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セルフスタディと教科教育

2024年5月26日(日)全国大学国語教育学会総会@鹿児島大学のラウンドテーブル『個体史研究とセルフスタディ』が開催された。今後、セルフスタディが教科教育にも導入されていくだろう。国語教育におけるセルフスタディの最初期の記録として、残しておきたいと思う。

この「個体史研究は、海外の研究者からどう評価されるのか ―セルフスタディとの対話― 」という一連の研究は、北海道教育大学幸坂健太郎准教授をリーダーとする文部科学省科研費基盤研究グループによるものである。
26日のラウンドテーブルはその総括といえるものであり、岡山大学から宮本浩治教授、佐賀大学から竜田徹准教授が登壇し、同じくアメリカからノーザンミシガン大学のクリスティ・エッジ教授、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕准教授をゲストに迎え、私は東京学芸大学研究員として指定討論者を務めさせていただいた。

登壇者ではなかったが、このラウンドテーブルの功績者はもう一人いる。
アイスランド大学から参加なさっておられた西田めぐみ博士である。
西田氏によるアレンジメントによってクリスティが参画してくださった。
西田氏の日本と海外をつなぐ役割は、セルフスタディの世界においてすでによく知られている。

今回、同時通訳者2名をオンライン上に配し、アメリカとアイスランドとのハイブリッド開催で参加者も交えた討議をして、まさに「ラウンドテーブル」を実現したというのは、教育系学会多しと言えども(300余りあるという)これが初めてではなかっただろうか。一般参加者は登壇者5名含めて20名ほどと少数であったが、教科教育・国語教育とセルフスタディの歴史の黎明期を形作る非常に密度の濃いラウンドテーブルであった。

そもそも私の関与の始まりは、2022年10月に私が北海道教育大学のFD研修に講師としてうかがったことからだった。そこに参加して下さっていた幸坂先生からすぐに連絡をいただいた。幸坂先生は、11月に北海道から上京なさった。渋谷でお会いしたのだが教師教育に対する考え方について意気投合してよくしゃべったのを覚えている。上京の目的は、セルフスタディに関する研究をしたいという相談だったのだけれど、難しい課題設定にとても行き詰っておられたときで、正直、その時点では私もこのような会が開催できるまでに状況が好転するとは夢にも思っていなかった。そもそも私は国語教育の専門家ではなく、セルフスタディもまだ味見程度しかしていない輩であったからである。この一年半の展開は、幸坂先生の柔軟な研究姿勢と緻密な実施計画と行動力によるもので、傍で見せていただいていた私は研究者たるものこうあるべきなのだと脱帽したのだった。

そのお人柄と企画力、それを支える研究力に集まってこられる先生方も温かく、準備は着々と進んでいった。

ラウンドテーブルでの日本の竜田・宮本という2人の先生方のセルフスタディの解説、個体史と個体史研究の解説は、非常に明快・簡潔でわかりやすく、一方、クリスティは、極東の国、日本の70年も昔から続く個体史と個体史研究という国語教育の方法論、故広島大学野地潤家教授が提唱した「現場実践を研究史に残す」という熱情から生まれた伝統を受け止め、さまざまな文献を探し当てて、幸坂先生や西田先生、わたしとの議論のを土台に、セルフスタディとの対比を試みて下さった。そのまとめの動画は、研究としての要素をしっかりと抑えつつも、自らの在り方を問うセルフスタディでもあり、とても心を打つものだった。
それらを受けて話された渡辺貴裕先生のプレゼンテーションは、教育方法学者であり多彩な教育方法の実践者でもある渡辺先生の真骨頂を発揮したものだった。前日に出版されたばかりの『セルフスタディ入門』には、セルフスタディの口頭発表やシンポジウム、ラウンドテーブルなどの持ち方についても解説した章があるが、日本の学会大会としては非常に進歩的な形でこの会は持たれた。殊に渡辺先生のプレゼンテーションは、従来の形をとりながらも、実際は参加者を巻き込みつつ自在に思考をめぐらす機会を与えるすばらしいものであった。

その後、参加者を交えた質疑応答がなされた。5名からの質問はとても的を射た鋭いもので、皆の役に立つ内容だった。

渡辺先生のプレゼンテーションと参加者による質問は、
私が最後に指定討論で話そうと考えていた内容を先取りするものだったので、おかげさまで私は、早口で広範にわたる内容を話すことができた。
下手をすれば取っ散らかるような状態でお伝えしたのだけれど、それらを参加者が理解するための下地が事前になされていたために、伝わったのではないかと思う。

前日に鹿児島入りした私は、幸坂氏によって非常に丁寧にまとめられた皆さんの資料を宿で読み、プレゼンテーションの内容を考えた。
まず、数回以上にわたるzoomでのクリスティとのディスカッションのあと、幸坂氏に送ったコメントをまとめた。
 次に、すでに2017年の日本教師教育学会で、セルフスタディの今後の課題としてまとめたものや、2022年12月の電気情報通信学会「思考と言語研究会」招待講演「自らの実践から生み出す研究の方法論~セルフスタディの理論と実践」でまとめたことが、この研究においてどのように実現してきたかを確認する作業をおこなった。
 それらを現在の状況と照らし合わせて再構成し、今後2つの方法論が互いに刺激を受けながら弱点を克服し、どう発展していくとよいかを論じた。指定討論の内容は、皆さんのお役に立つものになったのではないかと思う。
 音声がないと見ただけではわかりにくいと思うが、当日の自分のスライドをアップしておく。 

 ちなみに、今回のラウンドテーブルのプレゼン資料は、指定討論者である私のもの以外はすべて、事前に日本語と英語に翻訳されて用意され、双方の話者に提供されていた。半分は動画になっており、それを西田先生がチェックするという形で作られたものであった。
 しかし、私の話は、指定討論ということだったので、当日初めて皆さんに届くものであり、私のバックグラウンドである臨床心理学やソーシャルワークの概念を含むかなり広範囲にわたる内容になった。早口でもあったので、同時通訳の方たちはご苦労なさっただろうと思う。セルフスタディの今後の課題についても触れたので、クリスティにしっかり伝わっていればいいと思うが、どうだろうか。

 このラウンドテーブルの記録は、幸坂氏によって、改めてまとめて公開されるだろう。

 2024年度に入ってセルフスタディに関する2冊の書籍が相次いで出版され、それらの出版記念セミナーも6月8日(土)と、6月22日(土)に実施された。まさに今年はセルフスタディ元年になるのではないか。

 この記録もまた、なんらかのかたちで後世の役に立つ記録となるようにと願っている。野地先生の個体史研究のアクションが70年後の私たちを刺激しているように。

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