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規制とパロディについて、フランク三浦事件を振り返ります

私が2016年大学在学中に提出したレポートです。正確さは保証しません。
いろんな前提をぶっ飛ばしておりとても拙いですが、このテーマは楽しかったです。思い出としてここに残します。


                           

1 フランク三浦事件【平成27年(行ケ)第10219号】の概要

「フランク三浦」という原告の本件商標について、高級時計のブランドである「フランク・ミュラー」の商標権者である被告が商標登録を無効とする審判を請求したところ、特許庁が商標登録を取り消す旨の本件審決をし、それについて原告が本件審決の取り消しを求めた事件である。双方の呼称は類似するものの、外観において明確に区別しうることや、被告商品は多くが100万を超える高級腕時計であるのに対し、原告商品はその価格が5000円程度の低価格時計であり、その指向を全く異にするものであって、取引者や需要者が双方の商品を混同するとは到底考えられないなどして、本件審決は取り消された。

2 不正競争防止法に抵触するか


今回訴訟が起こされたのは商標に限ってのことであったが、現に、フランク三浦は自身の製造する時計を「フランク・ミュラー」の製造する時計のパロディウォッチと銘打って販売しており、時計本体の外観も似せている。(画像参照、上:フランク三浦 下:フランク・ミュラー)



フランク三浦

フランクミュラー


3 1号の検討

ア 時計の形態は商品等表示にあたるか
フランク・ミュラーの時計は、樽型のケースの形状・ビザン数字を用いた文字盤の数字の形状・長針、短針の形状など各要素又はこれらの組み合わせに形態上の特徴があるため、商品等表示性を有すると考えられる。また、フランク・ミュラーの腕時計が販売される以前は、上記の各要素又はこれらの組み合わせを備えた腕時計は販売されておらず、これらの特徴を持つ腕時計を独占的かつ継続的に製造し、販売したことにより、フランク・ミュラーの腕時計の特徴として認識されるようになり、出所表示機能を有するに至ったといえる。特に、樽型のケースと、ビザン数字で構成された文字盤インデックスを組み合わせた時計は「カサブランカ」と呼ばれ、フランク・ミュラーを代表するモデルである。

イ 周知性 
1986年にスイスにおいて製造が開始され、日本においても1998年に正式に販売が開始された。今、日本全国にフランク・ミュラーの正規販売店はあわせて50店舗存在し、日本公式オンラインショップも開設されている。また、レディースの時計も数多く販売しており、ファッション雑誌などにも掲載されているので、男女問わず時計収集を趣味としていない人々にも知られる機会はあると思われる。さらに、マイナビニュースによれば、「フランク・ミュラーは日本市場で成功した時計ブランドのひとつであり、フランク・ミュラーでは年間約40,000本の腕時計が生産されているが、そのうちの約14,000本が日本で売られている」(2015年12月時点)という。別の例を挙げれば、カルティエの腕時計は、2004年度日本において年間11,099本販売された。その状況の下で、カルティエの腕時計の形状には著名性が認められるとの判決が下されている【平成15年(ワ)第29376号 不正競争行為差し止め請求事件】。したがって、周知性にとどまらず著名性まで認められると考えられる。
ウ 同一又は類似
フランク三浦の腕時計とフランク・ミュラーの腕時計を比較すると、双方ともケースの形は樽型で、文字盤及びベルトは白色で共通しており、丸みを帯びた数字の形状とカラフルな色遣い、長針と短針の形状が似通っている。文字盤に付されている商標は非類似と判断されたが、全体的な形態的特徴はかなり類似しており、それを覆すほどのものではないと思われる。
エ 使用
フランク三浦は、フランク・ミュラーの腕時計の特徴と類似した部分について、自己の商品(時計)の表示として使用している。
オ 混同の恐れ
商標について争われた際、双方の混同の恐れを否定する判断はすでに下されており、私もその判断に賛成である。確かに双方の全体的な形態はかなり類似しているものの、双方は品質・価格・販売場所・販売方法等においてかけ離れているため、混同が起きるかという点には疑問が残る。品質について、フランク三浦の商品は非防水で磁気に弱い、ベルトに耐久性がないなど、フランク・ミュラーの商品とは比べ物にならないほど低い。価格に関しては、フランク三浦の腕時計の価格は大体5千円程度、高いものでも2万円弱である。対してフランク・ミュラーの腕時計は、新品ではどれも50万以上の価格であり、高いものは1000万を優に超える。楽天市場等で販売されている中古品でも20万円を下回らない。価格帯の著しい差から、需要者も異なり、本物のフランク・ミュラーの時計が5千円程度で手に入ると考える者もほぼいないと考えられる。また、販売場所・販売方法についても大きく異なる。フランク・ミュラー商品の使用実態は宝飾品といっても過言ではなく、伊勢丹・高島屋・三越など高級デパートの時計・宝飾売り場、ジュエリー&ウォッチコーナーなどで店舗や専用の販売スペースを構え、宝飾品と同様に販売されている。一方、フランク三浦の商品の販売場所は、公式オンラインショップのほか、ドンキホーテ、時計倉庫TOKIA(全国16店舗)などカジュアルな製品を扱う店舗に限られ、双方が同じ店舗に売っていることはまずないであろう。また、公式サイトの態様もそれぞれ全く異なり、フランク三浦のオンラインショップには、パロディ商品であることが明記されている。したがって、フランク三浦の時計がフランク・ミュラーと同一又は関連する出所の商品だと誤信される危険性はなく、混同の恐れは生じないと考えられる。

ア~オより、混同の恐れの要件が充足しないため、不正競争防止法2条1項1号には該当しないと考えられる。

4 2号の検討

ア 時計の形態は商品等表示にあたるか
1号の検討に同じ
イ 著名性
1号の周知性の検討で著名性があることまで確認済み
ウ 同一又は類似
 1号の検討に同じ
エ 使用
 1号の検討に同じ
オ フリーライド・ダイリューション・ポリューションのいずれかを引き起こしているか
 フリーライドとは、自らが本来行うべき営業上の努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力に便乗することである。(経済産業省HPより)フランク・ミュラーの商品形態が著名になっていなければフランク三浦の商品が買われることはないので、フリーライドとであると考えられる。フランク三浦事件の判例では、「原告が考案した巧妙なパロディにより需要を獲得しているのであるから、被告使用商標へのただ乗り(フリーライド)ではない」との考え方が示されているが、これは商標の話であるので商品全体の形状についても当てはまるとはいえない。
ダイリューションとは、「永年の営業上の努力により高い信用・名声・評判を有する
に至った著名表示とそれを本来使用してきた者との結びつきが薄められること」である(経済産業省HPより)。フランク・ミュラーの時計の形態は、他社の時計には見られないユニークなものである。樽型のケースやビザン数字は古くからあるもので、アンティークのような雰囲気を思わせるものであるが、それを90年代に復活させ、最新の時計ファッションに取り入れた功績は大きいといわれている。結果的に、フランク・ミュラーを体現する特徴としてその形態は著名となり、人気を博した。また、歴史は比較的浅いが、オメガやロレックスなどほかの高級時計ブランドと並べて名前が挙げられるようになり、高い信用・名声・評判を有するに至ったといえる。したがってフランク三浦が似たような時計を製造することは、腕時計の形態とフランク・ミュラーのイメージとの結びつきを稀釈することにつながると考えられる。
ポリューションについて、フランク三浦の商品がフランク・ミュラーのイメージを汚染するかが問題となる。フランク三浦の腕時計は、フランク・ミュラーの腕時計の価格の100分の1~1000分の1の価格で販売されている。また、品質も、非防水であることやベルトに耐久性がないなど、フランク・ミュラーの製品とは比べ物にならないほど低い。さらに、フランク三浦の公式サイトでの商品の説明には、フランク・ミュラーの理念とはかけ離れた下品な記載も見受けられ、低俗なイメージを与えていることは否定できない。したがって、フランク・ミュラーの高級なイメージは汚染されていると言える。
以上のことから、フリーライド・ダイリューション・ポリューションのいずれにも該当する。

ア~オより、要件を充足し、フランク三浦の行為は不正競争防止法2条1項2号に該当すると考えられる。



5 不正競争防止法とパロディ商品の関係(私見)

まず、先の事例を踏まえて1号における類似性と混同の恐れの関係について考える。
実際、消耗品を買う時と違って、それなりに値段の張る時計を買うときは注意深く選び、よく観察してから買うものであるから、文字盤に付された「フランク三浦」の商標には気づくはずである。また、裏蓋にも「完全非防水」などの記載があるため、少なくとも本物のフランク・ミュラーの時計ではないことはわかるのではないだろうか。しかし、商品の形態(特に、フランク・ミュラーの時計の特徴といわれるビザン数字や、樽型のケースとその組み合わせ方)が酷似しているため、非類似とされた商標の記載や、漢字の記載が裏蓋にあるからと言って、全体的に類似した印象は払拭できない。したがって、商標等の記載は混同を生じさせないような機能は有しているものの、類似性を覆すものではないということになる。簡単に言えば、「似ているが違いが分かる」ということだが、これこそがパロディ商品の性質なのではないかと私は思う。似ていて違いが分からなければ、ただの模造品になってしまう。したがって、パロディ商品と認めるには、混同の恐れがないことが必要だと考えられる。これではパロディ商品が1号には必ず該当しないことになるが、ここで、混同の要件を有しない2号の規定が意味を持つ。
そもそも2号の規定は、以下の経緯から平成5年に新設されたものである。
「情報化社会において,様々なメディアを通じ商品等表示が極めてよく知られるものとなると,それが持つ独自のブランド・イメージが顧客吸引力を有し,個別の商品や営業を超えた独自の財産的価値を持つケースが増大した。そのような著名表示を冒用する行為によって,たとえ混同を生じない場合であっても,冒用者は自らが本来行うべき営業上の努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力にフリーライドすることができる一方で,永年の営業上の努力により高い信用・名声・評判を有するに至った著名表示とそれを 本来使用してきた者との結びつきが薄められる こと等への懸念が増大した。 こうした状況の変化と判例・学説等の展開を踏まえ,著名表示の冒用行為については,混同の有無を問わず,新たな不正競争類型として位置づけることとした」(経済産業省HPより)
2号の新設趣旨は、商品表示・営業表示の標識機能と顧客吸引力、特にブランド・イメージを保護するものであるといえる。要件は、周知性にとどまらず著名性まで立証する必要があり、混同の恐れがなくとも適用される点で1号と異なる。また、類似性の要件は1号と共通するが、黒烏龍茶事件(平成19(ワ)11899)では、不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準について、以下の様に判示している。
「不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。」
この判例でいう、「容易に著名な商品等表示を想起させる」とは、パロディ商品としてあってしかるべき性質である。したがって、パロディ商品はすべて稀釈化を引き起こしているということになり、不正競争防止法2条1項2号に常に当てはまってしまうことになる。
日本ではパロディであることを理由として特別な扱いをする規定が設けられていないので、パロディをすべて2号にあてはめてしまってよいのかという問題がある。しかし、1号あるいは2号に当てはまっただけでは差止請求や損害賠償請求はできず、それらが認められるには、不正競争防止法3条及び4条にあるように、営業上の利益の要件が必要となる。よって、最終的にはその要件の検討で調整を図るべきであると私は思う。
例えばフランク三浦のケースでは、フランク三浦に時計の形態を使用されたことにより、フランク・ミュラーがどのくらい不利益を被るかを考えるべきである。損害賠償請求に関しては、混同の恐れが認められないので双方を間違って買われたり、代替品として購入されたりすることはほぼないだろう。少なくとも、それが原因となる金銭的な損害はそれほど受けていないのではないかと思う。差止め請求は利益侵害の恐れで足りるけれども、差止にせよ損害賠償にせよ、実際に考えられる侵害というのは、ダイリューションが起きた結果、低俗で安っぽいイメージをもつフランク三浦と間違えられると嫌だから、フランク・ミュラーはやめてほかの時計にしよう、という人が出て、フランク・ミュラーが本来受けるはずであった利益を得られないということである。その様な人が一定数いる、または今後出てくる恐れがあるというためには、フランク三浦の時計もフランク・ミュラーの需要層にある程度は知られているという立証をしなければならない。
また、フランク三浦の利益を保護すべきか、ということも問題である。フランク三浦が、フランク・ミュラーの類似の商品形態を使うことの意味というのは、社会風刺など特別な意味合いを持つものではなく、単なるギャグである(フランク三浦本人もそのような発言をしている)。そして、「フランク三浦」の商標が付されていても形態がフランク・ミュラーと全く似ていなければ、商標が非類似である以上は別の時計となってしまうので、やはりフランク・ミュラーの時計の形態の顧客吸引力に依存して利益を得ている部分は大きいと思われる。
 私見では、フランク三浦の時計について、はじめに提示した写真のような、商標がなければフランク・ミュラーと区別することが難しい商品については販売差し止めが認められても良いのではないかと思う。フランク三浦の商品は、ヨドバシカメラ等でフランク三浦の販売コーナーが特別に設けられていること、地下鉄の車内に広告が出されていることなどから、フランク・ミュラーの需要層の目にも触れる機会はあると思われる。また、時計に付されている「フランク三浦」の商標は小さいため、近くで見て初めてパロディと気づくものであり、遠目から見る分には模造品と同じ機能を果たすことになる。商標が目立たないため、目を引くのはデザインであり、パロディが面白いからというよりも、手ごろな値段でフランク・ミュラーのようなユニークなデザインの時計が手に入るという感覚で購入する者がいれば、それは完全なフリーライドといえる。
 ただし、県名等を表す漢字が文字盤に付されているご当地版の商品などについては、商標以外の部分で明らかに区別がつく要素があるので、許容範囲なのではないかと思う。

以上のことから、フランク三浦が、冒頭の写真のような腕時計を販売する行為は、不正競争防止法2条1項2号に該当し、差止請求が認められると考えられる。(6385字)

参考サイト
マイナビニュース
http://news.mynavi.jp/articles/2015/12/09/roberto/
経済産業省
「逐条解説 不正競争防止法 - 平成 27 年改正版 -」
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/unfair-competition.html#chikujo
「不正競争防止法の概要(テキスト2016)」
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/2016unfaircompetitiontextbookr2.pdf
フランク三浦公式オンラインショップ
http://tensaitokeishi.jp/
FRANCK MULLER公式サイト
http://franckmuller-japan.com/


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