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読書感想文・図書館

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読んだ本のまとめです
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2023年7月の記事一覧

マンボウ最後の家族旅行

「どくとるマンボウ」のシリーズは昔よく読んだのだが ふと思い出して最後の作品を読んでみたいと思った。 大腿骨を骨折して入院し、 リハビリをものすごく頑張って退院して、歩けるようになった。 そうしたら今度は肺炎で入院。 80歳くらいの時だから 大腿骨骨折から歩けるようになるなんてすばらしい。 娘さんが鬼のように厳しくリハビリさせていたという。 誤嚥性肺炎を防ぐための口をあけたり発生させたり。 少しは階段も登れるように歩くことも。 そして、ハワイ行くから、とか スキーに行く

傲慢と善良

婚活をしたことのある人なら誰でも 微妙に当てはまったり ずきっ とか ぎくっ とかそういう感覚を持つかもしれない。 指輪も貰って、結婚式場も決まって 退職した翌日に、失踪してしまった女性 真実 この、まみさんという名前が、読んでいるうちに 「真実(しんじつ)」という言葉と重なってくる。 彼女は嘘がつけなかったし、ついてはいけないと思っている。 親に支配されていたから。相互依存だったから。 親をごまかして遊びに行くこともできなかったし 飲み会で遅くなったら、 次から両親とも

萩尾望都作品

断捨離を考えつつ 本をいろいろ並べて写真を撮るのを楽しんでいる。 もう一度読んだら処分しようと思うものもあるけれど。 あちこちの本棚から集めたら 萩尾望都作品がこんなにあった。 名作「ポーの一族」は買っていなかった。 私は彼女のSF作品が好きだ。 「11人いる」や「スターレッド」 「銀の三角」など。    (「銀の三角」はハリウッドでいかが とか勝手に思ってしまう) 萩尾望都作品は、今回は捨てない。捨てられない。 それはそれとして 文庫サイズになってしまった漫画の何とも

失われた町

図書館の、三崎亜記さんの書棚を撮ってみた。 これ全部読んだとは言えないのが悲しい。 この人の作品は、普通からずれた状況が少しだけあって でもその影響は少しではない、という何か不思議な感じがする。 「廃墟建築士」や「鼓笛隊の襲来」も 良いんだけれど、 特におすすめは「失われた町」である。 30年に一度、町が消える。 人だけが消えるのである。 予感する人もいて逃げ出そうとしても逃げ出せない。 連絡もなかなかできない。 逆に、修学旅行や出張などで あらかじめ「その日」に町にい

サーカスの馬 安岡章太郎

40年くらい前の教科書に載っていた「サーカスの馬」 と思って検索したら 今でも掲載している教科書があるようで ずいぶんいろいろな「よみ」があった。 「まぁいいやどうだって」というのが口癖の 勉強もやる気がなくて よく叱られ クラスの仲間たちとも、そんなに親しみも感じていない少年が サーカスのテントの裏につながれている背中が湾曲した馬に なんとなく自分を重ねてみる という話である。 たまたまそのサーカスに入ったら その馬が、サーカスの花形であることがわかる。 びっくりし

読解力には自信がない

大学生の頃  パウル・ツェランを読んでいる人がいて 見せてもらっていたら、 ふっと入ってきた先輩がその詩を見て言った。 「糸の太陽たち」という表現。 これって木漏れ日のことだよね、素敵だね。 私は何も考えていなかったのだった。 何もわかっていなかったことが衝撃で 今でも、少しハスキーな声を覚えている。 芝居もよく見ていたが 私は演出などを俯瞰で観ることができずただ 感情移入してしまうのだった。 流れ的に変な発言があっても、「そのキャラとしては」 という見方になってしまう

戦争が街にやってくる

絵本である。 美しい温室は蹂躙される。 「戦争」には、心臓も心もないので、やっつけられない。 戦争は終わっても、傷が残る。 心にも体にも。 絵が美しかった。

花々  原田マハ

連作短編。 沖縄の与那喜島に流れ着いて暮らす人々。 そこから出て行って、東京で仕事三昧の女性。 生きていくって一本道ではなくて 選ばなかった道のことを気にしながら暮らしていくから。 ダイビングショップでアルバイトをしている純子は 認知症になった母に 「あんた誰?・・・  今すぐ出ていきんさい」と言われて、 ぷっつり心の支えが切れてしまい、どこにも拠り所がない と思って放り出してきたのだった。 島にいると「安住」という言葉が思い浮かぶ。 そんな風に始まった話だけれど 小説

一晩経ってよく考えると スカーレットの物語は死に満ち溢れているのである。 アルバートも恐怖心をあおられると切れて その辺を爆発させたりするのである。 ディストピア社会では死はありふれ過ぎている。 最近の我々の社会もである。 そういう死に慣れてはいけないと思ってしまった。

ショートショートの広場

「ショートショートの広場」は小説現代などで募集していたものを 星新一が選んだものである。(その後 阿刀田高) 本当に短い作品が多くて、そしてわかりやすいものが多かったので 息抜きとしてよく紹介した。 昔話によくある「三つのお願い」をモチーフにしたものなどは いろいろな種類があって、楽しかった。 例えば、 定番の、「美貌 お金 結婚相手」を望んだ女が 実は漂流して無人島にいた とか 40万回願いをかなえると言われた男が 「とりあえず上司を殴ってこい」と言いながら 何を頼も

スカーレットとブラウン

大災害が続いて、ロンドンは沈み、小さな島だらけになってしまった世界。核戦争後、みたいな言われ方はされていなかったと思う。 けれどわけのわからない巨大化した猛獣がいたり 鋭い歯をもった巨大な鳥がいたり 〈堕種〉と呼ばれる異形の者たちが住む荒野がある世界だ。 そんな世界だが、防護壁で覆われた町がいくつもある。 その中で昔ながらの暮らしをしている人たちもいる。 町に住んで、普通に働いて暮らす人たち。 その町の中でも、うっかりさらわれたら奴隷や何かに売られるし 金品を取られる人も

きつねとぶどう

子ぎつねがお腹が空いたと泣くので 母ぎつねは、ブドウを思いつくのである。 巣穴からはだいぶ離れていたけれど 母ぎつねは無事、子ぎつねの待つ巣穴の近くに戻ってきた。 ブドウが重くて一休みしたときに 猟師と犬たちの声がする。 子ぎつねを逃がさなくては と 母は「逃げなさい、山の奥へ」と叫ぶのである。 何年も経って、母を探しながら生きていた子ぎつねは 昔の巣穴のそばで、ブドウを見つける。 ブドウはとてもおいしくて、 子ぎつねはいろいろと腑に落ちるのである。 物語の最後は

ビワの実 坪田譲治

金十は木こりである あるとき山の中で桃かと思うほど大きいびわの実をみつける。 せっかく見つけたその実を、食べるまでの話も長い。 食べれば 夢のようにおいしくて 気づけば種しか残っていなかった。 金十はそれを庭に埋める。 すると、あっという間に芽が出て育ち 実をつけるが 何十羽と飛んできた鳳凰がみんな食べてしまう。 本当にもうないのか、と失意の金十が探すと 葉の陰に、一つだけ残っている そしてどんどん大きくなる 最後には西瓜を超えて樽のように ビワを守るため、金十は木材