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再掲)日本の抱っことおんぶの状況と懸念について(2025修正バージョン)

文責 武田信子(武蔵大学)
    初稿2017→修正2025

1.はじめに

急速な日本の生活文化の変化や少子化、核家族化等に伴い、親になる世代がそれまでに小さな子どもに接したことのない状態で子どもを持つようになってきている。多くの赤ちゃんと接する機会があれば、ほとんどの人が赤ちゃんのメッセージを聴き取る技術や対応の技術を自然に身につけられると思われるが、今の時代にはそのような技術を持たない人が増え、たとえ親になっても赤ちゃんの泣きに適切に対応できないことは珍しくない。以前であればあたり前のこととして伝承されてきた地域の風土に合致した子育て文化、あるいは「見様見真似」で獲得されてきた子育ての知恵や技が引き継がれにくい状況となっていることが懸念される。 

中でも、子どもの心身の発達、愛着形成に欠かせない抱っこやおんぶの仕方がここ四半世紀に大きく変化し、とりわけここ数年の間に劇的な変化を見せている。それらの変化は赤ちゃんの成長発達にどのような影響を及ぼしているのだろうか。       

2014年冬、この状況変化が親子に及ぼす影響に着目したメンバーが Facebook上で「抱っことおんぶを語る会」https://www.facebook.com/groups/1540569352830891/?fref=ts を立ち上げ、そこでの議論をベースとして、地域の親子の観察なども踏まえつつ、近年の親子の抱っことおんぶをめぐる状況に関する情報を収集、分析し、問題提起してきた。本稿は、それらの活動を通して、現在の日本の抱っことおんぶをめぐる状況について見えてきた懸念をまとめたものであり、執筆者は、「抱っことおんぶを語る会」の創設メンバーである臨床心理士、子育て支援者、及び2014年秋に開催された「抱っことおんぶを語る会」主催の第一回公開勉強会「抱っことおんぶを語る会」からこの活動に参加した理学療法士の3名である。

なお、本文中、抱っこ紐とだけ書いてあっておんぶ紐と書いていないものの中におんぶ紐兼用のものを含んでいる場合もある。文脈によって理解いただければ幸いである。


2.抱っこ紐、おんぶ紐の仕様の変化に伴う懸念

 日本人の身長や体型にフィットさせにくい抱っこ紐おんぶ紐が数年以上前から輸入されるようになり、

①ファッション性の高さ 

②両手が空くこと 

③腰に赤ちゃんの重さが行くために抱く側が重さを感じにくいということ、

④股関節脱臼が防げるというふれこみ、

などからここ数年、流行が急速に進行した。それに伴い日本製の抱っこ紐も追随して形態が変化し、親子それぞれの、抱っことおんぶの際の姿勢に変化が起きてきた。現在は、数年前よりも体型面について抱っこ紐おんぶ紐の工夫がなされるようになってきているが、親子の心身への負担や、後述するような発達上生じると思われる根本的な問題は解消されていない。また、赤ちゃんの上げ降ろしや装着に手間がかかる抱っこ紐おんぶ紐の使用は、赤ちゃんの長時間の拘束を誘導している可能性があると我々は考えている。

 そこで、以下に、身体に合わない抱っこ紐おんぶ紐、赤ちゃんの長時間の拘束、抱っこやおんぶの仕方により懸念される問題をまとめる。


【赤ちゃんの身体発達の側面】 

1)股関節外転が強制される

現在のストラクチャータイプの抱っこ紐は、赤ちゃんの成長発達の状態に関係なく股関節が不自然に固定され、座位姿勢を一定時間矯正されるものが多い。それにより赤ちゃんは股関節周囲の組織が未成熟な状態で座位姿勢を取ることになる。これは一見、座位を獲得したように見えるが、座らせれば座れるが自分で座る姿勢を取ることが難しい、定頚(ていけい:首据わり)しているが引き起こし反応(赤ちゃんの正面から両手を持って身体を引き上げる検査)には頚部(けいぶ:首)がついてこない、などの現象が見られている。このように育った赤ちゃんは、素手で抱き上げた時に見られる本来の股関節のM字型が保たれず、柔軟で自由な動きが阻害されやすくなっている。

なお、ここ数年、赤ちゃんの本来の姿勢であるカエル足ではなく、開脚姿勢のお座りをしている赤ちゃん、アシカ足の這い這いや片這いの赤ちゃんなど、非定型の事例が散見される。基本的身体発達に必要な姿勢が取れず、動作ができない幼児の事例については、長時間固定される抱っこの影響の可能性を検討していく必要があるのではないだろうか。


2)腰椎が後弯(こうわん)し円背(えんぱい)となる

抱っこ紐の中で骨盤が後傾し、股関節内側を押しつけるようにして固定されるものがある。抗重力姿勢獲得前の赤ちゃんでは脊柱(せきちゅう)の可動性も高いため、円背となりやすい。


3)反り返り姿勢を取りやすい    

抱っこをした際に、前向きで親の胸しか見えない状態に固定された赤ちゃんは、進行方向や養育者の行動を観察しようとすると、大きくのけぞって体幹や頚部を伸展した姿勢をとるか、振り向くように体幹を回旋させた姿勢を取ることになる。そこで必要以上に反り返った姿勢を一定時間、無意識のうちにとることとなる。これが長時間にわたることで成長発達に伴う脊柱の生理的弯曲への影響も懸念される。反り返り姿勢に慣れた赤ちゃんは、その後、おんぶをしても反り返りやすく、背中に密着して落ち着くまでに時間を要したり、事前の体ほぐしを要したりすることさえあり、時には、おんぶを拒否してしまってできない場合もある。


4)養育者にしがみつく力がつかない

体幹を安定させるためにも両手両足の力をつけるためにも、養育者に自らしがみつくというサルのような行為が人間の発達過程においても必要と考えられる。しかし、新生児期から椅子に座るかのように、抱っこ紐の中に手足の自由度の低い状態で縦に座らされていたり、動けない状態に固定されたりしている赤ちゃんが少なくない。これらの赤ちゃんは、抱っこやおんぶをされた際に、手足を脱力した状態になっており、素手で抱こうとすると自らしがみつこうとしないし、肩に手をかけようとしない。素手の抱っこや単純な構造の抱っこ紐おんぶ紐の場合は、養育者が赤ちゃんの成長に合わせて手足でしがみつく力が発揮できるように力加減を調整することができるが、ストラクチャータイプの(既成の形に成形されている)抱っこ紐やおんぶ紐ではそのような双方の協力に基づくやりとりが困難である。また、そのような抱っこを長くされていた赤ちゃんは、しがみつく力が極端に弱い。両手足の力は、生活上も運動上も重要な力であるが、これらが幼少期から自然に身につかなくなっていることが危惧される。今後、はいはいや歩行の獲得に影響が及んでいる可能性も検証していく必要があるだろう。 


5)長時間の可動域制限により筋硬結(筋肉のしこり状態)ができやすい

 長時間の抱っこやおんぶは、赤ちゃんにとって体全体の動きを制限される状態が続き、発達に悪影響を及ぼす懸念がある。特に脊柱起立筋群は一つ一つが小さい筋であるため、長時間同姿勢を保持する場合には筋疲労を起こしやすい。その結果として生成された筋硬結は、赤ちゃんにとって不快刺激となる。筋緊張状態の継続は生活上のさまざまな場面に影響が出ると推測される。また、長時間抱っこ紐の中にいた赤ちゃんは、身体の硬直状態のために、降ろす時に泣きやすく、養育者が泣きに反応してまだ抱いてほしいのだと勘違いして、更に抱き続けるといったことが起きやすい。

 

6)首や腰が安定しない

かつての抱っこやおんぶでは、親の肩にもたれかかることができた。しかし、抱っこ紐を使うとそれができないため、首ががくんと落ちないように支えるため工夫がなされるようになった。しかしそのような工夫のみではゆっくり首を休ませることは望めない。また、首の据わらないうち、腰の据わらないうちから抱っこ紐、おんぶ紐を使ってよいと取扱説明書に書いてある場合もあるが、親が手を添えて赤ちゃんの身体の状態を見極めながら首の重さや腰の不安定さを支えるのと、単に物理的に物が支えるのとでは、長時間になればなるほど体の負担に差が出ると考えられ、身体的な影響が懸念される。


【赤ちゃんの心理発達の側面】

1)スキンシップの機会の減少

元々、抱っこやおんぶという行為には、安全な移動の役割とスキンシップの役割がある。

しかし、現状の抱っこは、目と目を合わせてスキンシップしながら抱っこしているという状態ではなく、輸送の意味合いが大きくなっている。ワンオペ育児という言葉に代表されるように一人ですべてをこなさなければならない養育者にとって、両手を空けたいという思いは切実で、両手がふさがる素手の抱っこは不便に感じられてなかなか受け入れられない。両手を空けながら活動できることが抱っこ紐を使うメリットとされているために、抱っこ紐を使う抱っこでは、養育者が子を手で支える必然性はない。両手をぶらぶらさせて、低い位置で赤ちゃんを抱っこ紐が支え運搬している状態では、手を添えようにも自然に肘を曲げた状態での抱っこやおんぶができず、赤ちゃんのお尻を手で支えたり背中をさすったりといった、赤ちゃんの身体感覚・皮膚感覚の刺激を与える動作が急激に減少してしまう。撫でるという皮膚接触は、撫でられた部位に対する感覚刺激となり、赤ちゃんの、ホールドされ体重を支えられている安心感や自我境界の形成、知覚機能の促進等につながると考えられるが、その時間も少なくなっていると推測される。

 

2)コミュニケーションの機会の減少

抱っこの場合は目を見合わせながら、おんぶの場合は高い位置でおぶったときに養育者の肩越しに、両者がコミュニケーションをとることが可能であるが、現在流行している抱っこ紐おんぶ紐では高い位置に抱っこしたりおぶったりすることに限界がある。コミュニケーションといっても、言語レベルのみではなく、耳たぶや頬、髪を触ったり、匂いを嗅いだり、養育者の子守唄の振動を背中で感じたりするというような原始的なレベルの身体接触によるコミュニケーションが、高い位置の抱っこやおんぶでは可能であるし、密着感のある抱っこやおんぶの場合は、養育者の胸や背中を感じるといった、赤ちゃんが養育者の存在を感じる、ケアされている感覚を持つことができる機会を与えていると思われるが、現在の抱っこやおんぶは、自然なコミュニケーションの機会としての役割を以前に比べると果たしにくいものになっている。

 

3)視覚刺激による学習機会の剥奪

現在、流行している抱っこやおんぶでは、前が見にくく視覚刺激が得にくい。また、高い位置の縦抱っこやおんぶの際に可能となる養育者との共同注視(二人が目線の先にある同じものを見ること)ができないため、移動と共に共同注視の力をつけていくせっかくの学習機会も減じられる。同時に、親の表情を脇から見て、親と他者や他事象との社会的な関係性を学習することも難しくなる。一方、おんぶの肩越しに養育者の手元を見ることは、手の細やかな動きなどを学習するなど、身体図式の構築や視覚を通した学習の獲得にも影響があると考えられるが、低い位置での抱っこやおんぶでは、結果的にこれらの学習の機会が与えられないこととなる。


4)意欲や好奇心の阻害

親の表情や目や口の動きを確認したい赤ちゃんや好奇心あふれる赤ちゃんが、したいことができない、見たいものが見えにくい態勢のために、学習意欲を満たすことが困難となる。意欲を阻害されることは、自己効力感、自尊感情の剥奪につながりうるだろう。

 

5)運動機能獲得への影響

長時間の抱っこやおんぶは、赤ちゃんが自分一人で、床(畳)の上でごろごろする時間を減らしてしまう。ごろごろと動きながら自分自身の体への気づきを得ることがその後の運動機能獲得へ大きく影響することはいうまでもない。身体発達のためにも、自我境界の形成のためにも、自由に活動する余地や親との距離感を作っていく体験を赤ちゃんに与える必要があるだろう。


【養育者の身体的側面】 

1)骨盤腸骨部が圧迫される

産後は靭帯などの関節を構成する組織が緩みやすく、骨盤の上部を圧迫することで骨盤下部が開きや

すい。骨盤下部が開く方向に圧力がかかることで産後によくみられる尿漏れや子宮脱などが懸念される。このため長時間抱っこ紐を利用する抱っこは母体への負担も大きいとされる。昔から初めて抱っこやおんぶをする親は、素手で下腹に力を入れて抱っこしながら赤ちゃんとともに身体を微調整していくと良いとされていた。しかし、抱っこというのは紐に入れてするものだと思い込んでしまっている養育者もいる。道具に頼らなければ抱っこができなくなっている時代であるといえる。


2)腱鞘炎や肩こりなど身体に負担がかかる

素手で抱くことが養育者の身体的負担となっている。かつては、肘を曲げた位置で前腕に赤ちゃんを座らせるように抱き脇をしめるように力を入れる抱っこが普通にできていたが、近年は流行の抱っこ紐を使うのと同じように低い位置で抱っこをする人が少なくない。肘を曲げた状態であれば手首をほとんど使わなくても済むが、肘を伸ばすと手首で重みを支えなければならないので、手首に負担がかかる。肘を曲げたときは、手首より肩や肩甲骨を含む背中の使い方が課題になるが、その使い方がわからない養育者が増えている。これらの抱っこの最大のコツは、赤ちゃんの体重が少ない頃から徐々に慣れていくことである。その中で、赤ちゃんの成長発達に伴うしがみつきの力を見ながらお互いの力加減を練習するなど、双方が息を合わせて協働作業として抱っこやおんぶを練習していくのである。しかし、赤ちゃんが小さいうちから抱っこ紐に慣れてしまい、親子共にうまく身体を使えないまま長時間の抱っこをし続けると、腱鞘炎や肩こり、腰痛などになりやすい状況ができてしまう。

また、そうした時ももし交代で抱っこしてくれるような人たち(家族や兄弟、近所で見てくれる人)が親子の周辺にいれば問題は大きくならないが、地域コミュニティのつながりが希薄になっているため、赤ちゃんを皆で育てることができず、親の負担が大きくなっている。


3)おんぶできる身体感覚を持たない

そもそも前で抱くことに慣れ、目の届かない位置である背中におんぶすることは不安だという養育者は少なくない。また、おんぶをしてみようとするが、身体を前傾にすること、肩甲骨を内側に入れることを知らず、背骨が突っ立ったまま、膝を突っ張ったままでおんぶしようとしてしまい、赤ちゃんがもたれかかることのできる姿勢が取れない場合もある。そこで、おんぶをする前に、リラクゼーションや身体ほぐしをして準備に時間をかけなくてはならない状況が生じている。


【養育者の心理的側面】

1)赤ちゃんを抱いたまま下に降ろせない

抱っこ紐によっては赤ちゃんを降ろしにくいものがある。またうまく降ろす方法・技術を知らないまま子育てをしている養育者が少なくない。降ろすと赤ちゃんが起きるから泣くからと、赤ちゃんが寝ていても、家の中でも、抱っこ紐で抱っこしたままで、一日中生活する養育者が増えている。このような状態であると、身体的負担はもちろん、心理的な負担は大変に大きい。


2)ファッション重視の育児の広がり

子育てを一人でこなす養育者にとっては、周囲の写真や通りすがりの親子の姿がモデルとなっていると思われる。育児に関する雑誌やSNSでの情報は、以前と比較するときらびやかで母親が主体であり、赤ちゃんもアクセサリーの一つのように見えるほど子育てにデザイン性が求められている。

現在、最もよく見られる抱っこは、中高生がリュックを背負うが如く、低い位置の前抱っこであるため専門家が意識的に伝達していかない限り今後もこの影響は続くだろうと予測される。街中の親子の姿は、次世代を担う子どもたちのモデルにもなって、世代間連鎖が起きるだろう。


3.課題及び提言

1)両手の空くおんぶをファッショナブルな流行にしていく

本会グループページを開始してからしばらくして、さまざまなおんぶ紐やファッショナブルな結び方が考案されるようになった。とりわけ、昨年4月にオシャレなおんぶのプロモーションビデオを作成しyoutubeで公開

https://www.youtube.com/watch?v=0BEJvJK_CYo)した頃から、おんぶに関する動画の投稿が一気に増え、現在は相当数の動画が簡単に検索できるようになっている。また、メディアもおんぶを取り上げるようになってきた。両手が空くこと、ファッショナブルであること、身体が楽なこと、子どもの心身発達によいこと、防災に役立つこと、安価なことと揃えば、広報次第で、簡単にできるおんぶがファッションになっていく可能性はある。一方で、おんぶができない準備状態の身体に対しては、おんぶワークショップが必要な時代にもなっており、これらを母子保健の範疇で広げていくことは喫緊の課題であると我々は考えている。


2)組織化された研究開発

 本会が明確化してきたさまざまな抱っことおんぶをめぐる課題は、現場から発信された実体験によるものが多く、一般にエビデンスとしては十分とはみなされない場合がある。医療、保健分野の関係者と連携しながら現場で起きていることを学術研究としてまとめていく必要があるだろう。

 

3)啓発冊子や書籍の作成

京都府宇治市で活動している「子育ての文化研究所」では、『AKAGO』という小冊子に基本的な育児法をまとめた。本稿で指摘したような問題に配慮した基本的な背負い方やあやし方だけではなく、育児に関する文化を継承すべく活動している団体による冊子である。このように、養育者や保健師、助産師、保育士、教員、子育て支援者、医療関係者、ソーシャルワーカーなど、専門家にも一般にもそれぞれに向けた冊子や書籍の執筆、出版、インターネットの活用などの広報手段を至急、より多く開発していくことが望まれる。

(追記 その後、さまざまな形で、抱っこについての情報が流れるようになったが、それらの中に、適切とは言えない解説も少なくなく、むしろ懸念すべき情報が広がっているのが実際のところである)

4)メディア掲載

 メディア掲載のインパクトは大きい。これまでにもNHK等の番組、クーヨン、たまひよなどの雑誌等に非公式にアドバイスなどしてきたが、今後、さまざまな媒体に取り上げられるための工夫と努力が必要になるだろう。しかしながら、流行とは別に地道に養育者に届けていくことの方がより大切であることを確認しておきたい。


5)ネットワーク

 おんぶや抱っこに関心を持つ人々とFBグループページを中心としたネットワークをさらに広げ、勉強会などを実施しながら、刻々と変わる状況を把握し対応していくことのできる機動力のある多職種連携グループを作っておくことが必要だろう。


4.おわりに

おんぶで子どもを育てなかった世代が既に60代になっており、おんぶが日本から消えつつある。自然な形での親や祖父母からの伝承が難しくなっており、意識的な伝承が既に必要な段階である。抱っこにしても、従来では考えられないような抱っこの仕方をする養育者が出てきており、素手の抱っこがうまくできない養育者がいると考えられる。つまり、抱っこやおんぶを周囲の大人から「みようみまね」で学ぶことができなくなっているのである。そのような中で、養育者を対象に、一家言ある専門家の方々が、講習、研修、ワークショップなどを行っているが、それらが必ずしも親子の発達にとって良いとは限らない玉石混交状態になっていることが懸念される。また例えば、歩行が自立している幼児がずっと抱っこ紐に入れられていたり、子どもが小学生になってもベビーカーを持ち歩いて移動する親がいたりする日本の状況が、今後の子どもたちの成長にどのような影響を与えるのか、育児における道具の利用に関して再考する時が来ているのではないだろうか。

FBグループページ「抱っことおんぶを語る会」では、解説のためのパワーポイント作成、わかりやすい動画作成、抱っこ紐作成、ワークショップ開催、シンポジウム開催、日本各地に伝承されている抱っこやおんぶの研究、日本の抱っこやおんぶの変遷、育児雑誌に現れる抱っこ紐やおんぶ紐の広告や表現の変化、海外の抱っこやおんぶの状況の紹介など、さまざまな観点からの指摘を続けたことで、現在は、インターネット上でその内容が拡散されてきている。またNHKや新聞紙上などでのおんぶの紹介にもつながった。

(現在はオープンなまま活動を停止しており、それぞれのメンバーがそれぞれの形で活動している)

しかしながら、まだ町の中で見かける抱っこの多くは、親子の発達の促進にとってよい状態であるとは思われない。日本の子育てが、生活様式の変化やメディアの影響によって、急速に変化しており、それに対する関心が、学会等で研究者に取り上げられるに至るまでには、もう少し時間がかかりそうである。しかしながら、赤ちゃんの最初期の心身及び脳の発達は、臨界期的なものでもあり、今の赤ちゃん親子の発達を支えていくために、私たちは広報を続けていくことが必要であると考えている。抱っこにしろ、おんぶにしろ、不適切な形の継続は、赤ちゃんの動きを制限することになる。そのことを専門家が認識して、抱っこ紐やおんぶ紐を最低限度の使い方にしていくようにコメントしていくことが必要ではないかと考えている。

そのような中で、2016年12月7日(水)、武田は、東京大学発達保育実践政策学センターにおける第19回発達保育実践政策学セミナーにおいて、「社会環境の変化に伴る子どもの発達の阻害と求められる対応」と題した講演の一部でこの話をすることができた。

私たちは、本来、抱っこやおんぶのような子育ての仕方は、普通の人が普通に伝達していくものであって、特に専門家が介入したり、教えたりする類のものではないと考えている。今回の広報は、緊急避難的なものであり、目標は「普通に自然に子育てが伝わるコミュニティの再生」である。

どうか、赤ちゃんの抱っことおんぶのあり方が多くの人の関心を引き、健やかな親子の生活が保障されるように、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

※ カバー写真は、筆者らが作成したおんぶのプロモーションビデオから。
  https://www.youtube.com/watch?v=0BEJvJK_CYo 
この動画が出た2016年を境に、おんぶや抱っこに関する多くの動画が撮影されるようになりました。スピードが速くておんぶ紐の使い方がわかりにくい面がありますが、特別なおんぶ紐を購入しなくてもおんぶはできるということが伝わるようにと作成したものです。

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