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『考え』を変える事によって『気持ち』や『行動』を変える。初めの1歩(1/3)

私は、ニュージーランドでジェネラルプラクティショナーとして仕事をしています。
全ての診療科の患者さんを診る医師なのですが、私は特にメンタルヘルスに興味があります。

精神科の専門医の資格やカウンセラーの資格をとったことはないのですが、
日々の診療の中で『認知行動療法』の考えを取り入れて、患者さんと話をすることは多いです。

『認知行動療法』は、気分の落ち込み、ストレス、不安、また人間関係など色々な事に効果が期待できます。

今回は私がしている『認知行動療法』に基づいた診療に関して
私がいつも患者さんに説明するように、初めの一歩について書いてみます。


『認知行動療法』っていうと、難しい治療の話のようだけど
基本の考えはシンプルです。

人の『考え』と『気持ち』と『行動』はお互いに影響を与え合っている。
このいずれかを変えることによって、他も変わる。
ということ。

今回は、うつ病、ストレス、人間関係などの問題に使える
「考え方を変える」という方法に焦点を当ててみましょう。

人間は、

1. 自分の周りで起こった事に対し

2. 反応して、何かを考え

3. その考えに従い、感情を持ち

4. その感情に沿って行動する


これが毎日の生活の中で、何百回、何千回と起こっています。

状況に対し、行動が起こるまでの時間は、早ければ秒単位。
自分がこのプロセスを行なっていることすら、意識しない事が多いです。

常にステップ1からステップ4へ単純に進む訳でもありません。


『考え』を変える事で、『気持ち』や『行動』を変える為には、これらのステップを行なっている自分を意識することが、まず最初の1歩です。


「何を言っているのか、よくわかんないな...」という人もいるはず。

私が、いつも患者さんに説明する時に使う例をあげてみます。

ケースA あなたは親友の訪問を待っている。「ちょっと遅くなる」と3時間前に電話があった。あなたは家の中に一人きり。

起こった事   真夜中、玄関のドアのあたりで物音がする。
考え     (あー、やっと友達が無事に我が家に到着した!)
感情      喜び 安堵
行動      玄関まで走り出て、鍵を開け、ドアを開ける

ケースB 今日のニュースで「近所に強盗が入り、犯人はまだ捕まっていない」と聞いている。あなたは家の中に一人きり。

起こった事   真夜中、玄関のドアのあたりで物音がする。
考え     (もしかして、ニュースで言っていた強盗?殺されるかも!?)
感情      恐怖
行動      家の隅に隠れる。警察に電話する。

わかりますか?


『玄関のドアのあたりの物音』はあなたがコントロールできない出来事。

ただ、同じ事が起こっても、それについてあなたがどう『考える』かによって『感情』『行動』は自動的になされてしまう事。


もう一つ例を挙げてみます。

あなたが風邪をひいて会社に行ったとする。
会社には仲良しのAさんと、あなたが嫌いなBさんがいる。

あなたが自分のデスクで、咳き込んでいたら、
後ろから声が聞こえてきた。

『風邪だったら、家に帰ったら』
Aさんと Bさんの声はよく似ていて、どちらなのか声だけで判別できない(笑)。

ケースA
起こった事  『風邪だったら、家に帰ったら』と誰かが言う。
考え      (Aさんが、私を心配してくれているんだな。いつも優しいな。)
感情      喜び
行動      声をかけてくれた人にお礼を言う。

ケースB
起こった事  『風邪だったら、家に帰ったら』と誰かが言う。
考え     (Bさんは自分が風邪にかかりたくないからって、冷たい事を言うなあ。私が休んでいるうちに、私を出し抜いて上司にとり入ろうって言う魂胆でしょう。)
感情     怒り 
行動     意地でも家に帰らず、仕事を続ける。


『風邪だったら、家に帰ったら』と誰かが言う事自体は、
あなたのコントロールが及ばない出来事です。

それに対し、あなたがどんな『考え』を持ったかによって、あなたの『感情』も『行動』も違ってくるのがわかると思います。

次回の『2歩目』に進む前に

自分の周りに起こったことに対し
自分がどんなことを『考え』、
どんな『感情』を持ち、
それがどんな『行動』に至っているのか

少し考えて、ノートに書き留めてみてください。

最近腹が立ったり、悲しかったり、そんなネガティブな経験の方が、ポジティブな経験より考えやすいかもしれません。


例えば、(昨日、子供に怒ったなあ)と思ったら、実際何が起こったか思い出してみましょう。


起こった事 子供が「このお肉は硬いから食べない」と言った
考え    (ご飯を作ってもらっているのだから、感謝して食べるべきだ。文句を言うなんてけしからん。)
感情     怒り 悲しみ 憎しみ
行動     子供に怒鳴る

こんな感じです。

頭で考えるだけでなく、是非ノートかコンピューターに書き留めるのが大切。

最後に。

こんな『認知行動療法』の基礎が、学校教育や家庭での子育てに取り入れられ、
子供達が(そして大人達も)、自分の中に起こっていることに目を向けられる様になる事は重要だ、と私は思います。

自分の『考え』『感情』『行動』が選択可能であることを知り、
それらをどの様に選択していくかを学び、練習する事が
人間が平静な心を保ち、幸福を感じて生きていくのには大切だ、と私は信じています。

またそれと同時に、どんな事が自分ではコントロールできない事で、そういうことに執着しないことを学ぶ事も大切です。


では次回の『2歩目』の記事で。


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総合診療科医のだのり@ニュージーランド
「親も育つ子育て」を広めるために、私の持っている知識、経験、資料をできるだけ無料で皆さんに届けたいと思っています。金銭的サポートが可能な方で、私の活動を応援していただける方は、サポートをしていただけると嬉しいです。