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【書評】 『祖母姫、ロンドンへ行く!』
筆者が若い頃、お正月の親戚の集まりでイギリスに留学したことを話したら、祖母が
「一生に一度でいいからイギリスに行きたい。お姫様のような旅がしたいわ」
と言い出したことから、祖母は祖母姫になる………
伯父たちが、おそらくは生涯最後の海外旅行になるであろう祖母の為に、ファーストクラスの飛行機と一流ホテルを手配し、問答無用で随行することになった筆者との5泊7日のロンドンの旅が始まる。
貧乏旅行しか経験のない筆者は、空港から始まる航空会社のおもてなしに驚愕。
12時間のフライト中に、客室乗務員から老女をサポートする要諦を聞き出し、到着したホテルでは従業員たちのプロフェッショナリズムに驚嘆する。
祖母姫は母方なので名字も違い、顔貌も似ていないことから、どうやらホテルの人たちは、自分を老婦人の秘書役だと思っているらしいが………
このホテルが文字通りストーリーの中心となって、笑いと涙の珍道中が展開される。
この旅の具体的な年は明かされていないのだが、スマホはおろか普通の携帯電話さえ普及しておらず、テレホンカードを買って連絡する描写があり、僕自身が欧州にも足を伸ばした1990年代であろうことが伺え、たしかにあの頃は便利じゃないことも多かったよなと、ライブ感を味わえるのがとてもうれしい。
遠い昔の思い出を手繰りながら、筆者は祖母姫の言葉をひとつひとつ思い返す。
「あんたに足りないのは、自信です。(中略)自分の値打ちを低く見積もっているわね。(中略)楽をせず、努力をしなさい。いつも、そのときの最高の自分で、他人様のお相手をしなさいよ」
帰り道のヒースロー空港。
電動車椅子をゲットした祖母姫は孫娘そっちのけで売店を巡りながら、
「心残りがないようにしないとね」
とつぶやく。
当時の写真の殆どが散逸してしまったと筆者は後悔するが、2人にとって最高の思い出になったであろうこの道中の一部始終が本になって蘇り、多くの読者たちの支持と共感までをもたらしてくれたことが、祖母姫への何よりのご供養というべきだろう