プレイワークとプレイセラピーの邂逅
2024年8月10日は、日本のプレイワークとプレイセラピーが公に出会った記念の日です。東京プレイセラピーセンターの公開講座で、セラピストの方たちとプレーリーダーの方たち合同のプレイワークの半日研修がありました。
短い時間ではありましたが、私もワークショップに参加し、ご挨拶させていただきました。
双方の分野が学び合うことはとても大事なことだと思います。 これからの時代、子どもたちの遊びの専門家であるプレイワーカーが、心理治療としてのプレイセラピーとその理論について知識として学んでおくことは(実践に首を突っ込むことは、本格的に学ばない限りしないでほしいと思いますが)とても大切です。
また、子どもの心の専門家であるプレイセラピストの方たちにとって、自分たちのやっていることとは相当に異なるプレイワークの世界があるということには目を見開かされると思いますので、まずは現場で無心になって自分が遊ぶ体験をしてくださるといいなと思います。
お互いが手と手を取り合って、前に進んで行くことを願っています。
長く説明的になりますが、備忘録を兼ねて、ここまでの道のりを書きます。
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プレーパーク(冒険遊び場)やIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部の皆さんと関わり始めたのは2003年頃だったでしょうか。
プレーリーダーの皆さんが、
「遊びの理論がない、学術的なバックグラウンドが弱い」とおっしゃるのをしばしば耳にしました。
いやいやいや、心理学、精神医学の分野には、
アクスラインもいるし、ウィニコットもいるし、 遊戯療法(プレイセラピー)も成立して遊戯療法学会という学会まであるのに、
どうして、そこがつながらないのだろう?と思っていました。
つまり精神症状を出している子どもたちを治療する技法とその理論が確立しているのに、いわゆる普通の子、正常と言われる子どもたちの遊びの意義が充分に理解されていないのは、片手落ちだと思っていたのです。
というのも、「こどもの時間」(野中真理子監督)という映画にもなった埼玉県桶川市の「いなほ保育園」では、さまざまな特性を持った子どもたちが広い園庭を走り回って遊ぶ中でどんどん発達して、「普通の子」になっていく様子を見ていたからです。「週に一回数十分の治療」よりも「子どもたち同士での自然体験・日常生活」で子どもたちは極端な凸凹が修正されて、その子の個性が活かされるちょうどよい凸凹になっていく、というのを体験していました。
そのことについて本を書きたいなあと思っていましたが、自らの子育てと仕事で手一杯で余力がなく、忸怩たる思いを持って時間が経過していきました(『社会で子どもを育てる』(平凡社新書,2002)に軽く触れています)。
ただ、書籍執筆はできませんでしたが、
「子どもの遊びと大人の役割研究会」の活動に参加して、
日本心理臨床学会会長の村瀬嘉代子さんに、青山にあったこどもの城で遊びについて講演していただいたりしましたし、IPAで、子どもの権利条約第31条ジェネラルコメントNO.17 についての一日研修会を主催した先には、脳科学者の茂木健一郎さんに遊びについて講演していただいたりもしました。
そうこうしているうちに、スタジオジブリのスタッフがいなほ保育園の見学にいらして、2011年に北原和子園長の聞き書きで書籍を出版し、スタッフたちの保育園も作られました。
そして同じく2011年、私たちは、こども未来財団の助成金を得て、一年間調査事業に取り組むことができ、「プレイワーカーの育成に関する研究」を3冊の報告書にまとめました。当時、この3冊は、希望なさったプレーリーダーの方にお分けしました。その1冊がこちらです。
https://tokyoplay.jp/wp-content/uploads/2019/01/育成に関する研究_01.pdf
こちらには、イギリスの大学でプレイワークを学んでこられた嶋村仁志さんによるプレイワークの解説が書かれています。今はさらに深く学ばれて、多くの国際的に認められているプレイワーク理論を解説できる日本で唯一の方が嶋村さんですので、ぜひ、日本でもプレイワークがもっと広がるようにと思います。その活動は、こちら。私も理事をしています。(ちょっとウェブサイトの更新が止まっていますが。。。)
もう1冊は、大学の授業記録をまとめたものです。
この中には、非常勤講師として来てくださっていた臨床心理士の松島雅子さんに、遊びに関する心理学理論をまとめていただいたスライドが掲載されています。表紙と中身が分かれていますが、ファイルを添付しておきます。
この授業は、松島雅子さん以外に、現PLAYTANKの中川奈緒美さん、都内小学校教諭の山本幸佑さん、TOKYO PLAY の嶋村仁志さん、真庭中央図書館の西川正さん、セカンドリーク茨城の横須賀聡子さん、弁護士の神谷信行さん、ファザーリングジャパンの安藤哲也さんが講師の通年の授業でした。
当時としてはまだ珍しかったワークを交えたファシリテーションが面白く、この授業から大学内プレーパークの活動が起きたり、プレーリーダーになった学生、卒論でプレーパークを取り上げた学生などが出ました。
もう一冊は、子どもの遊びに関わる大人の役割をまとめた冊子で、私たちの研究成果を基に天野秀昭さんが執筆して下さいました。そしてさらにそれを発展させて、「子どもの放課後にかかわるにとのQ&A50」というプレーリーダーや学童保育支援員などとの共著を出しました。
https://tokyoplay.jp/wp-content/uploads/2019/01/「遊ぶ」を学ぶテキスト.pdf
これらの冊子や書籍の出版によって、これらをもとにした研修があちこちでなされました。
それでもまだ、「心理学上の遊び理論や治療としての遊びと、 一般的な外遊びの経験に基づく成果」をつなぐ活動は十分にできずにいました。
(精神分析理論における遊びについて解説をした研修用スライドは作成してあり、何回か講演してきました。また、教師教育学の中で、教育と遊びをつなぐことをしている方たちとつながって自主シンポジウムに複数回参加したりしました。でもまだまだです)
長い間、子どもの発達に遊びが大事と言っても、一般にはなかなか通じませんでした。近年になって、やっと子どもの遊びと学びの関係性が話題になり始め、さらに発達そのものに遊びが重要であるということが話題になり始めました(ああ、ウィニコットがもうずいぶん前に言っているのに。下記の書籍の翻訳者のお一人、大矢さんは、20歳の頃に大学で一緒に合宿に参加して、自由時間に「遊び」のようなワークを経験なさったことから、専攻を臨床心理学に変更なさった方。こうして御活躍なさっておられるのがとてもうれしい!)。
それで2022年12月も末になってようやく、臨床心理士の代表として、東京プレイセラピーセンターの湯野貴子さんと、プレイワーカーの代表として、TOKYO PLAYの嶋村仁志さんをSNS上でお引き合わせすることができたのです。そして翌年2月末日、やっと3人でリアルに顔合わせをしました!!
それから湯野さんが、嶋村さんの関わる港区のプレーパークに毎月出入りなさるようになり、一年半後の昨日、プレイセラピーのお仲間たちとの公開講座に、嶋村さんが登場したというわけです。
あ~~~~ここまで長かった! し、まだまだこれから。
プレイワーク(日常の遊びを起点とする)とプレイセラピー(治療を起点とする)は同じではないし、それぞれがそれぞれに発展する必要があるけれど、お互いに学び合えることはとてもたくさんあるのです。
プレイワークは、町にいる子どもたちが遊ぶことを支える大人たちが経験を積み重ねる中で、議論し、考察し、作り上げた理論と実践。
プレイセラピーは、精神的な課題を抱えた子どもたちの課題解決のために治療技法として開発された理論と実践。
今の日本社会は、町の子どもたちが多く病んでしまう状況になっていて、だからこそ両方が必要なのです。
だから、つながってほしいのです。
セラピストとワーカーが両方の立場から、ど真ん中にある「PLAY]の意味の捉え直しをしてほしいのです。
私はつなぎ役で、今もなお、双方のプレイヤーになったり、これ以上つないでいく余力は現時点ではありませんが、動き出した流れが止まらないように、うまく流れるように、これからも引き続きサポートしていきたいと思っています。
関心を持った方、どんどんお互いに近づいてください。つなぎます。
どうぞよろしくお願いいたします。
※ 写真撮影 山田一毅氏 2024年8月2日 新潟県長岡花火大会
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