AIを使ってカルテを書いてみる
ニュージーランド在住で、総合診療科医などをしています。
ニュージーランドでは、一般の医療での電子化は日本より進んでいるかもしれません。
私がニュージーランドで医師として働き始めたのは、2003年頃。
最初はニュージーランドの病院で初期研修から始めたのですが、
その時は、カルテも退院サマリーも手書きでした。
でも総合診療科のトレーニングのために、病院を出た頃(2008年ぐらい)には
街中の総合診療科医(GP ジェネラルプラクティショナー)達は、
既にクリニックで電子カルテを使っていました。
電子カルテだと、タイピングの間違いはあっても、判読不能なカルテの記事はないので、ストレスも減るし、ある意味、医療のクオリティーも上がります。
(医者の手書きの字が読みにくいのは、世界共通の悩みのようです…笑)
そのうち、処方箋も電子化されました。現在では全てのクリニックのシステムを使って作成された処方箋にはバーコードが付いていて、ニュージーランド中どこの薬局にも送れます。
バーコードがついていて、医師がシステムを使ってオンラインで送る処方箋は、医師の署名も要りません。
(私のプライベートクリニックのシステムでは、バーコードのついた処方箋を作れないので、処方箋をタイプして作り、これを薬局にメールで送り、原本のハードコピーを印刷して署名し、薬局に郵送しています。)
血液検査の依頼も、今はコンピューターで作れる様になり、それにもバーコードが付いています。(これも処方箋と同じで、クリニックのソフトウェアにより、できないクリニックもあります。)
患者さんがどこで血液検査を受けたいかにより、検査の依頼をクリニックと異なる地域へ送る事もでき、結果は自分のところに送られてきます。
また、TestSafeというシステムを使うと、クリニックに登録していない患者さんの検査結果や、処方歴などにもアクセスできます。(これはニュージーランド全土ではなく、北島の北半分をカバーしています。勿論、アクセスにはそれなりの理由が必要で、例えば「近所の人の医療情報を興味本意で見る」という事は違法ではありますが、可能ではあります。)
例えば、麻薬系の痛み止めを求めて、新規の患者が救急クリニックに来たりしたら、この人に対して、最近、どの医師がどれだけの量の薬を処方して、この人がどこの薬局からどれだけの量の薬を受け取ったか、などの情報をTestSafe を使って調べられます。
いわゆる「ドラッグシーカー」かどうかをチェックする事ができる訳です。
今回の本題は、最近私が使い始めてAIによるカルテの記事を書くソフトウェアです。
いくつかのプロダクトをチェックして、結局「Heidi」というものを使っています。
使い始めたきっかけは、精神科のクリニックでADHDの診断レポートを書くのに助けが必要だったからなのですが、今はメインのGPの仕事にも使っています。
精神科のクリニックでは、診療前に患者さんにAI ソフトを使う事を事務の人が知らせてくれており、承諾をとっているのですが、GPクリニックでは、患者さんごとに診療の最初に口頭で承諾をとっています。
承諾を得たら、Heidiのスタートボタンを押して、診療をし
診療が終わったら、ストップボタンを押す。
そうするとテンプレートに沿って、Heidiがカルテに記載する内容を書いてくれます。
それに目を通し、間違っている箇所は直し、加筆したり、不要な部分を消して、カルテにコピペします。
(クリニックのカルテのシステムに、Heidiを組み込ませる事も可能で、そうするとコピペする手間も省けます。)
ただ、AIが勝手に推測して文章を書く事がたまにあるので(「ハルシネーション-幻覚」と呼ばれています😂)、必ずAIの作った文章を見直す必要かあります。
例えば、更年期のホルモン療法のエストロゲンパッチの話をしていたら、AIが「フェンタニルパッチ(麻薬の痛み止めのパッチ」」と書いていたりしました。
(実際は、患者さんとの会話の中で意識して「エストロゲンパッチ」と言っていれば、AIが間違える事はないと思います。情報が足りない時に、AIが推測して書いてしまうことがあるようです。)
勿論AIは、私たちの会話からカルテを作るまで、診察中に、例えば患者さんが「ここが痛いんですよね」とか言ったら、私が診察しながら「右のふくらはぎの踵に近いところが痛いのですね。少し腫れてますね。」とか口に出して言う必要があります。
言わなくても良いのですが、言葉として言えば、AIがカルテの記載の中に所見を入れてくれます。そうでないと後から書き足さないといけません。
カルテのまとめ方、つまりテンプレートもいろいろ選べるのですが、カルテに書く情報の量も、AIに「すごく短く」とか「すごく詳細にわたって」とか指定できます。
また、入力言語と出力言語を指定できるので、私のプライベートのGPクリニックで日本人の患者さんと日本語で診療をしても、英語のカルテを作ってくれます。
(勿論、日本語のカルテを作りたければ、それも可能です。)
また、診療時のデータから、紹介状を書いたりするのもHeidiに頼めます。
Heidiを使い始めて2か月位ですが、今となっては、いちいちカルテを自分で入力するのも面倒と感じる様になってしまいました。(笑)
AIを100%信頼できる訳ではないのですが、Heidiを使う事で、カルテ記入に関する時間はかなり削減できたと思います。
医者がいわゆるペーパーワークに使う時間はとても長いので、できるだけその時間を減らし、医師が患者さんと直接向き合う時間を増やす事を、AIを使って実現出来れば、それに大きな意義を感じます。
世界中で医療従事者不足が問題になっています。
その要因はいろいろあるとは思いますが、
AIの使用も、将来の危機を回避するのに役立つツールの一つであると感じます。
#デジタルで変わったこと