ストーリー27 信仰の父と呼ばれるアブラハム
旧約聖書には、信仰の父と呼ばれるアブラハムという人物が登場します。アブラハムは、神から約束と命令を受けました。生まれ故郷を離れて神が示す地へ行きなさい、そこをあなたに与えよう、というものでした。もとの自分の家にいれば、繁栄した生活が保証されていました。しかし、アブラハムは与えられた命令と約束に従って旅立ちます。すでに築き上げていた生活を後にして、何も持たずに将来に向かって歩み出したのでした。
よりどころにしていたのは、神から与えられた約束でした。ひとつは、星の数ほどに、海の砂の数ほどに子孫が増え、繁栄するという約束。ふたつめは、行き着く先に新しい土地が与えられ、やがて定住して力の強い民となるという約束です。神の祝福を受けて大いなる民となり、他の民族をも祝福するようになると約束されたのです。
しかし、どの約束も実現にはほど遠い状況でした。子孫について言えば、夫アブラハムと妻サラには子どもがありませんでした。もうすでに高齢で子を望むことができません。アブラハムは考慮の末、女奴隷ハガルとの間に男児をもうけます。しかし、妻サラと女奴隷の関係がこじれ確執が生じます。これは神が望んだことではありません。子は妻サラとの間に与えられるのだ、と神は約束を繰り返します。そしてついに、信じがたいことではありますが、百歳の夫アブラハムと九十歳の妻サラのもとに、約束の子イサクが与えられました。
土地の約束についてはどうでしょう。アブラハムとその家族は故郷を後にして旅立ってきました。定まって住むところさえ、まだ確保できていません。寄留の旅ですから、人々の世話になるばかりです。飢饉が起きればエジプトへ逃れ、そこで一時的な居住地を見つけるような生活でした。
アブラハムが生涯の終わりに手にしていたものは何だったでしょうか。妻の遺体を葬るために購入したマクペラのほら穴、そしてたった一人の息子イサクでした。約束を与えられ、信じて従ってきたにしては、なんともさびしい結末ではありませんか。
でも、ゼロではありません。ゼロで始まったアブラハムの歩みは、一歩前進したのです。自らの力では成しえなかった数多くの経験を通して、神の導きの確かさを知りました。
それが、息子イサクから次の世代へと受け継がれていきます。アブラハムは、部分的ではあっても今後の成就を予想させる神の導きを経験しました。そして、はるか先まで導かれる神に信仰をもって期待をかけ、生涯を閉じました。アブラハムが信仰の父と呼ばれるゆえんはここにありました。
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