰囲気にちょっと苛立ちを感じていたのかもしれない。つい本音が出てしまった。
「えー!そうなの?先に聞いておけば良かったかなぁ?」
「大丈夫?今日イタリアンだけど」
それは大丈夫、イタリアンは大好きだ。
むしろ生ハムに巻かれてパスタの海に溺れたいくらい大好きだ。
「じゃ、行きますか?」
ということで目的地であるイタリアンレストランへ向かった。
その店はすぐ近くだった。扉を開けると店は貸切状態のように静かで客は誰もいなかった。
「いらっしゃい」
お店の人が来た。Aさんは頼み方から雰囲気から行きつけ感が出ている。
このメニューの頼み方も実に自己中心的感が出ていた。
「僕がおすすめを決めちゃっていいかな?」
「食べられないものがあったら言ってね」
そう言うとメニューもほとんど見ないうちからバンバン注文していく。
私はもう嫌な予感しかなかった。
たしかに友達としてなら気を使わずズバズバ話せるようになるかもしれない。
ただ私は元々そういうタイプではないし、どちらかいうと横柄な態度に対して敏感だ。
「次におつき合いするなら私を大事にしてくれる人」
そう決めていた私は、すでにこの時点で大事にしてくれなさそうな気配をムンムン感じていた。
もういいや、今日は友達として楽しもう。なんとなく吹っ切れた私はそのときそう決意した。
そう決めてからはこっちもある程度ずうずうしく話せるようになって楽しくなってきた。
その店での会話はAさんの仕事の話を中心に趣味や休みの日何してるなどごく一般的な話。あとは当時の私がしていた仕事の話、普段どんな生活をしているかなどもあまり気を使わず話した。
ふと気づくと2時間以上一緒にいたことに気づかないほど盛り上がっていた。
「また会ってくれますか?」
Aさんはワインで赤らめた顔で少し不安そうに聞いてきた。
私はそのとき、自分でも意外なほどすんなり、いいですよと答えていた。
続きは次回…