侠客鬼瓦興業77話「イケメン三波vs追島さん」
「ぐわっ、いててて……」
ひばり保育園では、追島さんに腕を締め上げられた、イケメン三波が苦痛の顔を浮かべていた。
「ふざけやがって、母親が病気だぁ?見え透いた嘘つきやがって」
「うあー痛い、痛い痛い痛い……!た、助けて!」
「何が助けてだ、この小僧!」
追島さんは、さらに三波の腕を絞り上げると、その手からお金の入った封筒と取り上げた。
「祭りで見た時、どこかで見た面だと思ったら、てめえ西条の舎弟だった小僧だな」
「!?」
「西条は何処だ?ここにツラ出してた事は、分かってんだ、野郎は今何処にいる?」
「うぐっ…!」
「何処にいるんだ?小僧!」
追島さんの鬼のような形相に、三波は一瞬顔を引きつらせたが、何を思ったかふっと口もとに笑みを浮かべると、春菜先生に突然情けない顔を向け
「うわー!た、助けて・・・助けて春菜先生!!殺される!殺されるー!」
大声で泣き叫びはじめた。
「み、三波先生!?」
「助けて春菜先生ー、この人に殺されるー!!うわー、うわぁー!」
「こ、殺されるだぁ?」
突然号泣しはじめた三波に、追島さんは一瞬たじろいだ。
「春菜先生ー、助けて、この人ですよー、僕の事を殺そうとしたヤクザはこの人なんですー!」
「お、追島さんが!?」
春菜先生は追島さんを見た。
「殺そうとしたヤクザ?何言ってんだてめえ」
と、そこへ
「何ですかー、何があったんですかー!?」
騒ぎを聞いた園長が、あわてて近づいてきた。三波は今度は園長に向かって大声で泣きながら
「園長助けてー!この人に殺されるー!」
「こっ、殺されるって!?」
園長は引きつった顔で追島さんを見た。
「て、てめえ、さっきから何を訳のわからねえこと!?」
追島さんは戸惑いながら、一瞬三波の腕を放した
三波はその隙に追島さんの元からすり抜けると、大慌てで園長の背後に逃げ込み
「園長ーこの人です!この人が僕の顔をこんな風にした人です!」
「なんですって!?」
「まさか追島さんが、そんな・・・」
春菜先生は驚いた顔で追島さんを見た。
「この小僧がぁー!」
追島さんは怒りでこめかみを引きつらせながら、ふたたび三波に襲い掛かろうとしたその時
「やめてー!!」
「!?」
「や、やめて下さい、追島さん!」
そこには、必死に叫びながら追島さんにしがみついている春菜先生の姿があった。
「お願いです追島さん、どうか、どうか三波先生を許してあげてください!」
「何言ってんですか先生、この野郎は!」
「逃げてー、逃げて三波先生!!」
「なっ、何!?」
「早く逃げて、三波先生!!」
春菜先生は追島さんにしがみ付きながら夢中で叫び続けた!
「な、何で、先生!?」
追島さんは驚いた顔で春菜先生を見た。
イケメン三波は二人の様子を冷めた表情で見たあと、ふっと口元に笑みを浮かべ、そそくさとその場から姿を消した。
「ま、待て、こらー!」
追島さんはあわてて叫んだが、必死にしがみついている春菜先生のせいで、三波を追うことが出来なかった。
「先生!何でだ、あんたあの野郎に騙されてるんですよ!」
三波の消え去った廊下で、追島さんは春菜先生を見た。
「騙されてるんだよ、先生!!」
春菜先生は、追島さんの言葉にうつむくと、その目からポロポロと涙をこぼし小さくうなずいた。
「春菜さん、今のお話しどういう事?あなたが騙されたって、それにこの方は?」
「園長、こちらはユキちゃんのお父様です」
「ユキちゃんの!?で、でも三波先生が殺されるって、顔の傷もこの方にって」
園長は恐る恐る追島さんを見た。
「待ってくれよおい、俺は何も・・・」
「だ、だけど・・・」
「園長、追島さんはそんな方ではありません!」
「えっ、でも三波先生が」
「本当にこの方は・・・、追島さんは違います」
春菜先生の言葉に追島さんは首をかしげると
「じゃあ、やつが嘘をついてるっ分かってて、何で逃がしたりしたんですか?先生」
「分からない、分からないけれど私、気がついたらあんなことを」
「気がついたらって?」
「彼のお母さんが病気でっていうお話し、あれも嘘だって、私うすうす気がついてました、でも、気がついていたけれど」
「先生、まさか野郎のこと」
春菜先生は小さくうなずいた。そして目にいっぱいの涙を浮かべ真剣に追島さんを見ると
「分かっていたけど、ほうっておけないじゃないですか!あの人が、あんな風に顔を腫らして、ほっておけないじゃないですか」
そう訴えながら、廊下に泣き崩れてしまった。
「せ、先生・・・」
追島さんはそんな春菜先生の姿を、ぐっと怖い表情で静かに見つめていた。
「あぶねえ、あぶねえ…、春菜のやつ、まさか追島の野郎を連れ込んでやがったとはよ」
春菜先生に救われ外に逃げ延びたイケメン三波は、にくにくしい顔で保育園を振り返った。
「しかしまいったな・・・、とんだ邪魔のせいで西条さんの今夜の遊び代、用意できなくなっちまったぜ、やっべえなー」
三波が苦い顔で園の駐車場近くに差し掛かった時だった
「おい若造!」
突然スキンヘッドの巨大な影が三波の前に立ちはだかった。
「うわぁ!な、何だあんた!?」
「何だじゃねえ、てめえに聞きてえ事がある、ツラかせや…」
巨大な影、それはスキンヘッドの熊井さんだった。
三波は熊井さんの二メートルの巨体に睨まれると、ひきつった顔で
「なっ、なんですか?ぼ、僕に何か御用でしょうか?…」
カタカタと足を震わせながら返事を返した。
「聞きてえ事があるって言っただろうが」
熊井さんは、その巨体から長い腕を伸ばすと、三波の頭をぐっと鷲づかみにした。
「な、な、な、何ですか?何をするんですか!?」
「西条の事だ、てめえ野郎の舎弟だったんだってな?」
「しゃ、シャテイ?何の事ですか?ぼ、僕はここの保育園の保父で、そんなこと言われても」
三波のとぼけた顔に熊井さんは、その怖い顔をさらにパワーアップさせた。それは僕が以前この人と闘うはめになった時に思わず幽体離脱に追い込まれたあの鬼の形相だった。
「ひーーーーーー!」
さすがの三波も恐怖で顔をひきつらせた。熊井さんはぐっと三波に顔をすりつけると
「西条はどこだ?知ってるんだろ、てめえ西条の居場所」
「い、いや、あ、あの知りません、知りません」
「しらばっくれんじゃねえ、西条は何処だー!?」
熊井さんはイケメン三波の頭をぐっと持ち上げた。
と、その時だった
「ワイなら、ここやで」
熊井さんの背後に大きな影が姿を現した。
「何っ!?」
熊井さんが振り返った、と、同時に、大きな影は手にしていた木刀を熊井さんの頭めがけておもいっきり振り下ろした。
ガゴッ!!
「ぐおぁー!?」
熊井さんは脳天から血を噴き出しながら振り返ると、その場で仁王立ちしながら大きな影を睨み据えた。
「何や、相変わらずしぶといハゲやのう」
大きな影はふてぶてしくつぶやくと、再び熊井さんの頭めがけて木刀を何度も振り下ろした。
バキッ!!ガツッ!!グシャッ!!
「ぐぉーーー!おどりゃー!」
熊井さんは血まみれの顔でそう言い残すと、鬼の形相のままその場に崩れ落ちた。
「この2メートルのハゲが!おう三波、このボケ生意気にワイのことを焼き入れたるって息巻いてたらしいで、ハハハ」
大きな影は魔物のような顔で笑いながら三波に振り返った。それは、西条竜一だった。
「さ、西条さん!」
「なんちゅう情けないツラしとるんやアホ、それにしても、まさかこの連中がワイのこと探しとったとはのう、危ない危ない」
西条は熊井さんの頭を足でこずきながら蛇のような目を三波に向けると
「で、銭は用意でけたんやろうな?」
「あっ!そ、それが西条さん、とんだ邪魔がはいってしまって」
「なんやー、それじゃ銭もつくれんとおめおめ出てきたんか?」
「す、すいません!」
イケメン三波は引きつった顔で西条に頭をさげた。
ゴツッ!
「うぐ!…」
三波の頭に鈍い痛みが走った。
西条は持っていた木刀の先を三波の頭に押し付けながら、恐ろしい顔で睨み吸えていたのだった。
「おうこら、三波!われ、まさかわいがはるばる尋ねて来た言うのに、何の接待もせんとこのまま黙って大阪に帰れ言うつもりちゃうやろな?」
「あっ、いえ、そんなつもりは」
「ほたら接待する遊び代も無しに、どないするつもりや」
「そ、それでしたら、自分がもっといい接待させてもらいますんで、はは…はははは…」
「もっとええ接待?」
「は、はい、プロじゃなくて、たまには素人の生きのいいの用意させてもらいますから」
「ほう、素人なあ」
西条はニヤニヤしながら、いやらしい表情であごの下をなでた。
三波は少しほっとした顔をすると
「はい、自分に任せてください西条さん」
「関東の素人か、それもええのう・・・、ほいたらさっそくわいの車で行こうか」
西条はうれしそうに笑いながら、ポケットから車のキーを取り出すと、三波に向けて放り投げた。
「あっ、えっ!?」
三波はあわてて鍵を受け取ると、それを見て一瞬戸惑いの顔を浮かべた。
「あ、あの、この鍵は!」
「おう、そうや、沢村はんがきっちり金利つけるまで預かることにした、わいの愛車や、ほれ、あれや、あの車や・・・、なかなかおしゃれーで、ええ車やなぁ、三波」
西条はニヤニヤしながら、駐車場に置かれた一台の車に目を向けた。
そこには黄色いボディーに可愛い小鳥達のペイントがされた保育園バスが、ひっそりと留められていたのだった。
つづく
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^
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