読書メモ:プラグマティズム入門
第3章「実験主義者」パースのプラグマティズム
ジョン・マーフィー/リチャード・ローティ(1990年)/ 訳者:高頭直樹
プラグマティズム入門 パースからデイビッドソンまで
本書はジョン・マーフィーの著によるプラグマティズム入門書であるが、マーフィーの急逝を受けてローティーの手により出版されたものである。本文は全てマーフィーの原著であるものの、序はローティが記したものだ。
第3章 パースのプラグマティズム
第1章では、実験主義者としてのパースによる「デカルト主義の拒絶」が論じられた。そこではパースは近代哲学に内在する懐疑主義に対する批判と拒絶を明らかにしている。それでは、パース自身はプラグマティズムの核心をどのように表現していたのであろうか。パースは論文「探究の方法」(”Fixation of Belief” ,1877)などで、次のように述べている。
われわれの思考の本質、つまり人間の心の目的と機能について、どのように考えるかという問題として捉えているのである。パースは、この信念の定義こそがプラグマティズムの核心であり、「プラグマティズムはこの定義から導かれる一つの帰結に他ならない」としている。
パースは、人間をこのような思考=探究(inquiry)に導くものを、われわれの誰もが抱く「自然現象としての疑念」であると捉える。パースは反懐疑主義の立場から普遍的懐疑を否定しているが、ここでの「疑念」とは行動の指針も進むべき方向性も示されない不安で不満足な状態を指す。このような状態から信念の状態に到達しようとする営み、すなわち疑念を信念へと変換させることを探究と呼ぶのである。
そして、このような信念の固定化=行動を決定する習慣を確立すること、が探究の唯一の目的であると主張する。ここで、「真なる意見」を探究の目的と捉えようとする期待(夢想)については、その根拠を明確に否定する。なぜならば、われわれが確固とした信念に一度到達すれば、その信念の真偽に関わらず、われわれは完全な満足を得る=明確な行動の指針を得て不安定な疑念の状態から脱することができるからである。
パースは、このように信念の本質を習慣の確立とし、探求の唯一の目的と捉えるのである。この定義を起点として、プラグマティズムの格率を展開する。
例えば、「かたさ」という概念は、ダイヤモンドと他の石が存在する状況で、ダイヤモンドを他の石で引っ掻いても傷がつくことがないという効果についての概念で捉えることができる。ここまでの「パースのプラグマティズム」については、プラグマティズムの系譜に連なる哲学者たちに良く受け入れられているようだ。さらに、実在の観念を明確にするために、パースはプラグマティズムの格率を適用して、次のように主張する。
こうしたパースの姿勢については、実験主義者としての本領が現れているところであり、科学的方法の前提である共同体主義的観念論に根拠を見出すことができる(後にクーンの「パラダイム論」にも通じる考え方であろう)。しかし、ローティは本書の序において「自然科学に特権を与える ― 人間の様々な目的を実現するための他の手段以上のものと考えることで(ロックやウィリアムズの)『不幸な欲求』を共有する試み」と切り捨てている。ローティによれば、「パースは絶対主義を『探究の目的』と読み替えようとした」のであり、誤った方向であると断じている。
2024年10月14日
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