第2章 サーバント=人を幸せにする人
みんなを幸せにするサーバント
サーバントは特別な種類の人ではなく、特別な職業や立場、資格があるわけでもありません。日常生活で、みんなを幸せにするために生きている人です。仕事でのやりとり、お客様への対応、同僚とのコミュニケーション、家族との生活、趣味のサークルでの活動など、毎日の一つひとつの場面で人を幸せにするように行動します。
サーバントの願いは、本当の幸せです。貯金がたくさんある、素敵な洋服を着ている、好きなところに旅行に行ける、友人に恵まれている。そういうこと以上に、心から幸せだと思える生き方を求めています。
しかも、自分だけでなく、みんなに幸せであってほしいと願っています。自分にとって大切な人、まわりにいる人、関係するすべての人が一緒に幸せになることがサーバントの願いです。
そのために、サーバントは実際に行動します。少しでも人の役に立つように、みんなを幸せにできるように、自分にできることをしようとします。それが自分にとっても喜びであり、生きがいとなっているからです。
サーバントの五つの特長
サーバントにはどんな特長があるでしょう。シンプルにまとめてみましょう。
サーバントとは、相手の立場になって主体的に行動し、信頼関係によって影響力を与え、幸せをもたらす人である。
相手の立場になる
サーバントという言葉は、主人に仕えるしもべを意味します。奴隷というと少し極端ですが、主人の言うとおりに役割を果たす召使いや使用人のことです。
主人としもべは、本来とてもよい関係をもっています。主人はしもべを雇い、生活を保証し、責任をもって守ってくれます。しもべは、主人のために心を込めて仕えます。お互いの存在によって、それぞれが幸せな歩みを手に入れることができ、感謝し合います。
しもべは「主人はどうしてもらいたいだろうか?」と考えます。この状況だったら、この人を相手にしたら、主人だったらどうするだろうか。何をしろと言われるだろうか。常に主人の立場で、自分の求められている行動を判断しようとします。
サーバントも同じです。相手の幸せを願い、相手の立場で行動します。自分の利益や立場にこだわりません。自分は得をするだろうか、損をしないだろうか、と考えるよりも先に、どうしたら相手のためになるだろうかと考えます。相手の立場を最優先して状況を判断し、自分自身の関わりを見出そうとします。
サーバントにとって、相手のために生きること、大切な人を幸せにすることが使命であり、生きがいです。自分が持っているものをすべて使って、相手を常に幸せにしようと心に決めています。
自分のことについては十分に満足しています。必要なものは与えられるとも確信しています。あれがない、これがない、と欠乏感にかられて、自分を優先して行動することはありません。
これだけの報いがあるはずだ、と見返りを求めません。評価や報酬はあとからついてくるものです。あればうれしいものですが、なくても仕えることをやめません。一番大切なのは、相手が幸せになることだからです。
主体的に行動する
サーバントの行動の本質は、仕えることにあります。ちょうど、しもべが主人のために仕えて働くのと同じです。自分のもっている能力、時間、財産、関心などを提供します。相手のために犠牲を払うことを惜しみません。口先の言葉だけでなく、具体的に体を動かして行動します。しかも、一度きりではなく、必要とされる間ずっとそれを継続します。
サーバントは主体的に仕えます。仕えることこそ自分のすべきこと、使命であると考えるからです。強制されてではありません。いやいやながら仕方なくでもありません。仕えることは、与えられているものを最もふさわしく活用する方法だと考えています。これ以上の喜びはなく、これ以上に満足感を覚えることもありません。
サーバントは忠実です。小さなことであっても、手を抜いたり、軽く見たりすることはありません。大きなことであっても、尻込みせず、臆することなく、自分のできることに取り組みます。相手が誰であっても同じです。一つひとつのことについて心を込めて行います。自分が関わること、貢献することに喜びを見つけているからです。
また、サーバントはどのような状況であっても自分が貢献できることがあると考えます。とても深刻な状況であったとしても、自分に不利な状況であったとしても、です。仕える姿勢は、状況に左右されません。できること、すべきことを自分から見つけ、それを熱心にしようとします。小さなことであっても、何かの役に立つはずだ、と信じています。
信頼関係を築く
サーバントは、関わる相手との間に信頼関係を築くことができます。裏表がなく、いつも変わらずに仕える姿を見て、周囲の人々みんなからも信頼されるようになります。「あなたのような人がいてくれて助かる」と喜ばれ、「ぜひ仲間になってくれ」と歓迎されます。
サーバントは、誰とでもよい関係を築くことができます。立場が上の人にこびたり、立場が下の人をぞんざいに扱ったりしません。仲間だからといって無神経な言動をすることもありません。いつも相手を尊重し、大切な人として接します。だから、誰からも信頼されます。
頼りにされ、あてにされるようになると、しばしば大切な役割を任されることがあります。いつも相手のためになることを考え、人を悪く言ったり、利用したりしないことが理解されるようになります。信頼し任せることができる人と認められて、「あなたにこれをお願いしたい」と言われます。
サーバントとまわりの人々との関係は、安定しています。状況や場面が変わっても、時間が経っても、いつも同じ関係が築かれています。うまくいっているからという表面的な関係ではありません。もっと深い、状況に左右されない信頼関係が築かれています。
影響力を持つ
サーバントは仕える立場に自分を置きながらも、人を動かす力を持っています。権力や、強制的な指導力ではありません。影響力です。サーバントを信頼する人たちが、自分のすべきことに気づくようになり、動機づけられて、自分から積極的に行動するようになります。
サーバントの影響力は、よい未来をもたらします。「もうどうにもならない」と思われるような悲観的な状況であっても希望を与えます。「それでも何かできるはずだ」というサーバントの主体的な姿勢が、まわりの人に影響を与えるのです。どうなるべきだろうか、どうすることができるだろうか、と考え始め、一人ひとりが取り組むようになります。このことは、状況をよい方向に導くだけでなく、関わる人たちの未来にも大きな影響を及ぼします。能力的にも、人格的にも成長が促されます。
サーバントの影響力は、よいコミュニティを作り出します。いっしょに関わる人たちの雰囲気がよくなるからです。ギスギスした緊張関係ではなく、一緒に協力する友好的な関係が広がります。大きな目標に向かって、それぞれの役割を果たして、誇りをもって働く関係になります。協力者、賛同者がどこからともなく集まってきて、それぞれのもっているものを惜しみなく提供し合う関係です。サーバントの主体的に仕える姿勢が共有された結果です。
幸せをもたらす
サーバントは、結果的にみんなに幸せをもたらします。相手を幸せにします。具体的な助けとなり、必要が満たされ、願いがかないます。加えて、さらにそのまわりの人たちも幸せにします。協力関係が広がるからです。喜びをともに分かち合い、祝福し合います。サーバントがいてくれてよかった、と誰もが思うでしょう。サーバントの歩みはまわりの人に多くのよい影響を与え、次のサーバントを生み出し、育てます。もたらされる幸せはさらに増え、広がります。こうして、名もない多くのサーバントたちによって、よりよい社会が実現していくことになります。
もちろん、サーバント自身も、仕えることの中でかけがえのない幸せを手に入れます。単なる幸せではありません。感謝されるからというだけでもありません。非常に本質的な幸せです。心の奥深く、魂の部分が満たされる感覚です。これこそ私のすべきことである、これこそ私の生き方だ、と幸せな思いが満ちあふれるのです。
次の章では、なぜいまサーバントの歩みに注目するのか、その理由を説明します。サーバントの旅支度のようなものです。忘れ物がないように。