侠客鬼瓦興業 第30話 爆裂ぷるんぷるんお姉さん
テキヤ犬ヨーゼフとの奇妙なマラソン対決を引き分けた僕は、町内会の皆さんの歓喜の拍手に送られながら多摩川を後にした。
「やばいなー、これから仕事だって言うのに、こんな時間になっちゃったよ、ヨーゼフ」
僕はそう言いながら慌てて走ろうとした。しかし疲労から足がもつれて、思わずこけてしまった。
そんな僕を見かねたのか、さっきまであれほど言うことを聞いてくれなかったヨーゼフが自分の背中に目を向けながら
「ワン!」
僕に向かってドスの利いた声で吠えた。
「え?・・・」
「ワン、ワン!」
ヨーゼフは再びそう吼えながら、自分の背中に首を向け僕を見た。
「ヨーゼフ、お前、もしかして背中にのれって言ってくれてるのか?」
僕の言葉にヨーゼフはうれしそうにうなずいた。
「めぐみちゃんが、賢い子だっていってたけれど、お前って本当に賢かったんだな」
ヨーゼフはうれしそうに尻尾をふった。
「それじゃ、遠慮なく乗らせてもらうよ」
僕はヨーゼフの背中にまたがった、と同時に彼は勢い良く走り出した。
「わーちょっと、そんな急に、落ちる、落ちる!」
僕は必死にヨーゼフの太いリードを握りしめると、彼の大きなからだにしがみついた。そんな僕を気にも止めずにヨーゼフは、颯爽と鬼瓦興業への道のりを走り続けた。
はじめは必死にへばりついていた僕も、しばらくたつとその乗り心地のよさに、いつしか気持ちいい風を感じ始めていた。
(さすがは、大型犬だな・・・。あれだけ走って、もうこんなに回復してるんだから)
僕はそんなことを考えながら、ヨーゼフのリードを手綱のように扱い、何時しかカウボーイ気分を楽しみはじめていた。
「行けー、ゴーゴー、走れーヨーゼーフ!!」
僕の叫びに答えるように、ヨーゼフは軽快なリズムで走り続けた。
そして僕達は会社へ向かう最後の十字路にさしかかったその時だった。
僕達が曲がろうとした路地から、原付にまたがった一人の女性が、急に飛び出してきたのだ。
「うわっ、危ない!!」
「ぐわお!?」
僕とヨーゼフは危くこけそうになリながら急停止した。と同時に、僕達の目にすさまじい光景が飛び込んできた!
春の暖かさのせいか、原付の女性は小さめのTシャツの中に、巨大な胸をぷるんぷるんと弾ませ、くびれたウェストを、みなさんどうですかー!といわんばかりに露出したヘソ出しルック。おまけに反則すれすれの超短いホットパンツ姿で、ふたたび胸をぷるんぷるん揺らしながら颯爽と走り去っていったのだ。
「す、すごい・・・!!」
僕とヨーゼフは十字路で立ち止まったまま、爆裂ぷるんぷるん原付お姉さんの後ろ姿を目で追っていた。
「春だな~、ははは、それじゃ帰ろうか、ヨーゼフ」
僕は鼻の下をでれーっと伸ばしながらヨーゼフに話しかけた。しかしヨーゼフはまったく僕の言葉など聞こえないのか、黙って爆裂ぷるんぷるんお姉さんを見つめ続けていた。
「お、おいヨーゼフ・・・、ヨーゼ・・・!?」
気が付くとヨーゼフは目をぎらぎら輝かせ、鼻息も荒く興奮しまくっていた。
「え!?」
「ぐわっ!ぐわ、ワンワンワン!!」
突如ヨーゼフは大声で吼えると、僕を乗せたまま爆裂ぷるんぷるんお姉さんの後を追って走り出した。
「わー!こらー、そっちは違うっていうのー!」
僕は必死にヨーゼフの上でリードを引っ張ったが、怪力セントバーナードの暴走を止めることなどできなかった。
「ウワン、ワン、ワン、ワン」
「わー、コラー止まれバカー、止まれーー!このエロ犬ー、止まれっていってるだろーがー!」
僕の制止など気にもとめず、エロ犬ヨーゼフはひたすら走り続けた。そしてついに僕を乗せたヨーゼフは爆乳ぷるんぷるんお姉さんの隣まで追いついてしまった。
「ワン、ワンワンワン」
ヨーゼフはどうだー俺を見ろーと言わんばかりに吼えながら、ぷるんぷるんお姉さんの横を追走しはじめた。
「ギャー!なによあんた達!?」
ぷるんぷるんお姉さんは突然現れた、セントバーナードとその上にまたがった僕に驚いて
「助けてーー!!」
そう叫ぶとアクセル全快で逃げるようにカーブを曲がった。
「ち、 ちがうー!!」
「おい、止まれーヨーゼフ、止まれってのー!!」
僕は必死にリードを握りながら叫んだ。しかし興奮したエロ犬は、ぷるんぷるんお姉さんを追いかけて猛スピードでコーナーに進入した。
「うわーーーー!」
強烈な遠心力に僕はヨーゼフの背中から振り落とされてしまった。
グシャーーー!!
激しい音と共に僕のからだは地面に叩き付けられた。
がっ・・・、そこで僕の災難は終わっていなかった。
なんと僕の右腕には、がっちりとヨーゼフの太いリードが絡み合っていたのだった。
「あああああああああ!」
僕は絡まったリードのおかげで、そのまま無惨に爆走するヨーゼフに引きずられ、多摩の街中をまるで昔見た西部劇のリンチのように引きずりまわされてしまったのだった。
それからどれくらいたったか、鬼瓦興業の門前には、さんざん爆裂ぷるんぷるんお姉さんを追い回し、見事にふられてたそがれているヨーゼフと、エロ犬に市中引き回しの刑に合い、見るも無残なボロぞうきんのような姿の僕がいた。
「なんて犬だこいつは、賢いどころか、ただのエロ犬じゃないか」
僕はそうつぶやきながら、ヨーゼフを引いて恐る恐る鬼瓦興業の門をくぐった。
あたりはしーんと静まり返っていた。
「すいませーん、今戻りましたー」
みんなが集まっていないかと、倉庫の前に近づいていった。
しかし倉庫の周りは、今まで仕事の準備をしていた気配はあるものの、銀二さんも鉄も誰もいなかった。
「やばい、みんな仕事に行っちゃったのかな・・・」
僕は追島さんの孫の手におびえながら、そおっとヨーゼフを小屋に入れると、隣にある倉庫に目を向けた。倉庫の扉はわずかに開いていて、電気がついているのか小さな明かりがこぼれていた。
「あ、まだいるみたいだ・・・」
僕は扉をそっと開け、倉庫をのぞき
「あ、あのー、遅くなっちゃってすいませーん。」
恐る恐る声を出した。
すると僕の声に驚いたのか、倉庫の奥で巨大な影がごそっと動いた。
「え!?」
僕は慌てて倉庫から顔を外に出した。
「何だ今のは、も、もしかして、泥棒?!」
そう思った僕は、勇気を振り絞って倉庫の扉をばっと大きく開け放つと「だ、誰だーーーー!!」
大きな声で叫んだ。
突然の大声に影の主は驚き、僕を睨みすえてきた。
「あー!?」
なんと巨大な影の正体は、鬼瓦興業の鬼軍曹、追島さんだったのだ。
「す、すいません、遅くなってしまって・・・、あっ!?」
僕は大声で誤りながら、追島さんの顔を見てはっとした。
なんと追島さんは電話を耳に当てながら、その目に大粒の涙をいっぱいにためて泣いていたのだ。
「て、てめえ、何、急に空けやがるんだー!!」
追島さんは泣き顔を見られた恥ずかしさから、僕を怒鳴りながら、腰に挿していた孫の手を投げつけてきた。
「す・・・、すいません!」
僕は慌てて倉庫の扉から遠ざかると、少し離れたところで、そっと振り返った。
(追島さんが、泣いていた・・・)
僕はあまりの驚きに、体中の痛さも忘れ、ただ、倉庫をじっと見つめたたずんでいた。
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