ストーリー20 母子支援の働きをするチヒロさん
チヒロさんは、地域の小さな子どもたちとお母さん方を支援する働きをしています。最近、あるできごとがあって、自分の働きについて、いままでと違う視点で考えることができるようになりました。
その日、チヒロさんは自治会の責任をもつ方々を訪ねて、子育て家族への支援の必要性を訴えてきました。返ってきた反応はとても冷たいものでした。そんなことに関わっている余裕はない、高齢者への対応で手一杯だ、行政が責任をもってすればいい、若い家族は甘えている。チヒロさんは、理解されないことへのいらだちを抱えて帰宅したのでした。
夫が一足早く帰宅していました。先に帰ったのに何もしてくれていない夫に向かって、思わず声を荒げました。
「あなたは何もしてくれない。私がこんなにがんばっているのに」
「いやいや、違うんだよ。こっちもいま帰ってきたばかりなんだから」
チヒロさんは勘違いを詫びました。そして、仕事でうまくいかなかったいらだちをぶつけてしまったことを認めました。
「自治会の人たちがそういうふうに言うのも分かる気がするよ。キミと一緒にいると同じ気持ちになるから。キミは責めてるつもりないと思うけど、何だか責められている気がしてくるんだよ」
本当に思いがけないことばでした。夫は自分の働きを誰よりも理解してくれていると思っていたからです。
きちんと聞いてみると、こういうことでした。チヒロさんの取り組んでいることはとても大切な働きで、必要なものであることを理解している。ただ、「こんなに大切なことになぜあなたは協力しないのか、わたしはこんなに一生懸命にやっている。あなたもそうすべきだ」と責められているように感じる。そうなると、自己防衛をするために、いろいろな言い訳をしたり、あら探しをしたくなる。
チヒロさんは、まさか、と思いました。
「自分が一生懸命に協力を呼びかけるほど、みんなの心が離れていったなんて。もしかしたら、自分は正しいことをしているという気持ちが強すぎたのかもしれない。まわりの人をさばき、責めるような気持ちになっていたのかもしれない」
涙が止まりませんでした。
「結婚する前、キミが一生懸命に話してくれたことがあったよね。自分がどうしてこの働きをしようと思ったのか。あれをみんなに話せばいいんだよ。説得なんかしようとしなくていいから」
チヒロさんは、ベビーシッターのアルバイトをしていたとき、夜遅くまで働くシングルマザーの現実を知るようになりました。孤立して友だちのいないお母さんにも多く出会いました。必要なのはベビーシッターだけではない。母親の現実にもっと目を向けよう。それからだんだんと関わりが広がっていきました。困難な家庭が自立するのを応援したい、これこそ自分ができること、すべきことだと信じて、この働きに立ち上がりました。そして、チヒロさんの熱意に共感して助けになってくれる人たちが現れてきたのでした。
振り返ってみると、本格的に事業化しようとする中で、焦りがあって、独善的になっていました。助けたいという初心の気持ちをいつも忘れずに語り続ければよかったのだと気づきました。人の心を動かすために必要なことは、「すべきだ」と呼びかけることではなく、「こうしたい」という個人的な思いを伝えることだったのです。