『中つ火』を囲む輪が広がる予感 【週刊新陽 #47】
突然ですが、ネーミングって大事だな、と思う今日この頃です。
これまでも週刊新陽で何度かご紹介しましたが、新陽高校では教職員が対話する場を月に1回設けていて、それを『中つ火を囲む会(通称:中つ火)』と呼んでいます。
中つ火とは焚き火のこと。職員会議を廃止し、焚き火を囲むようにフラットに対話する会を全職員で作りたいと思いネーミングを悩んでいたところ、国語科の髙橋励起先生が「焚き火のことを、中つ火って言うんですよ。」と教えてくれました。
『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史(ポーラ・アンダーウッド著、星川淳翻訳)』から来ているらしいのですが、「中つ火を囲むっていいね!」と即決定。今では、新陽の先生たちも「この前の中つ火で話した・・・」とか「来週は中つ火があるから・・・」と会話するほど、当たり前に使っている名称です。
先日、「中つ火ってなんですか」と放送作家の方に聞かれ、名前の由来をお伝えしたところ「ネーミングが秀逸ですね!」と褒めていただきました。
馴染みやすいけどちょっと普通じゃない、オリジナリティある名前が付いたことも、中つ火を囲む会が新陽で定着してきた所以かもしれません。
対話する学校ツアー
校長としての仕事は校内に止まらないもので、先日は、北海道とは遥か遠い九州へ行ってまいりました。
行き先は、福岡女子商業高等学校と東明館中学校・高等学校です。
福岡女子商業高校の柴山校長は、日本一若い校長としてメディア等でも取り上げられていますが、実は新陽の先生だったことがある方です。『真の商業教育の創造』に挑戦し今年度より校長を務められている、校長同期でもあります。
東明館は、黒木校長と神野副校長が率いる佐賀の中高一貫校。昨年夏は甲子園に出場した野球の強豪校でもあります。神野さんはAI型教材Qubenaの生みの親としてEdtech業界でも有名で、多様な子供たちを誰一人取り残さないためにICTを活用するGIGAスクール構想の立役者のお一人です。
(こう見えて全員、高校の校長と副校長です・笑)
まずは朝一、福岡女子商業高校を訪れ、教職員の皆さんが集まる研修会へ。
1時間目が始まるまでの40分を、先生たちが対話し学ぶ時間にしようという柴山校長の新企画だそうで、記念すべき第1回に神野さんと私がゲスト参加することに。
各校での取り組みを簡単に紹介したあと、先生方からの質問に答える形で各校での校則見直しへの動きや生徒指導のあり方、次代に向けて教職員がどうやって学んでいくか、などについて対話しました。
研修後も数名が残って話しかけてくださって、福岡女子商の先生たちの熱意が伝わってきます。
午後には佐賀県基山町へ移動し、東明館の職員研修に柴山さんと私も参加。神野副校長が企画した『自由会議』と称したそれは、話し合いたいテーマを先生方が出し、自分が参加したいテーマのテーブルに移動するというオープン・スペース・テクノロジー(OST)に似たスタイルです。
・空き教室の使い方
・下校指導のあり方について
・教員の食事環境
・10年前と10年後
・学校の目指すべき姿
など、さまざまな視点でのテーマで各テーブルの対話が広がり、そして深まり、3時間があっという間に過ぎていました。
今回、2校を巡り他校での対話に参加したことは、とても貴重な体験でした。どちらの学校でも、どうやったら学校が良くなるか、どうしたら生徒たちが生きたいように生きられるか、真剣に向き合う先生たちの姿があり、九州の先生たちの情熱に「北海道も負けていられない!」と鼓舞されました。
そしてオンラインを使えば学校が混ざってのミーティングも設定しやすいので、合同研修などを実施しよう、と神野さんと柴山さんと話をしています。
新陽が目指す新しい学校モデル
福岡女子商業と東明館でも感じた対話の重要性ですが、どうやら全国の学校でも、この対話を実践する動きが広がりつつあるようです。そこで注目されているのが『学習する組織』の考え方。
実は、新陽でも対話やリフレクションを取り入れるにあたって参考にしているのが『学習する組織』のコンセプトです。
まだまだ試行錯誤、現在進行中の新陽の取り組みですが、『学習する組織』をどうやって学校で実践しているのか知りたいというお問い合わせが増えてきたこともあって、「きょういく」を探究し創造するコミュニティ『先生の学校』のオンラインイベントが開催されました。
土曜の夜にも関わらず、全国の教員の方や学校関係者でない方まで150名以上のお申し込みがあり、このテーマに関する関心の高さをあらためて実感しました。
私からは以下のキーワードを中心にプレゼン。
# 校訓『自主創造』
# スローガン『本気で挑戦する人の母校』
# ビジョン2030『人物多様性』
# 学習する組織
# 中つ火を囲む会
特に、『学習する組織』をなぜ始めて何を目指しているか、と、『中つ火を囲む会』を具体的にどのように実施しているか、という話をしました。
中でも一番言いたかったのは、生徒たちに最良の教育を届けるために常に学習し協創する集団でありたいと思っているということです。お互いを理解し自由に意見し合えるチームであることが重要で、そのために対話は欠かせません。
実は私が、この対話の重要性を強く感じるようになったのは、フィンランドの教育ツアーに参加したことがきっかけです。『先生の学校』を運営する三原菜央さんが主催したツアーに2019年に参加し、ヘルシンキの保育園、小学校、中学校、高校、職業訓練校、大学とあらゆる教育機関を視察しました。
フィンランドの職員室は、どこもオープンで和やかな雰囲気。先生たちは授業が終われば家に帰るなど、働き方そのものも日本とは違いますが、もっと違うのはマインドでした。
子どもたちがWell-beingであるために、先生たちもWell-beingでなければならない。だから職員室も居心地がいい場所であるべきだし、執務をするというよりは互いがコミュニケーションを取り、情報やアイデアをシェアする場所、といった感じです。
先生同士の対話こそ、よりよい教育を実践するために欠かせない。
世界幸福度ランキングやOECD世界学習到達度調査でフィンランドが上位になる秘訣は、教員同士や教員と生徒の対話にあるのではないか、と勝手に思っています。
チームになる学校の記録
こちらは、新陽のスクールミッション(目的、存在意義)です。
本気で挑戦し自ら道を拓く人の母校。
常に新たな改革に取り組み、高校教育を再創造する。
このミッションに従い新しい取り組みをすることで、様々な人や企業から声をかけていただき挑戦し続けることができているので、その取り組みから得た知見や生まれたアイデアは世の中に還元したい、と思っています。
自分たちが後々振り返るためにも、そして多くの人に知っていただき少しでもヒントになれば、と、挑戦の記録を残したいと思っていました。しかも、できれば内部の人間が記録したものではなく、客観的に俯瞰して見た新陽の記録であれば尚良いと。
そしてとうとう、この度、新陽の教育再創造の歩みを、NewsPicks EducationのWebサイトとnoteで追っていただけることになりました!『学校変革の歩み』のページにて約1年にわたり掲載される予定です。
まずは3本、記事がアップされていますので、ぜひお読み下さい。
【#1】多様性を尊重する教育と、学校変革に挑戦する札幌新陽高校の起源
【#2】リーダーではなく、一人ひとりのリーダーシップが組織を変えていく
連載のため、様々な先生や新陽の生徒の視点もお届けできると思います。『週刊新陽〜校長室から』と合わせて、多くの方にフォローいただけたら嬉しいです。
【編集後記】
来週はいよいよ卒業式。北海道のほとんどの高校では3月1日に卒業式を実施します。例年通りにはいかない卒業式ですが、新陽の先生たちは3年生をしっかり送り出してあげたい一心で協議を重ね、何度もプランを練り直し準備してきました。
今週のテーマ『対話し学習し協創する学校』の中心は、やはり学習者である生徒です。たった3年間という短い時間ですが、生徒が自分らしく高校生活を過ごし自分で道を切り拓いていける場であるために、学校組織は常に学び変化していきたいと思います。
なお来週の週刊新陽は、久しぶりに生徒インタビューを掲載予定です。お楽しみに!