アタッチメントの身体的、社会的側面
アタッチメント(ボウルビィ,1951)については、そもそも精神分析の理論ですので、心理的側面が強調されやすいのですが、
下記の3点についても、ぜひアタッチメントの形成と関連付けて考えていただきたいと思います。
①身体的側面、つまり、新生児期からの適切なケアの必要性
子どもを愛する気持ちは(最初は)あっても、実際に身体的ケアができない大人がたくさんいて、誤情報も多く流れています。そのために最初期からよい関係性が築けない親子、子の身体が育たず、子育てが大変になってしまっている親子が少なくない現状があります。
②乳児に対して、その人権を大切にしながら丁寧に民主的に対話しつつ育てる具体的方法(新生児期から、((そしてその後のたとえイヤイヤ期であっても))、体罰や心理的暴力(暴言、無視等)を使わないで育てる方法)を親や保育者が学ぶ機会の必要性、
③親が疲れ切って対応できないような状態や結果的に子どもに対してマルトリートメントしてしまうような状況にならないような社会的サポートの必要性
愛着というと、愛着形成ができていない、とか、愛情不足である、というような言い方が長くされてきたと思いますが、ほとんどの親は、愛情不足ではなく、愛情があってもどう子育てしていいか、その技術がない、わからない、というのが、実際のところではないでしょうか。
しかも、知識は言葉で伝えられますが、技術は、口頭で、言葉で伝えることがとても難しいものです。育児を自然に「身につける機会」があった時代は遠く過ぎ去ってしまいました。技術は、視覚や体験によって「身に着く」ものです。そのことを認識しなければ、どれだけ「学ぶ機会」を作っても、追いつかないように思います(日本の学校教育のように!)。
その「どうしていいかわからない」ところを、家族や地域の人が支えられれば良いのですが、それができないのが今の日本です。そうすると必然的に愛着を持てない子どもたち(ひいては大人たち)が増えてしまいます。
これを、親子の責任としても、何ら社会問題の解決には結びつきません。
日本で今、起きている社会問題として、愛着の問題を捉え直し、身体的ケアの側面からの対応を進めていくことが重要ではないかと思います。
※ 上記のことに関して、子ども家庭庁の「はじめの100か月の育ちビジョン」において、「保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援をする」という項目が設けられていて、その中で以下の内容が盛り込まれているというご指摘をいただきました。ありがとうございます。
その部分を転載させていただき、さらにコメントさせていただきます。
なにより、「はじめの100カ月の育ちビジョン」が出されたことは、快挙だと思います。ここにコメントすることは、だからこそ、さらにここをお願い!というプラスα です!!
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(幼児期までの保護者・養育者への支援・応援の重要性)
○こどもを養育する第一義的責任を有する保護者や養育者は、こどもに最も近い存在であり、特に「こどもの誕生前から幼児期まで」は、「アタッチメント(愛着)」の対象となる保護者・養育者がこどもの育ちに強く影響を与えることから、保護者・養育者自身のウェルビーイングを高めることが、こどもの権利と尊厳を守り、「安心と挑戦の循環」を通してこどものウェルビーイングを高めていく上でも欠かせない。
〇また、幼児期までは、こどもにとって人生の最初期であるとともに、保護者・養育者自身にとっても養育経験の最初の時期である。子育てにも手がかかる時期であることから、出産前後の綿密なケアを含め、特にこの時期において、こどもとともに育つ保護者・養育者への支援・応援をきめ細かに行い、そのウェルビーイングと成長を全ての人で支えることが重要である。
○一方で、保護者・養育者であれば子育てを上手に行うことができて当たり前であるといった考え方や、子育てにおいて誰かに頼ったり相談したりすることを恥ずかしいと捉えるような価値観が社会にあることは否定できず、必要以上に保護者・養育者を追い込まないように留意する必要がある。
○さらに、地縁・血縁の希薄化など社会情勢の変化により、子育てを取り巻く環境が大きく変わる中で、保護者・養育者が子育てを自分だけで背負わず、必要な親子関係の構築や、主体的な親としての学び・育ち等に向けた支援・応援を受けることが当たり前である環境(社会)をつくっていく必要がある。
○保護者・養育者がこどもの養育についての不可欠な役割を持つ者であるからこそ、保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援が必要であり、子育ての支援・応援を社会全体で保障していくことが、こどものウェルビーイングのために重要である。
○なお、保護者・養育者の心身の状況や置かれた環境も多様であり、障害のあるこどもを養育している場合や、ひとり親、貧困家庭の場合など、特別な支援を要する子育て環境にある保護者・養育者に対しては、特に配慮する必要がある。だからこそ、保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援についても、こどもの育ちへの切れ目ない伴走によって、保護者・養育者の心身の状況、置かれている環境等に十分に配慮しつつ、ひとしく保障されることが重要である。
(保護者・養育者が支援・応援につながるための工夫)
○保護者・養育者支援のための制度やサービスは、必要としている人が必要なタイミングでつながることができなければ意味をなさない。また、制度やサービスの存在を知らない、支援・応援を受けることへの躊躇や偏見がある、自身の状況を説明することが困難であるなど、支援・応援へのつながりを阻むハードルがあることも考慮する必要がある。全ての保護者・養育者が必要な支援・応援につながることができるよう、こども同士がつながる身近な場所等も活用して、少しでも多くの保護者・養育者との接点をつくり出し、量的な保障も含めて、これらの支援・応援を切れ目なく、ひとしく保障することが重要である。
○このような観点から、ライフイベントの多様性を尊重しつつ、全ての人が、学童期・思春期・青年期から、教育機関や地域において、乳幼児の育ちや子育てについて学んだり、乳幼児と関わったりする体験ができる機会を保障していくべきである。
(こどもとともに育つ保護者・養育者の成長の支援・応援)
○こどもを育てる中で、保護者・養育者自身もこどもとともに育っていくという視点が重要である。こどもを養育するために必要な脳や心の働きは、経験によって育つものであり、生物学的な性差がないとの研究報告もある。そのため、性別にかかわらず、保護者・養育者がこどもと関わる経験を確保することがその成長につながり、こどもの育ちを保障することにもつながる。
○このように、こどもの育ちには親の育ちも必要であることから、子育てと家庭教育の双方の観点で、保護者・養育者の成長を支援・応援することも重要である。また、こどもと過ごす時間や触れ合う経験を確保するため、保護者・養育者の労働環境の整備を含めた対応が必要である。さらに、保護者・養育者同士の育ち合いはもちろん、こどもの思いや願いを受け止めて必要な対応につなげるためにも、信頼できる情報や伴走者として、保健師やソーシャルワーカーをはじめとした母子保健やこども家庭福祉等の専門職による成長支援などが重要である。
○また、保護者・養育者同士がつながることで、その育ち合いを促すことができる。このため、子育て支援や家庭教育支援の中では、このようなネットワーク形成が重視されることが望ましい。
○さらに、体罰によらない子育てのために必要なこと、おとなからこどもへの避けたい関わり、こどもの主体性の発揮に向けて必要なことなど、家庭教育支援やこどもの権利の観点も含め、子育てに関して、分かりやすく信頼できる情報が保護者・養育者に届くことや、保護者・養育者がこのような情報へ主体的にアクセスし、学べることが必要である。また、専門性を持って保護者・養育者とともにこどもの育ちを見守り、保護者・養育者のこどもへの理解を促すなど、保護者・養育者の成長に伴走する人の存在も重要である。
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ここから私のコメントです。
1)上記の文章に、ケア、や、心身、という言葉が出てくるのですが、「身体的」ケア、という観点が、実はほとんど記述されていないということを発見してしまったのです。つまり脳も心も、特に新生児期(胎児期もですが)は、身体の状態が先にあって、それによって始まるのだけれど、そのことが特に意識されない、明記されていない、ので、そこを是非、と思うのです。
身体的ケアには知識ではなく技術が必要ですが、それは赤ちゃんが生まれてから必死で検索して知識を得ても、できるものではありません。また、親が二人いても、知らない者同士では、対応できません。そうすると、愛情深い人が2人も存在するのに愛着関係が形成できないということになります。
(そして、実際的に、身体的ケアがうまくできないために、のちのちの発達に懸念があるという事例の増加を現場で多く聞いていまして、それをなんとか研究でまとめたいと思っているところですので、また改めてご報告させてください。途中経過のごく一部ですが、一般財団法人東京保健会の「母と子の健康」第82号に「「抱っこ補助具による縦抱き」の発達へのリスク」として書きました!!)
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送料500円を切って同封の上、下記まで申し込めば購読できます。新生児、乳児に関わるお仕事をなさっておられる方や、これから子育てをする方に、お届けしたいです。ぜひお手元に置いて下さい。よろしくお願いします。
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一般財団法人東京保健会「母と子の健康」係
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2)体罰に寄らない子育てのパンフレットが出されていますが、親たちは、具体的にどうすればいいのかということがわかりにくいのではないかと思います。体罰は良くない、というところから、次の段階として、では具体的な技術としてどう接すればいいのか(すぐにできることはないのですが、北欧では何十年かかけて変化させてきました)、というところに踏み込んで書いていただけるといいなあと。たとえば、以前、FACEBOOK で紹介させていただいたように、こんなふうに。
また、特に、子どもの権利(子どもの権利条約にも乳児の権利は明記されていません)という中でも、乳児の権利、民主的な対話、といったものを、どう親に「技術も含めて」伝えていくか、という観点が入るといいなあと思っています。0歳の間に、体はもとより、脳や心の発達の方向性が決まってしまうということは脳神経科学の研究からわかってきていることだからです。
3)社会的サポートの必要性はしっかりと書かれていてうれしく思います。ただ、あえて付け加えれば、もう専門家ですら子育ての技術が伝承されていない段階に入ったと思います。今の子育ては、子育て支援では間に合わないところに来ているように思います。里帰りが難しくなっているので、祖父母や近所の守姉(アロマザリング)あるいはコミュニティペアレントのように親代わりになって(でも、預かってしまうのではなく)、サポートするようなコミュニティの形成が喫緊に必要であると思うのです。社会的サポートの必要性は、言葉は違いますが、上記に書き込まれていますので、具体的にどうするか、というところが、これからの課題ですね。
※ カバー写真 室伏淳史氏 2024年12月7日撮影
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