NICO Touches the Walls -QUIZMASTER- が凄いという話。

ツイッターのような短く、通り過ぎるのも早いSNSではきちんと残せないな〜という気持ちがあって(そもそも広く公開しているアカウントを持っていない)、私の重たい音楽愛をとつとつと吐露するnoteを開設しました。どんな分野でも良い作品に対する批評は残せるもので残すべきかな、なんてことも思っているので。そしたらいつか私と同じものに興味を持ってくれた人が、深く知りたいと思ってくれるきっかけになれるかもしれないしね。

とは言え批評とはとても呼べないただの感想文ですので、ご了承を。


さて、本題です。タイトルの、NICO Touches the Wallsが2019/6/5に発売したニューアルバム QUIZMASTER。

これは良い。本当に良い。
私は大好きだよ。
このnoteもこの作品への想いを綴るために開設したといっても過言ではない。
ただ不思議な気持ちになる作品でもある。

QUIZMASTERからはとにかくいろんな味がする。それはNICOのメンバー自身がたくさんの音楽を聴いていることにも起因すると思うけど、このアルバムを聴いて「NICOはどんなバンド?」と聴かれたらうまく答えられないような、そんな味。

これまでのアルバムそれぞれに、NICOの尖った一面やポップな一面など「○○なNICO」が詰まっているとするなら、QUIZMASTERはNICO全部盛りじゃないかと思う。全部を詰め込んで、それから余計な飾りを徹底的に取り除いて取り除いて取り除いて……。


歌詞は主にみっちゃんの内面が赤裸々に綴られているし、サウンドも決して派手なものではない。NICO Touches the Wallsというバンドを形作っていた様々な飾りをひとつずつ外していって出来たものが、QUIZMASTER。だからシンプルな楽曲なのに、込められているのは複雑な内面そのもの。それがたくさんの味がする理由なんじゃないかと思う。


人間の内面って、だれでも一言で表すことはできない。

「優しい」と言われる人でも、本音では「NOを言える人になりたい」と思っているかもしれないし、別の人は「優しいのは身内にだけ。他人はどうでもいい。」なんて思っていることもあるだろう。
人間を一言で「◯◯な人」なんて説明、できるはずないのだ。

それはNICO Touches the Wallsというバンド像も同じ。尖っている一面もNICOの姿だけど、じゃあポップな一面は嘘の姿なの?と言われたら、それも違う。きっと全部本当だよね。
尖っている日もあれば、底抜けに明るい気分のときもあるし、落ち込んでどうしようもなく暗いときもある。

これまではそのスキルで様々な複雑な表現をして、アルバムテーマに沿ったシンプルな「◯◯なNICO」を鳴らしてきた。でも今回はその逆だ。

「◯◯なNICO」という言葉で収まるはずのないバンドの、そして光村龍哉の人間性を、まるっとそのまま飾ることなく表現しようとしている。それなのに巧みな技術で音を重ねていくことは、今回の場合、本当に見せたい姿を覆い隠してしまうことになる。QUIZMASTERにおいて、そういった演出は必要ないのだ。

シンプルに勝負することで見えてくるのは、ああでもないこうでもないと日々複雑な想いと葛藤する人間臭いNICOだった。この感じとったNICOの人間性を言葉でズバッと説明できないから、きっと不思議な感覚になるんだろう。

勝手な憶測だけど、「尖ったNICOが好き!ポップなのは嫌」という人も「渋すぎるのはちょっと…ポップでカラフルなNICOが好き」という人も、NICOが好きな全ての人に響くアルバムじゃないかと思うのだ。
だってそこにあるのは尖った面もポップな面もすべての内面を包括した、ただの「NICO Touches the Walls」だから。


そんな人間臭い内面も映し出しているQUIZMASTERだけれど、楽曲はとてつもなくかっこいい。

ただこうも思う。
「これ、同じ曲を他のバンドがやったとしても、かっこよく出来る人ってそうそういないんじゃ…?」


私はギターもベースもドラムも出来ないし、音楽的知識もない。だから技術的にどこが凄いとか、そういうことは言えない。そんな私でも、この楽曲がNICOがやっているからかっこよく成り立つんだということが分かる。

これは音楽に限らずどんな分野でも、そもそも「引き算の作業」というのは技術のある人にしかできないことだと思う。引き算が中途半端なら完成形も中途半端になるし、やり過ぎてしまってはただのつまらないものになる。残ったものもひとつひとつが洗練されたものでなければ、粗が見えるだけ。大切なものだけを見極めて残すというのは、本当に大変な作業だ。

シンプルな楽曲を作り、さらにその楽曲をかっこよく演奏する。
これって実はものすごいことを4人はやってのけているんじゃないかと思うのだ。当たり前のようにかっこよく聴こえてくるこれらの楽曲は、4人の技術に裏打ちされたものなんだ。

一朝一夕では鳴らせない音楽を彼らはやっている。

そしてその中心には間違いなくみっちゃんの歌がある。

もともと歌の上手さはあったけれど、NICOの駆使する楽器の中で一番進化したのはみっちゃんの歌声なんじゃないか?と思うほどに、OYSTER以降は特に凄い。(6/8の東京追加公演、さらに凄くなっていて1曲目冒頭からそれはもう驚いた)

みっちゃんの歌声は男性らしい力強さの中に、少し女性的なたおやかな曲線美を含んだ唯一無二の歌声だと私は思っている。なんならその男性的魅力と女性的魅力の配分を曲によって自在に変化させているようにすら感じる。

そんなみっちゃんの歌が圧倒的なパワーを持っているから、どんな曲をやっても何も余計なことを感じずに曲に没頭することができる。NICOがこれまでずっと言ってきた、そしてとりわけQUIZMASTERで中心に据えている「歌を大切にする」という信念は、まさにボーカリスト光村龍哉がいてこそ出来ることなんだろう。


QUIZMASTERを聴いて感じるNICOの内面・芯の部分や音楽に対する姿勢は、インディーズの頃から一貫していると思う。でもこれらの楽曲は、結成以降15年間のNICOの歴史や努力なくしては絶対に鳴らすことができなかったものだと私は思う。

QUIZMASTERは名盤だ。しかしそれは決してバンドの集大成ではない。新しいステージのNICOの始まりとも言える、これまでの、そしてこれからのNICOの進化を感じさせる作品だ。

こんなに未来が末恐ろしくて楽しみなバンドは、そうそうない。





そして最後に。
これだけのアルバムを作っておいて、すぐアルバムツアーを終わらせたのもNICOらしいといえばNICOらしい。1人で聴き込むアルバムという話もよく分かるし、追加公演は1曲目からアンコールの最後までを通してひとつの作品といえるような圧倒的なステージだったから、何度も行う内容でないことも理解できる。

それでも1ファンとしてワガママを言わせてもらえるなら、やっぱりもう一度QUIZMASTERをライブで見たい、な。





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