ストーリー21 決断を迫られた教会指導者ヤコブ
イエス・キリストが地上から去ったあと、教会が形成されるようになりました。ヤコブという指導者は、ユダヤ人たちが集まるエルサレム教会のリーダーであり、イエス・キリストの弟でもありました。十二人の弟子に名を連ねてはいませんでしたが、人々に信頼され、指導的な役割を担うようになっていました。
同じ時期に、ユダヤ人ではない異邦人たちに対して熱心に伝道していた人たちもいます。その一人がパウロです。かつては熱心なユダヤ教徒としてキリスト教を迫害していた人物です。劇的な回心を経て、キリスト教の宣教師となりました。パウロは各地へ積極的に足を伸ばし、まずユダヤ人の会堂を訪ねてはキリストについて説き続けました。ユダヤ人が受け入れなければ、次に異邦人たちのところに行き、キリストのことを説きました。その結果、多くの異邦人がキリストに対する信仰の道に入っていきました。
十二使徒のひとりペテロは、エルサレムとその周辺地域にキリストの教えを広めていました。あるとき、夢の中で幻を見ます。異邦人と関わることを避けないで、キリストを伝えなさいと示されます。ペテロにとっては、今までの歩みから大きく一歩踏み出すチャレンジでした。ユダヤ人にとって異邦人と交流することは身を汚すことであり、避けるべきことだったのです。しかし、関わりをもつようになると、異邦人たちも同じように信仰に導かれることを経験しました。
このような広がりの中で、教会は対立を経験することになります。一方で、ユダヤ人クリスチャンたちは、もともと大切にしてきた律法を重んじています。キリストを信じたというなら、異邦人も律法を守り、ユダヤ教の伝統に従って歩むべきだと主張します。
もう一方で、異邦人クリスチャンたちを導くパウロは、イエス・キリストに対する信仰を重んじます。キリストを信じたのだから、キリストに従って歩むのだと教えます。異邦人にユダヤ教の律法や伝統を守らせることは、キリストへの信仰以上の余計な負担を課すことだと反対したのです。
ペテロはペテロで、自分の経験を振り返りながら、神はユダヤ人と異邦人を区別されない、同じ恵みを受けられることを証言しました。
このような対立の中で、決断を迫られたのがエルサレム教会の指導者ヤコブでした。双方の訴えによく耳を傾けます。事実関係を確認し、それぞれの訴えの根拠を明らかにし、神の導きにそった判断をしようと努めます。
ヤコブは、本質的な問題とそうでない問題を切り分け、異邦人が守るべきことを簡潔に示しました。神の前にはユダヤ人と異邦人の区別はなく、イエス・キリストによって同じように救いに導かれること。忌み嫌われる慣習、伝統などは配慮の中に慎まれるべきこと。この二点を公に定め、教会の対立を回避し、一致をもたらしました。
ヤコブがこの役割を果たすことができたのは、人々から信頼されていたからでした。誰かを特別に優遇したり、立場を利用したりする人ではありません。話をよく聞き、理解しようと努めます。そうして築かれていった信頼をもとに、ヤコブでなければできない重要かつ本質的な判断を任されたのでした。