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村上康成さんの傑作、長良川のアユ|編集者のこぼれ話④

 『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』の編集を担当しました、農文協 編集部の馬場です。第四話は大好評の表紙画の誕生秘話について。

*本連載の過去記事はこちら↓よりご覧ください*

https://note.com/nobunkyou/m/mefbddde2e597


幅広い創作活動

 第一話でも少しお話ししましたが、本書の表紙画は村上康成さんにお願いしました。村上さんは、渓流魚のヤマメを主人公にした絵本『ピンク、ぺっこん』で鮮烈にデビュー。絵本、イラストレーション、エッセイ、タブロー、オリジナルグッズなど、幅広い創作活動で自然や命を表現され、ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、日本絵本賞大賞、全国カレンダー展特別部門賞など数多く受賞されています。世界的に活躍する岐阜県出身の絵本作家、自然派アーティストです。

 「ヤマメのピンク」シリーズは「国連生物多様性の10年日本委員会」(UNDB-J)推薦「子供向け図書」(「生物多様性の本箱」~みんなが生きものとつながる100 冊~)にも選定されました。同シリーズ第3弾の『ピンク! パール!』(ブラチスラバ世界絵本原画展金牌)は、海に下って立派なマスに成長し、恋人のパールと故郷の川に帰ってきたピンクが、巨大な堰堤に行く手を阻まれながらも困難を乗り越える物語です。

*「ヤマメのピンク」シリーズ*

村上さんと長良川

 村上さんは、長良川上流の「水の町」・郡上八幡に生まれ、「青川」とも呼ばれる清流・付知川が流れる中津川市で育ち、少年時代は釣りと絵を描くことばかりしていたそうです。長良川・木曽川水系が遊び場で、自然の造形や感触は体で憶えており、魚などの絵は資料を見なくても描けるそうです。世界を股にかける釣り師としても知られ、自称「みずぎわ族」。村上さんの釣りエッセイは釣り師たちの愛読書になっています。

 長良川河口堰の問題が社会を揺るがす大論争に発展した1980~90年代、村上さんは長良川を守る活動に自身の絵を提供しました。釣り人たちは、村上さんのステッカーを車に貼り、村上さんのTシャツを着て、アピールしていました。学生時代、私の学友にも渓流釣りが好きな女性がいて、彼女も自分の車に渓流魚のアマゴが描かれた可愛らしいステッカーを貼っていました。村上さんの絵は長良川のアイコン的存在でした。

1988年から長良川を守る活動のために製作された村上さんのステッカー。右上は別の方(高木邦子氏提供)
同じく、当時製作された村上さんのTシャツ(高木邦子氏提供)

「尊敬する命、ここにあり」

 私が村上さんに最初にお会いしたのは一昨年の12月、絵本の打合せでした。職人や漁師の聞き書きで知られる作家の塩野米松さんと絵本をつくることになり、その絵を村上さんにお願いすることになったのです。お二人は絵本『なつのいけ』を共作し、日本絵本賞大賞を受賞した黄金コンビ。今回の絵本は、かつて塩野さんが長良川漁師の大橋亮一さんから聞いた「魚が湧く」という話から着想を得て創作された物語です。

 絵本の打合せのとき、私はすでに長良川河口堰に関する本の企画を進めており、表紙画は村上さんにお願いすると決めていました。村上さんにその旨お伝えすると、ぜひ協力させてください、と即座に快諾していただけました。それから約1年、絵本の仕事を進めながら、本書の表紙画の構想を練っていただき、「カバー全面にアユ1匹、尊敬する命、ここにあり、そんな絵にできれば」と仰って、描き上げてくださいました。

 長年、故郷・岐阜の川を思い続けてきた村上さんによる長良川のアユの絵は、横長の画面に描かれた大アユが、静かに力強く訴えかけてくる傑作です。村上さんのアトリエ近くの喫茶店で原画を受け取ったときは、色彩の鮮やかさ、巧みな構図と筆遣い、絵の放つ迫力に圧倒され、息を呑みました。体形も体色も長良川の天然アユの特徴がよく捉えられていました。大いに燃えて描いたと言っていただき、大感激でした。

『長良川のアユと河口堰』の表紙画(原画)。色彩の鮮やかさ、巧みな構図と筆遣い、絵の放つ迫力に圧倒される(製作部撮影)

描いて終わりじゃない

 絵はポスターカラーで描かれ、水に溶けるため、水分厳禁でした。唾の飛沫など、わずかな水滴でも跡が残るため、確認するときはマスクをしました。データはレタッチで直せますが、原画はそうはいかないので、取扱いには細心の注意が必要でした。

 村上さんからは、入稿の際に、「アユの眼のハイライトは紙白(かみじろ=紙の地色の白さ)で」とのご指示をいただきました。眼の輝きを際立たせる処理です。カバーデザインの過程では、タイトルの文字色やシャドウの色、帯の位置など、細部まで調整していただきました。色校正でも、PP加工(フィルム貼り)によるタイトルの色やアユの体色の変化を予測して色補正するなど、最後まで手を尽くしてくださいました。

 本が完成したときは、製作部の人たちが「カバーを盗まれるんじゃないか」と話すくらい、素晴らしい仕上がりでした。ぜひ本を手に取って、ご覧いただければと思います。

『長良川のアユと河口堰』のカバーデザイン。タイポグラフィ(文字の見せ方)との関係など、あらかじめ細部まで計算の上、絵が描かれていることがよくわかる(製作部提供)

 表紙のアユの原画は、「村上康成の世界展」で見ることができます。4月27日~6月9日、山形県東根市の「まなびあテラス」で開催されます。初日は、村上さんの講演会「絵本の力~自然の歌をききながら」もあります。6月15日~8月4日には、静岡県三島市の佐野美術館でも開催されます。ぜひ足をお運びいただければ幸いです。

*村上康成の世界展*

 5月6日には、八王子市でも講演会があります。詳細は以下サイトをご参照ください。

*村上康成さん講演会*

2024年3月11日発売
『長良川のアユと河口堰 川と人の関係を結びなおす』
蔵治光一郎 編
定価 2,420円 (税込)
判型/頁数 A5変型  232ページ
ISBNコード 9784540231278
詳細はこちら https://toretate.nbkbooks.com/9784540231278/
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54023127/

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