
濃 霧 (詩)
濃い霧の中
ゆっくりと下り坂を曲がると
突然赤が目に入る
(そうっと止まると前に二台)
ライトも霧に吸い込まれ
ただ浮かんでいた赤
あの赤の奥に螺旋の星雲がある
帰っていくヒーローはふり返りもせずに言った
怒りを溜め込むな と
声はくぐもっていて
怒りを溜め込め と言ったのかもしれなかった
霧の中にまだたたずむあの英雄像は誰だったか
彼は今でも真夜中には動き出すのか
独立はもう夢の夢だとしても
いつか高い塔の上から飛び降りる
霧が晴れる
背の高い壁が一面だけ残された廃墟がある
廃墟なのにがれきはない
がれきは持ち去られ誰かの家や塀に使われたという
所在なさげに立つ壁の向こうに海が見える
いいなと思ったら応援しよう!
