ストーリー19 人に頼むのが苦手なタマオさん
タマオさんは長年パートの仕事を続けてきました。面倒見がよいのでみんなから慕われ、社員からも頼りにされる存在です。
ある年、季節の贈答品コーナーのリーダーになってほしい、と頼まれました。
「えーっ、私が?荷が重いわ。できるかしら」
それでも、頼りにされるとイヤとは言えず、引き受けることにしました。
一番の難問は、パートさんのシフト組みでした。それぞれの希望を聞いてスケジュールに当てはめていくのですが、これがなかなか厄介です。子どものいる人は夕方前に仕事を終えたいと希望します。夫がいるから休日は出勤できないという希望もあります。お店が忙しい日にかぎって、人手が足りなくなることが予想されました。タマオさんは若いパートさんの事情をよく理解しています。出てきてくれと頼んだら、それぞれ苦労するだろうな。そう考えると、無理を言ってシフトに入ってもらうこともはばかられます。結局、ベテランの仲間になんとか頼み込み、自分も手薄なところに入ることで、やっとカバーできそうです。
ところが、フロアのマネージャーさんから厳しい指摘を受けました。
「若いパートさんに配慮したつもりだと思うけれど、ベテランのパートさんはその犠牲になるんだよ。誰かにいい顔をすれば、誰かに負担をかけることになる。そういうことは考えたかい?」
そこまで気が回っていなかった自分がとても恥ずかしくなりました。マネージャーさんのアドバイスで、もう一度広く協力を呼びかけることにしました。すると若いパートさんたちの何人かが、スケジュールをやりくりして協力してくれることになりました。
「無理をさせて悪いわね」
「できない無理はしていません。私たちの仕事ですからがんばります」
責任を持とうとしてくれている姿勢に感動しました。
贈答品のコーナーは連日にぎわいを見せました。タマオさんもみんなと協力して接客しました。ラッピングの手伝いに回ることもありました。でも実は、包装作業は苦手です。時間がかかるあげく見た目もきれいに仕上がりません。案の定、お客さんを長い時間待たせしてしまう状況になりました。
「タマオさん、無理に包装の担当なんてしなくていいのよ。私にやらせて。ちっとも苦じゃないんだから」
まさか、包装が苦にならない人がいるなんて思いもしませんでした。自分が苦手で嫌なことは、人も嫌がるだろう。それを誰かに押し付けてはいけない、リーダーだから自分がやらないといけない、そう思い込んでいたのです。考えてみれば不思議でもなんでもないのですが、リーダーとしての気負いがそれをわからなくさせていたのかもしれません。
タマオさんは、リーダーをやってよかったと思いました。すばらしい仲間といっしょに働いていることを、こんなふうに実感することができたからです。