侠客鬼瓦興業 87話「吉宗くんとめぐみちゃん、涙の再会!」
「はぁ、はぁ…、めぐみちゃん、今行くから、僕が助けに行くから…、はぁ、はぁ」
多摩川の最下流に沿って立ち並ぶ倉庫街、僕はすごい行相でママチャリをこぎながら、めぐみちゃんを連れ去ったバスを探し続けていた。バスにはあの2mのスキンヘッド熊井さんを襲った凶悪な男が乗っている、しかし僕はめぐみちゃんを救うことだけに頭がいっぱいで、不思議と恐怖は感じていなかった。
「絶対に僕が助けに行くから…、絶対に、絶対に…」
ところが走っても走っても、あたりは静まり返った倉庫だらけ
「いない、ここにもいない…、たしかに感じたんだけど…、こっちの方でめぐみちゃんが助けを呼んでいるのを、あれは錯覚だったのかな」
僕は古びた倉庫の前で自転車を止めると、あたりをきょろきょろと見回した。とその時だった
ガサガサ…
先の大きな倉庫脇で小さな物音が
「あっ、あそこか!?」
あわてて自転車のペダルを踏み込むと、古びた倉庫の前から離れ走りはじめた。
「めぐみちゃん!」
叫びながら音がした倉庫へ、ところがそこには、ニャー、ニャー、数匹の子猫が鳴いていただけで、まったくバスの気配すらなかった。
「はぁ…、やっぱり錯覚だったのかな」
僕は不安な気持で、倉庫街をさらに奥へ向かって走っていった。
僕が一瞬立ち止まった古びた倉庫、実はその裏手の暗い駐車場に黄色いバスはひっそりと止まっていた。
バスの中ではイケメン三波が、眠っているめぐみちゃんを恨めしそうに見つめていた。
「おせえなー西条さん、もう我慢も限界だぜ」
三波はバスの入り口をキョロキョロと見た後、めぐみちゃんにぐっと顔を近づけ
「しかし、間近に見るとまじ可愛いかも、ますますそそられるな、こいつ」
いやらしそうににやけながら、彼女の上にかけられた上着をそっとめくった、そこには透き通るような白い肌とかわいいブラが光っていた…
「かー、たまんねーな…、早くやりてー!…」
三波はむくっと顔をあげて再びバスの入り口を見ると
「西条さん、当分来ないみてーだな…、どうせ後で犯しちまう女なんだ、ちょっと見るぐらいは…」
ニヤニヤしながら、めぐみちゃんのブラをはずそうと胸に手をかけた、と、そのとき
ガタ!
バスの入り口で大きな物音が響いた。
「やっ、やば!?」
三波はブラから手を放すと、あわてて彼女の肌に上着をかぶせた。そして何事もなかったように顔をあげると
「さっ、西条さん遅いですよー!」
ごまかしながらバスの入り口を見て、ハッと驚いた。
「てってめえは!?」
イケメン三波の先に立っていたのは、西条ではなく怒りに体を震わせながら仁王立ちしている、僕の姿だったのだ。
「みつけたぞ三波!めぐみちゃんはどこだー!!」
「なっ、何だてめえ、どうしてここが!?」
「めぐみちゃんは何処だー!」
僕は再び叫んだ後、三波の横でひっそりと目を閉じているめぐみちゃんの姿に気がつき
「ぐっぉおおおおおーーーー!」
まるで獣のような雄たけびをあげた。
「めっ、めぐみちゃんが、めぐみちゃんがー!?」
僕は怒りで体を震わせながら、イケメン三波を睨み据えた。
「三波ー、よくもめぐみちゃんをー、この野郎ー!!」
まじめ一筋だった僕がこんな言葉を発するなんて、そのくらい僕の怒りはすさまじかった。
「お、おいまてよ、俺はまだ何にも」
「だまれ、このケダモノめ!」
大声で怒鳴りながら突進していくと
「ぐおぁあーりゃぁー!」
今までに見せたことも無いようなすさまじい怪力で、三波を天高く持ち上げ、そのまま数メートル先のバスの床に投げ飛ばした。
「ぐおあ、いたー!」
悶絶する三波を横目に、僕はあわてて後部座席に走ると
「めぐみちゃん、めぐみちゃん…」
静かに目を閉じているめぐみちゃんを必死に揺すぶった。しかし彼女は僕の呼びかけにまったく答えてはくれなかったのだ。
「めぐみちゃん…、なっ、何で、何でこんな変わり果てた姿に・・・」
どぶわぁーーーーー!
僕の目玉からとてつもない量の涙があふれ出した。
(なっ、なんてことだ、めぐみちゃんが…、めぐみちゃんが…)
(めぐみちゃんが、死んでしまうなんてー!)
「なっ、何でだーーー!!」
僕は天に向かって泣き叫びながら、涙と鼻水まみれのぐしゃぐしゃの顔で、必死に彼女の亡骸を抱き起こし
「何で、何でやさしい君がこんな目にー、ごめんよ、僕が、僕がもう少し早く助けに来ていたら、こんなことには…、うわぁー!!」
大声で泣き叫び続けた。
とその時だった。めぐみちゃんの体にかけられていた上着が落ちて、彼女の美しいブラ姿のやわ肌が僕の目に飛び込んできた。
「ぐわーー!?」
その姿を見た瞬間、僕の心に今までに経験したことのない、とてつもない怒りがこみあげてきた。
「こ、こんな…、こんな姿に……、ぐおーーー!!」
人の怒りは頂点に達すると、髪は逆立ち、目玉は血走り、この世のものとは思えないくらいのすさまじい形相へとかわっていく、その時の僕はまさにそうだった。頭からはメラメラと怒りの炎が立ち登り、見る見るうちに僕は、まるで鬼神の姿へと変貌していったのだった。
そして、バスの前で背中を押さえながら呆然としている、三波を睨み据えると
「この野郎ー、よくもめぐみをー!!」
鬼神の形相のまま立ちあがった。
「よくも、よくも、めぐみちゃんを殺したな!」
「えっ?こ、殺す?」
三波はあわてて手を振った。
「おい、ちょっと待てよ、違う、違う」
しかし怒りに満ちた僕はメラメラと燃え盛る背景とともに、一歩、また一歩と歩をすすめ
「ぐぉあぁぁーーーーーーー!」
大声と共にまるで天狗のような跳躍力でバスのシートを飛び越え、三波の顔面めがけて飛びかかって行った!
「ぐわあああああああー!よくもーーー!」
「ちょっと、待てって、違う、違うって」
「やかましい、このけだものめー!」
まるで鬼神とかした僕は三波の上にまたがると、やつの鼻の穴、口の穴、耳の穴、穴という穴に指を突っ込んで、ぐわーっとメチャメチャにかきむしった!
「ぐはあー、痛い、痛いはなへ、こらー」
「うるさい!殺されためぐみちゃんの痛みは、こんなもんじゃなかったんだぞー!」
「はから、勘違いするなって、あの女は死んでなんかいないっての、おい!」
「何を今さら、言い逃れしやがって、この野郎ー!!」
「違うって言ってるんだよー」
「だまれーーーー!ぐおーーー!」
僕は鬼神の顔に加え涙と鼻水でぐしゃぐしゃの、この世のものとは思えない形相でイケメン三波の顔から髪から、すべてをぐしゃぐしゃにかきむしっていた。
と、そんな騒ぎの最中、静かに眠っていためぐみちゃんがふっと目をさました。
「・・・あれ?ここは・・・」
めぐみちゃんはボーっとあたりを見渡し、そこが恐ろしいバスの中だと気がつくと
「いっいやー!!」
気絶する直前の恐怖をよみがえらせて大声で叫んだ。そしてあわてて身体を起こすと同時に、三波の上にまたがっている僕の後姿に気がつき、一瞬不思議そうに目を見開いた。
「えっ?」
僕は怒りで彼女が目を覚ましたことに気づかず
「ぐおわー、この野郎ー!!」
大声で怒鳴りながら、三波をぐしゃぐしゃにかきむしり続けていた。
そんな僕の後姿にめぐみちゃんは首をかしげながら
「よ、吉宗君?・・・もしかして吉宗君?」
小さな声で恐る恐る話しかけた。
「このケダモノー、このケダモノー」
「ぐぎゃー、痛い、やめれー!」
「吉宗君!!」
「!?」
僕は背中越しに飛び込んできた、聞き覚えのある美しい声に気がつき、三波をかきむしる手を止めた。
「い、今の声は・・・、めぐみちゃんの声、そ、そんなバカな、彼女は死んでしまったはずなのに、気のせいか?」
「吉宗君!」
「えっ、また!?まためぐみちゃんの声が!?」
僕は恐る恐る後ろを振り返った。
そこには、うるんだ瞳で僕を見ているめぐみちゃんの姿が
「めっ、めぐみちゃん!?」
「やっぱり、吉宗くんだったのね」
めぐみちゃんの瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれおちた。
「あの幽霊?そこにいるのは、めぐみちゃんの幽霊?」
「え?」
「だって、そんなに悲しい泣き顔して、やっぱりめぐみちゃんの幽霊なんだね」
僕はそう言いながら立ち上がると、プルプルと震えながら彼女に近づいて行った。
「ちょと吉宗君、幽霊って何言ってるの?」
「そうか、めぐみちゃん、自分が死んじゃったこと分かってないのか?」
「私が死んだ?」
めぐみちゃんはあわてて自分の手や足を見た。
「幽霊でもいい、もう一度君に会えたんだから、こうして話ができたんだから、めぐみちゃん!」
僕はぐしゃぐしゃの顔で泣きながら、力いっぱい彼女のことを抱きしめ
「めぐみー、たとへ君が幽霊になろうとも、僕は、僕はずーっと君を愛し続けるよー!うわぁー!」
号泣しながら叫び続けた。
「私が幽霊って?えっ?えっ?それじゃ私、死んじゃってるの???」
めぐみちゃんはあわてて自分の体を見ると、あちらこちらつねってみた。
「痛い!やだちょっと吉宗君、私幽霊なんかじゃないよー、ほらちゃんと手も足もあるし、それに、こうして吉宗君とも触れあえてるじゃない」
「えっ?幽霊じゃない?」
「ほら、吉宗君だってこうして私のこと抱きしめること出来てるでしょ」
「あっ、そ、そう言えば」
「もう、相変わらずそそっかしいんだから吉宗君」
めぐみちゃんの笑顔を見て僕は目をきらきら輝かせた。
「め、めぐみちゃん…、めぐみちゃんが生きてた!」
「よっ、吉宗君!?」
「良かったー、本当に良かったー、良かったー!」
僕は大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、彼女のことを夢中で抱きしめた。めぐみちゃんも涙をぽろぽろと流しながら
「吉宗君、吉宗君!会いたかったー、私、吉宗君にすごく会いたかったんだよー」
僕の胸に夢中でしがみついていた。
僕は幸せだった、それはまさに幸せいっぱいの再開だったのだった。
しかし、しばらくして彼女はふっと何かを思い出すと、あわててキョロキョロとあたりを見渡しはじめた。
「ど、どうしたのめぐみちゃん?」
「そういえばさっきまで、すごい怖い人が乗ってたの、このバス」
「怖い人!?」
「うん、私その人に襲われそうになって、それで・・・あっ!やっ、やだ私」
めぐみちゃんは自分のブラウスのボタンがはずされていることに初めて気がつき、あわてて胸を隠しながら僕に背を向けた。
「あっ、ごめん」
僕はあわてて目をとじると、はっとある重大なことを思い出した。
「そうだ、その怖い男って、熊井さんを襲った人かも?」
「熊井さんって、あの!?」
「うん」
「熊井さんを襲うなんて、あっ、あの人だったら、分かる気がする」
めぐみちゃんは再び恐怖から、カタカタと振るえはじめた。
「やっぱり、そんなに恐ろしい人が」
それまでめぐみちゃんを救いたい、ただその一念で張り詰めていた僕の背中にも、突然と恐怖の震えが走った。
「・・・とにかく、急いでバスから降りよう」
「うん」
めぐみちゃんはうなずきながらも、よほど恐ろしかったらしく、あたりをきょろきょろと見渡していた。僕はそんな彼女を見て大きく息を吸い、ぐっと気合をいれると
「だっ、大丈夫!めぐみちゃん、僕が絶対に守るから」
「吉宗くん」
「絶対に絶対に守るから!」
何度もそう言うと、ありったけの勇気を振り絞り、彼女の肩をやさしく抱えバスの入口に向かって歩きはじめた。
そして僕達がバスの入り口付近に差し掛かった時だった
ガシッ!
突然僕の足に冷たい感触が
「うわー!」
見るとそこには、ぼろ雑巾のような姿で床に這いつくばっている男が、僕の足をにぎってこっちを見ていたのだ。
「まっ、待て、待ってくれよー」
「うわー、何だー!?このミイラ男みたいな人は!?」
「ミイラって、お前がやったんだろ」
「えっ?ぼっ、僕が?」
突然脳裏に鬼神と化して暴れている僕の姿がよみがえってきた。
「あー!?」
そう、そのぼろ雑巾のような男、それは僕によってボロボロにされてしまったイケメン三波だったのだ。
「待ってくれよ、その女連れていかねーでくれよ、たのむよー」
三波はポロポロと泣きながら、僕の足をひっしに握りしめた。
「はっ、放せこら、その手を放せって」
「たのむよ、そんなこと言わないで助けてくれよー」
「助けて?何言ってるのあなた、私のこと騙したくせに」
めぐみちゃんはムッとした顔で、ぼろ雑巾三波を見た。
「だましたのは謝るから、だから行かねーでくれよ、やべえんだよ、その子を連れて行かれたら、俺がやばいんだよー」
「俺がやばいだと?」
僕はその言葉に再び目を吊り上げた。
「俺がやばいって、どこまで勝手なんだお前、自分さえ助かればめぐみちゃんはどうなってもいいのか!」
「うぐ・・・」
三波は無言で僕達を見たあと、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「だましたことは悪かったよ、謝るから、助けてくれよ、俺も助けてくれよー」
「助けてって言われても・・・」
めぐみちゃんは静かに三波の事を見た後
「吉宗くん、こんなに真剣に涙をながしてるんだし、一緒に連れて逃げてあげたら」
「一緒に?だってめぐみちゃん」
「頼む、頼むよ、このままじゃ俺マジで殺されちまう、彼女の言うとおり一緒に連れてってくれよ」
「・・・」
僕が無言で三波を見た後、そっとめぐみちゃんに顔を向けた。
「吉宗くん・・・」
彼女もやさしく微笑みながらうなずいた。
「それじゃ、一緒に行きましょう三波先生」
「ありがとう、本当に君はやさしい人だね、めぐみさん」
「それじゃ、急いでついて来いよ」
僕とめぐみちゃんはバスを降りた後、中で這いずっている三波に向かって振り返った。ところがやつは
「あっ、痛い、痛たたたた。駄目だ俺、さっきあんたにやられた傷のせいで足が」
そう言いながらなかなかバスから降りようとはしなかった。
「足って、お前・・・」
僕はあわててあたりを見回すと
「仕方ない、ほら僕の背中に乗れよ」
そう言いながらしぶしぶ三波に背中を向けた。
「あっ、ありがとう。あんた本当はすげえいいやつだったんだな」
「そんな言葉言ってる場合じゃないだろ、ほら急げよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
三波はうれしそうに涙を流すと、痛々しい表情でバスを降り、僕の背中にしがみついた。
・・と、その瞬間だった。
「うぐえっ!!」
突然、三波の腕が強い力で僕の首に巻きついてきたのだ。
「おい・・・、そっ、そんなにしがみついたら、くっ、苦しい・・・苦しい・・・」
僕は必死に締め付けられたやつの腕をはずそうとした。ところがやつは腕の力を緩めるどころか、さらに強く僕の首を締めあげてきたのだ。そして僕の耳元で
「苦しいに決まってんだろ、絞め殺そうとしてるんだからよ・・・、ふっふっふふ」
不敵な笑い声を響かせたのだった。
つづく
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このお話はフィクションです。中に登場する人物、団体等はすべて架空のものです。
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