侠客鬼瓦興業 第26話与太郎と天使のめぐみちゃん
(始まったばかりの侠客鬼瓦興業が、こんなに早く最終回をむかえるなんて・・・。それも僕が親父さんの愛犬に美味しく召し上がられて終わりなんて…)
舌なめずりしながら、僕の上でマウントをとっているヨーゼフを見ながら僕は思った。
(いやだー、そんなのいやだー、めぐみちゃんとの恋がスタートしたばかりだって言うのに…)
僕は必死に救いの声を発した。
「た・・・、たしゅけてー、誰か、たしゅけてー」
しかし悲痛の叫びもむなしく、助けがやってくる気配はまったくなかった。
「たしゅけてー、たしゅけ・・・・・・」
押しつぶされた苦しみから、僕の意識はまたしても遠くのほうへ旅立とうとしていた。
(ここは何処だ?前に一度来たことがあるような気がする)
僕の目の前には、お花畑が広がっていた。
(そうだ、ここは確か熊井さんの恐怖から逃げようとした時、入りそうになったところだ…、ああ、ついに来てしまったのかここに…)
僕は一人お花畑で寝そべっていた。そしてふと見ると僕の腕と足にはたくさんの草のつるがからまって身動きできない状態だった。
(何だよこれは…)
僕は必死につるを取り除けようともがいたが、がっちり絡まって逃れることは出来なかった。
観念した僕は、
(確かここで、めぐみちゃんにそっくりな天使に出会ったんだよなー)
そう思いながらあたりを見渡した。すると遥かかなたから、カバンをかかえた天使が飛んでくるのが見えてきた 。
「吉宗くーん、くーん、くーん、どうしたのーのーのー」
「あー!?、君はあのときのめぐみちゃん…」
僕はうれしくなって微笑んだ。 天使のめぐみちゃんは、急に優しい声でささやいた。
「ヨーゼフ、どきなさい、さい、さい…」「さあ、どくのよヨーゼフ、さあ、こっちにおいで、おいで、おいで、おいで…」
「あ、だめだよ!そんなことをしたら、君がヨーゼフに食べられてしまうよ!」
僕は慌てて天使のめぐみちゃんに叫んだ、しかし彼女は、僕の制止も聞かずヨーゼフを呼び続けた。
「ヨーゼフ、来なさい、さい、さい、いたずらは駄目よ、だめよ、だめよ・・・」
めぐみちゃんの天使の声が、心地よくお花畑にこだました。
すると突然僕の手足に絡まっていたつるが、するするっと解け始め、気が付くと僕は自由の身になっていた。
「あ、ありがとう、また君が助けてくれたんだね」
僕は天使のめぐみちゃんを見つめた、天使のめぐみちゃんは優しく微笑んでいた。そして、彼女の横には、おとなしくふせをしているヨーゼフの姿があった。
「吉宗くん・・・」
「・・・?」
「大丈夫、吉宗くん」
「は、めぐみちゃん!?」
気が付くと僕の目の前には、天使のめぐみちゃんではなく、本物のめぐみちゃんの姿があった。
「あれ、ここは?」
慌てて周りを見渡すと、そこは僕がヨーゼフに襲い掛から小屋の外だった。
「驚いたー、うちの玄関をでたとき、たすけてー、なんてかすれ声が聞こえるから来て見たら、吉宗君がこの子の下敷きになってるんだもん」
めぐみちゃんは微笑みながら、彼女の横で静かに伏せをしているヨーゼフの頭を撫でていた。
「うわ!めぐみちゃん危ない」
僕は慌てて彼女の横にいるヨーゼフを指差した。
「え?」
めぐみちゃんは不思議そうにヨーゼフを見た。
「もしかして、危ないって、この子のこと?」
「うん、うん」
「大丈夫よ、吉宗くん。この子はとっても賢くて優しい子なんだよ。ねー、ヨーゼフ」
めぐみちゃんはまったく慌てた様子も見せず、笑いながらヨーゼフの頭を撫でた。ヨーゼフも嬉しそうにしっぽを振っていた。
「そうか、急に僕が小屋に入ってしまったから悪かったんだ。そういうことだったのか…」
僕はそう言うと、そっと手を差し出し、やさしくヨーゼフに声をかけた。
「ほら、おいでヨーゼフ」
するとヨーゼフはのそっと立ち上がり、巨体をゆすりながら僕に近づいてきた。
「ね、とっても賢い子でしょ」
「本当だ、ごめんなヨーゼフ、さっきは僕が驚かせてしまったんだな」
僕はしゃがんだ状態で、近寄って来たヨーゼフの頭を撫でようとした。と、その時、突然ヨーゼフはその巨体をくるっと反転させ、僕に向かって後ろ足を高く持ち上げた。
「え!?」
同時に ヨーゼフの足の付け根にある巨大な突起物から、黄色い生暖かい液体が発射された。
じゃじゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「ぶわーーーー何だーー!?」
「ちょっとヨーゼフやめなさい!!」
相当たまっていたのか、ヨーゼフから発射された大量の液体で、僕は頭から身体までずぶぬれ状態になってしまった。
ヨーゼフはその股間から最後の一滴をぴゅっ、ぴゅと僕に振り掛けると、まるでライバルを見るような視線を僕に向けながら、のそのそとめぐみちゃんのもとへすり寄り、彼女の横で静かに伏せをした。
「・・・・・・」
僕はおしっこまみれの身体で、めぐみちゃんとヨーゼフを見ながら固まっていた。
「もう、何てことするの、ヨーゼフ」
ヨーゼフはめぐみちゃんに怒られてしゅんとしていた。
「ちょっとまっててね、吉宗くん、今タオルもらってくるから」
「・・・・・・」
「おばちゃーん、大変なのー!!」
めぐみちゃんは、鬼瓦興業の事務所の中に走っていった。 僕は呆然としながら、じっと伏せをしているヨーゼフを見た。
「おい、ヨーゼフ、いや与太郎」
ヨーゼフは僕の言葉にめんどくさそうにこっち見た。
「お前、僕に何の恨みがあるっていうんだ?」
僕は頭と身体からアンモニア臭を漂わせながらつぶやいた。 ヨーゼフはそんな僕をギロッと睨むと、黙ってめぐみちゃんが走り去った方角を、まるで愛する人を待ちわびるような目で見つめていた。
「まさか、与太郎、お前もめぐみちゃんのことを?」
ヨーゼフはその言葉を聞いて、じろりと好戦的な目で僕を見た。
(こんなところに、僕のライバルがいたとは・・・)
僕は身体からアンモニア臭を発散させながら、じーっと与太郎ヨーゼフと睨み合っていたのだった…。
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