ストーリー05 パンと魚を差し出した少年
イエス・キリストが行くところでは、周辺の町や村から大勢の人々が集まり、その話に熱心に耳を傾けていました。このときも例外ではありません。五千人、いや一万人以上の人々がいたといいます。もう夕方になりました。人々が家に帰る時間です。
イエスは弟子たちに言いました。
「あなたがたでこの人々に食べるものをあげなさい」
無理難題でした。こんなに多くの人々にどこから何を買ってきて食べさせろというのでしょうか。弟子たちは、自分たちの無力さを感じ、困惑しました。
人々の中に、一人の少年がいました。お弁当を持っていました。中味は、五つのパンと二匹の魚です。ちょうど一人分のお弁当。少年は弟子に声をかけ、弁当を差し出しました。自分のお弁当なのに。誰がどう考えても足りないわずかな量なのに。
弟子から少年のお弁当を受け取ったイエスは、人々を草原に座らせます。祝福を祈り、弟子たちに配るように命じました。すると、パンと魚は配っても配っても、決して尽きることがありません。そこにいたすべての人が満腹になり、しかも十二のかごいっぱいにパンが残ったというのです。その場にいたすべての人にとって、とても不思議な経験でした。
このストーリーは、イエス・キリストの不思議な力を明らかにしています。と同時に、自分のお弁当を差し出した少年の行動も際立っています。
「自分の持っているものは、ほんのわずかだ。でも役に立つかもしれない」
少年は、わかりきった計算をして、あっさりあきらめてしまいませんでした。とても素直な気持ちでお弁当を差し出し、それが用いられたのです。
家に帰った少年は、誇らしげに家の人に話したことでしょう。大人になっても、この経験を思い出しては、惜しみなく人のために与えたことでしょう。どんなに小さなものでも用いられる、これを実体験として知ったことは、少年にとって一生の財産になりました。