見出し画像

ストーリー26 リスナーを大切にするヌンさん

ヌンさんは、「ポッドキャスト」というインターネットのラジオ番組のようなものを続けています。もともと学生の頃に深夜のAMラジオを聴くのが大好きでした。布団の中でラジオの声にクスクス笑い、独特の雰囲気を楽しんでいたのです。自分の投稿が読まれるとうれしくてたまらない、そんな経験もありました。インターネットを利用して、誰でも自分のラジオ番組がもてる、パーソナリティになれると聞いて、それなら自分も始めてみようと思ったのでした。

ポッドキャストには、ランキングがあります。当初は、世界中の人に自分の声を届けられることに興奮していましたが、やがてリスナー数が気になり、ランキングも気になりだしました。少しでもランキングの上位に行きたいと思うようになったのです。

すると、番組を作るのが少しずつしんどくなってきました。みんなの話題になるには、どんなことを話せばいいんだろう? どうすればいいのか、迷い始めました。始めたころは自分の面白いと思うこと、興味を持っていることについて自由にしゃべっていて、何も困ることはありませんでした。それが人気番組になりたいと思ったとたん、プレッシャーが大きくなり、何を話していいかわからなくなってしまったのです。しばらくの間番組をお休みすることにしました。なんだか迷路に迷い込んだようでした。

それでも、ヌンさんは番組に未練がありました。何かを話して、相手に届けたいという思いが強くありました。しばらくぶりにマイクをセットして番組を録音し始めました。正直に自分の思いを話してみました。どういう思いで番組を始めたのか。うれしいことがたくさんあったこと。人気を気にしてしんどくなっていったこと。

「これからは自分の好きなことを話します。聞いてくれる人がひとりでもいたら、それだけでうれしいです」
いつになく熱く語ってしまいました。

あとで聞き直したら、青臭くて、とても聞けるものではありませんでした。でも、どうせ多くの人が聞いているわけでもないし、とやけくそで公開することにしました。

それから一週間後、一人のリスナーさんからメールが届きます。まわりに気に入られるようにしているけど、それがつらい。いい人だと思われたいけど、プレッシャーになっている。ヌンさんの番組を聞くのが一番うれしい時間だ、すごくホッとする。だから、この前の放送はすごく嬉しかった、というのです。まさかそんなリスナーさんがいたなんて、ただただ驚くばかりでした。

ヌンさんはふっきれました。多くの人の人気者にはなれないかもしれない。ひとり、ふたりのリスナーさんを大切にして、番組を続けていこう、と心に決めたのでした。

いいなと思ったら応援しよう!

中澤信幸「等身大リーダーシップ」コーチ
ほめられると調子に乗って、伸びるタイプです。サポートいただけたら、泣いて喜びます。もっともっとノートを書きます。